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―厨房―
――さあ、一体誰が。
[オーブンの中を時折見ながら、ぽつりと洩らす。
誰が使ったのか、先程まで厨房には甘い香りが漂っていた。しかし今は大分薄くなり、その代わりに香ばしいチーズの香りが辺りを支配する。
椅子に座り頬杖をつく彼女は傍目には休憩を取っている風に見えたかもしれない。けれど頭の中はちっとも休まってはいなかった]
―ニ階・客室―
[ 扨、青年は部屋に戻れば武器を手に取らなかったのは何故かと自問する。自らが武器を有する事を少女に知られたくなかったが為か、手にするのが恐ろしかった為か、将又過去を想起させるが為か。理由は幾らか浮かべど正解は見付からない。
彼の手許にあるのは、護身具にも成らぬペーパーナイフと古びたジッポライター。此れで何が出来ると云えようか。
天に輝く月は目の覚める様な美しさを魅せ、射し込む光を受け卓上に置かれたナイフの刀身が鈍い光を放つ。吐息を一つ零せばライターをポケットに仕舞い込むと、立ち上がり頭の後ろに腕を回し思い切り伸びをした。]
前いたところは……あんまりいいところじゃ無かったよ。
汚くて、狭くて、怖いことばかり。
でも、母さんがいた頃は楽しかった。
[その頃は少なくとも、信じられる人がいた。
母のことを思い出して、涙腺が緩むのを隠したくてうつむく。
涙を堪えて食いしばる唇が、次のローズの言葉に思わず開いた。]
あなたが……?
[思わずぱっと顔を輝かせてローズを見上げ、その後逆に警戒を見せる。]
神父さんが、嘘をつく人もいるって言ってたわ。
メイは……信じられるかなって思うけど、あなたのことはまだわからない。
……部屋、こもってても、仕方ない、かぁ。
[小さく呟いて。取りあえず、下に行こうかと思い、部屋を出ようとして]
……禊……。
[何故かふと、頭を過ぎった言葉。それを、きつく頭を振る事で振り払い、部屋を出る]
―→広間―
[何となく気は進まなかったけれど、一人で居るよりは集まっていた方が、と。
そう思い扉を開けると、銀髪の先客があり]
こんばんは、コーネリアスさん。
[ごく普通の挨拶。
そして広間を見渡して]
……ローズは、来ていないんだ…。
[捜しに行くべきだろうか?とも思ったが行き違いも困ると。
そう行き着いて手近な椅子に腰掛ける]
―脱衣所―
[話を聞いて、少し、自分の生活を思い出す。]
お母さんは……
ん、大変だったのね。
[それから、警戒の色を強くした少女に、苦笑して]
そうね。あんまり話してないもの。
わたしは…それに、この力が好きじゃない。命を縮めるんですって。だから狼を見つけたくないのかもしれないわね。
[ウェンディを抱きしめながら。
ふと、思い出した事がある。
あの時口にした言葉。確か……]
……では……宿題……。
『ばらの下で』……
答え合わせは……私の気が向いた……
[小声でぽつりぽつりと呟き。]
答えが……合っていたら……ちょっとした、ご褒美……。
何が、欲しいか……。
[何故今頃になってそれを思い出したのか、気付いた。
私は、まだ]
答え合わせを、していない。
[足早に部屋を出て、階段へ。
二、三段降りたところから、勢いをつけた跳躍で一気に残りの段を飛び降り、着地する。
……以前はこれをやって気づくと、血相変えて飛んできた者は、今はいないのだと。
ふとそんな事を考えて]
おや。
[その姿を見て、なんだかほっとしたのか、軽く会釈をして迎え入れる。]
…あの方なら、先ほど庭園で見ましたが。
[あの女のことは、名前ですら呼ばぬほど。]
命を、縮める?
死んじゃうの?
[少女の目が大きく見開かれる。昨日のメイの声を思い出す。
力を持つと言うことは重いのだ。]
力を使わないこととか、出来ないの?
使いたくないなら、使わなければいいんじゃないの?
[目の前の女性がもし、本当に人狼を見分ける者だとしたら、彼女の力は自分にとって嬉しいものだとはわかっていたけれど。
敢えて尋ねたのは、自分がもしその立場にあったらと考えたから。]
[ 行く宛も無しに廊下を歩んでいれば丁度メイが階段から跳び下りる様を見留め、上から半眼で其の姿を見下ろす。]
……なーに、危なっかしい事やってんだ。
正しくはね、なんだか少しずつ、身体が死んでいくらしいのよ。
毒素というか……合わないんですって、身体に。
端っこからぼろぼろ崩れてしまうことになるの。
薬もあるんだけどね
[彼女の言葉も、やさしいと思う。
だって、知りたいはずなのに。]
ん、それがね。できないのよ。
なんだろう……血が騒ぐっていうのかしら。どうしても調べないといけないって思っちゃうの。
それにね……もし調べなかったら、皆が死んでしまう。そんなことにはしたくないのよ
[わたしは小さく微笑みを作る。]
ウェンディ。
[意を決して、切り出す。]
私には、話しておかなければいけない事がある。
貴方に向かって吐いてきた嘘の事を。
私が、あの男に抱いてきた感情の事を。
……もしかしたら、この話を聞いたら貴方は私を嫌うかもしれない。
それでも、聞いて欲しい。お願いだから。
[そして、ウェンディの*返事を待つ。*]
起きたら居なかったんで、ちょっと心配で…。
[答えを返す彼の様子には気付かぬままで]
…庭園?
……一人になりたかったのかな…。
[昨夜の出来事を思えばそれも仕方がないと考えて]
貴方は何故此処に…?
ん……?
[上から聞こえた声に、くる、と振り返って]
別に、珍しいことでもないけどー?
結構、いつもやってるし。
[軽い口調で、さらりと返し]
…いえ、なんとなく人恋しくて。
[肘をついて組んだ手に、目を伏せ。]
義兄を殺した人狼とやらが居るとしても、僕以外全員…というわけでもないでしょう?
こうして言葉を交わしていた方が落ち着きますし。…一人で居るよりは安全な気もいたしました。
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