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ええ、それが…
吊り橋の向こう側に倒れていらして。
[メイの言葉には困ったような顔で頬に手を当てながら、やはり小声で説明を始める。見ての通り酷い怪我で、見つけた時には意識を失っていたこと、泊まっている男性陣がここまで彼を運び、手当てをしたことなどを大まかに。
途中入ってきた少年に気付けば、小さく会釈をした]
ん……ありがとね、トビーくん。
[ホットミルクの甘い香りにふ、と表情が緩む]
そういや、朝ご飯食べてから、なんにも食べてないんだった……。
[失敗しっぱい、と呟きつつ。
温かな湯気の立つカップを手に取り、そっと口をつけ]
アーヴァインさんじゃないのね。
[メイの言葉に、少しだけほっとする。
使用人の少女とけが人の方へそっと近付いた。
毛布にくるまれて、体の方ははっきりとは見えなかったが近く迄くると間違いなく男であることが判る。
寄せられた眉と、切れた唇が痛々しかった。
彼はどうやってこの怪我を負ったのだろう?]
そっか……大変だったんだ。
[ネリーの説明に、小さく呟く。
それだけの騒ぎがあったのに全く気づかずにピアノを弾いていたのだから、ある意味凄まじいのだが、それには気づいた様子もなく]
……何が、あったんだろうね?
[誰に問うでなく、小さく疑問の声をもらす]
すみませんね。
担架に使う棒をそこで探していて、鍵をかけ忘れたんですよ。
いやあ、うっかりしてました。
[手には赤錆の浮いた鍵を持ち。微笑はいつものまま。]
[良い香りのするミルクを渡してくれたのが、先ほどの少年だと気づいてヘンリエッタは微笑んだ。]
さっきはありがとう。
[言って、手の中のマグカップに視線を落とした。]
……これも、ありがとう。
[冷えた体にミルクが滲みていくのがわかる。
思わずほう、と息を吐いた。]
ええ、そりゃそうですよ。
開け放しておいたら、怪我の元ですから。
[鍵を持った手をひらひらさせながら]
あ、そろそろそこを閉めたいのですけど。構いません?
[少年の運んできたホットミルクに視線を移す。客人の好意を無駄には出来ない。それに丁度疲れていたのもあって、礼を言って受け取った。甘い味がふわりと広がる。
メイの声には、やはり分からないと首を振る]
随分、怯えていらしたようですけれど…
[苦しげな声が脳裏に蘇る]
[手に取られていくカップに少し安堵しつつ、大人しく皆の話に耳を傾ける。怪我人がいる事に気付いて直に湯を沸かしにいった彼には知りえなかった事が、ネリーの話にはたくさん含まれていたから。]
……そっか…。
[村と館の途中で、こちらを向いて倒れていた、怪我人。
そのことが示す危惧――村で何かあったのでは、と心が騒ぐ。
けれど、夜の山道、ましてやどんな理由であんな酷い怪我を負ったのかもわからない人を見た直後では、村へとは帰れずに。
ただ、静かに、ミルクを甘さを味わって。]
[アーヴァインの好意に甘えて、再び客間へ。
靴を放り出し、ベッドに横たわれば甘く誘う夢魔の囁きに耳を傾けてしまう。]
[そして目覚めれば闇夜。すっかり日が暮れたことに気づき、少女は溜め息を吐く。]
――いい加減そろそろ起きなきゃ…。
[ベッド上、体を起し足の痛みに顔を歪めて。慣れた手つきで傷口を手当する。
再びくたびれた靴を履こうと、床に手を伸ばすと。気付く真新しい差し入れ。]
これ…アーヴァインさん…が?
[首を傾げながらも手に取り新しい履物に足を入れる。まるでサイズを測ったかのようにしっくりと来る履き心地に、少女は顔を綻ばせて]
お礼…言わなきゃ…
[音もなくベッドから降りると、羽根がひらりと舞い落ちるような足取りで、客室のドアを開け廊下へ]
客室→広間へ
[暫くまた、呆然とその物騒な室内を見ていたが、牧師の声に我に返る。]
…えぇ、そうですね。
このようなものが、簡単に手に触れられるところにあるのは良くないとおもいます。
怯えてた……?
よっぽどだね、それじゃ。
[大の男が怯えていた、と聞かされれば、余程の事があったのだろう、というのは想像に難くなく。
同時に、村で何かあったのだろうか、という不安も感じながら]
何があったのか、本人が気がついてから、聞ければいいんだけど、ね。
[ため息混じりに呟いて、ミルクを味わい]
―一階・廊下―
[ 風呂から上がれば取り敢えずは広間向かおうと、静けさを取り戻した廊下を歩む。濡れた前髪は重みを増して額に張り付き、水滴が一雫、零れ落ちた。]
あー……、面倒臭い。
[ 呟き、肩に掛けた白いタオルでガシガシと乱暴に頭を拭く。]
[そういえば、と男性のほうに近寄る少女のほうへと目を移し]
そちらの方は…
お客様、ですか?
[カップを両手で包み込みながら、尋ねる]
[どうやら食事を抜いていたらしいメイに、ビスケットか何かも持ってくればよかったと思うも、何処に何があるかなんて知らなくて。いや、それ以上に、勝手に持ち出せなかっただけなのだけれど。
赤毛の少女のお礼には、年が変わらなさそうなのもあって、ちょっとぶっきらぼうな言葉を返す。]
ううん、これくらい…たいしたことないから。
[それでも少し照れくさいのか、カップを覗き込むように俯いて。]
[広間へ入ると、アーヴァインの姿はなく。
変わりに年端の変わらない少女と少年、そして僅かに上であろう少女達と、横たわる青年の姿が視界を染める]
こんばんは…。
お邪魔しても宜しいかしら…。
[ドア口に佇み、そっと中を窺いながら声を掛けた。]
このようなものが何故ここにあるのかは、いずれ話す機会もあるでしょう。
そのうちアーヴァインさんから話があるかもしれませんが、ね。
[くるくると鍵を手の中で弄ぶ。]
ああ、それから。
疑問に思ってるでしょうから答えておきますね。
それ、アーヴァインさんの収集品ではないですよ。
『元からここにあったもの』ですから。
[意味深な笑み。]
ああ、そうみたい。
アーヴァインさんに、会いに来たんだって。
[ネリーの疑問に答えつつ、ふと、入り口からの声を耳に止め]
やあ、こんばんわ。
そんなとこにいないで、入ってきたら?
[中を伺う少女に、微笑みかけて]
[メイの言葉に頷いて、ちらりと男性のほうを見遣る。未だ目覚める様子はない]
そうですね…
無理に聞き出す訳にも参りませんし、早く落ち着かれると良いのですけれど…
[だがそれにはかなりの時間を要するかもしれないと、一方で思う。
扉の外から声が聞こえ、其方を見る。昨日見かけた金髪の少女がいた。
会釈をし、どうぞ、と声を掛けた]
[カップを手にしたネリーの言葉に、怪我人の怯えていた様子を思い出して再び気が重くなる。]
『みんな…大丈夫かなぁ…』
[しかし、話を聞けるかもというメイの言葉に、何もわからないまま一晩まんじりとせずにすむかもと、少し期待が膨らむ。]
………早く、目が覚めてくれたらいいなぁ…。
[心配よりもやや利己的な思いが強いものの、その言葉には嘘がなく。溜息を飲み込むように、ミルクを飲み干した。]
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