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うん、そう。
[思い出されて嬉しかったのか、ほっとしたように笑んで、一つ頷く。祖母の事を問われると、その笑みはやや苦笑めいたものに]
ばーちゃんは、元気だけど……足が悪くなってきちゃっててね。橋、渡って来るのが難しくなっちゃったんだ。
[だから、自分が代理でその手作りのパンや菓子を届けに来ているのだと。
そう、説明した直後に、ふわ、と小さく欠伸。眠そうだ]
大変だけど、楽しい……かぁ。
ボクも、外に出てみたいけど……多分、ダメだしなぁ。
[それから、ナサニエルの言葉に独り言めいて呟いて。
一瞬浮かんだ陰りを振り払うように二、三度首を振って]
……さて、と。眠くなって来たし……ボク、先に休むね。
それじゃ、お休みなさい。飲みすぎ、注意だよー?
[冗談めかした口調で言ってから。場にいる面々にぺこり、とお辞儀をして*足早に客室へと*]
[ハーヴェイの呟きに混じる物を読み取って]
村から出た事がないのか?
まぁ、人それぞれだから何も言えないけどさ。
[普通に暮らしていればそれはよくあることなのだけど]
俺は家出同然で飛び出してきてるからなー。
今更帰っても何言われるか……。
[ 苺をまた一つ摘んで、運ばれて来た紅茶に手を付ける。此れも菜園で採れたものから造ったか、ハーブティー――恐らくはカモミールか何だろうの甘い香りが鼻腔を擽った。目を伏せて一息ついた後に顔を上げて、]
其方の銀髪の方は、メイと御知り合いで?
村の方……では無さそうですが。
[メイとの会話が聞えたか、コーネリアスと呼ばれていた男に問い掛ける。]
嗚呼。他人に訊ねる前に、先ずは自分が名乗るべきでした。
ハーヴェイ=ローウェル、と申します。
私は、かれこれ30年程前くらいですね。
村にやってきたのは。
そういえば、あの頃は色々ありましたっけねえ……
[どこか、遠い所を見つめている]
……あ。
[しばらく物思いに耽っていたが、ふと我に返る。]
私はラプサンスーチョンをお願いします。
一日に一度はあの匂いを嗅がないと落ち着かないものですから。
[すかさず、その場にいた給仕にリクエスト。]
お休み。……まあ、注意しとく。
[ 呟かれた言葉と翳りは彼には見えず、何時もと変わらぬ調子で見送ればナサニエルへと視線を戻し、浮かべる表情は微笑から苦笑へと変わる。]
出る機会が、無いもので。大体は村の内に居て賄える事ばかりですし、ね。
以前は町の学校に通いたいと考えてもいましたが。
[ 続いた台詞にはカップを持ち上げようとした手が止まり、]
……家出同然?
反対でもされ……ああ、踏み込んだ話になりますね。申し訳無い。
…いろいろ、ね。
ほんといろいろあるみたいだな、牧師さんは。
[ルーサーの呟きにふと思った事を呟く。
次いで口にされた紅茶の名前に少し驚いて]
…随分変わったのが好みなんだな。
[とだけ。
自分はアッサムをミルクティーで、と頼んで]
[ 町の学校に通いたい。
其の願いは母が亡くなった今――否、母一人子一人の時から、到底叶わぬ夢だったのだが。日々の生活すら儘成らぬ事も多いというのに、そんな贅沢等云える筈も無かったのだ。だから斯うして偶に本を読みに来るのが、娯楽の少ない彼にとって唯一の楽しみと云えた。]
ええ、癖の強い紅茶なので苦手な方は多いようですね。
[出されたティーカップを受け取り、一口飲む。
煙のような、薬のようなきつい香り。]
[苦笑するハーヴェイに少し悪い事を言ったかと思い]
ここで賄えるって言うんなら、無理はすることはないわな。
故郷って言うのは良いもんなんだって言うし。
[ハーヴェイが何かを言いよどむのに気付いて]
あ、いや、構わないぜ?困る事でもないし。
反対も何も、誰にも言わないで出て来ちまったからなー。
ま、心配すんのはホームのシスターくらいだろうけどな。
[つまりは親無し。
だけどそれはわざわざ言う事でもなく、苦笑して]
俺は気ままな暮らしが性にあってるって事だな、うん。
[ 牧師の紡いだ名には彼も些か驚いたか、]
……東洋の紅茶でしたか? 其れも、茶が発祥した地の。
珍しい物も在るんですね。
[流石はアーヴァインかと思いながら、ハーブティーを啜る。ルーサーの飲む其れとは打って変わり、林檎に似た和やかな香り。]
確かに癖は強いよな…。
しかし本当に何でもあるんだな、ここ。
[運ばれてきたミルクティーを飲みながら、今度は錦上添花でも頼んでみようかと不穏な笑み]
/中/
『錦上添花』
…中国の工芸茶の一つ。
お湯を注ぐと中から菊の花が浮かび上がります。
ルピシアで8個2800円……今はもっと安くなったかな?
手作りだから高いんだよねー。
アーヴァインさんは、食べる物と飲む物には人一倍こだわる方でね。
産みたての卵を食べる為に鶏小屋も作った、なんて話も聞いたような気がします。
[ストレートのラプサンスーチョンを、さも美味しそうに啜り。]
[懐かしげにメイと言葉を交わし、部屋へと戻るのを見送る。
書生の声に小さく笑みを返す。]
…お忘れで?
まぁ、無理もないでしょうかね。かなり暫くぶりですし。
故郷……、ですか。
[ 視線は一度、窓の外へと逸れる。天に浮かぶ月は地に光を齎すも、見える景色は矢張り薄闇に包まれ遠く迄は見えはしない。そして黒曜石の双眸を持つ青年を照らすのは月では無く室内のランプの光。其の横顔が何を思うかは読み取れはしなかっただろうが、緩やかにナサニエルへと目を戻せば顔に浮かぶのは薄い笑み。]
俺は、余計な事も訊いてしまう事が多くて。
誰にも何も、ですか。随分と思い切った事をなさるんですね。
[ ホーム、という単語が意味する事に気付きはしたものの其れに敢えて触れる事も無く、半分程に迄減った白いカップを卓上に置く。]
現在の生活が在っているのならば、其れで宜しいのでは。
へぇ…産みたての卵の為に、ねぇ。
そこまで拘ってれば、食いモンで病気になるとかってのは無さそうだな。
むしろ健康に良いって感じだし。
[普段の生活が不健康そのものな自分には考え付かない事だと思い、自嘲気味に笑う]
さて、と。
[出された紅茶を綺麗に飲み干し、立ち上がる。]
一度、部屋に戻って仮眠を取る事にします。
それでは、また食事時にでも。
[空になった帽子を被りなおし、会釈してから*広間を出た。*]
[ 微笑を向ける銀髪の男の言葉にゆるり、瞬きをして、]
何処かで、御逢いしましたか?
[白の磁器から離した指先を蟀谷に当て思考する。コーネリアスという名に、銀の髪。想起してみれば其の特徴はいともあっさり朧げだった記憶を浮上させた。]
……あ。
アーヴァインさんの、義弟……の方、でしたか?
気になった事を訊くのは悪いことじゃないと思うぜ?
[ほんの少し窓の外を見るハーヴェイの様子が気にはなったが、それ以上は何も言えず]
あぁ、何も言わなかった…元々何もないのと同じだしね。
帰る場所が欲しい時もあるけど、ね。
今が面白いからそれで良いんだけどね、俺は。
[そう言いながら、空になったカップを弄んで]
[銀髪の男がハーヴェイに話しかけるのを見て。
ハーヴェイが暫し考え口にした言葉で、彼が何者かを知る]
アーヴァイン…?あぁ、ここの主の親戚の人か。
[と小さく呟く]
[ ――故郷。其れは、母が望んでいたもの。
彼は村に生まれ村に育ったが、母は然うでは無かった。彼女は自らの住んでいた地を追われ、流れ着いた此の村で彼を産んだ。
余所者、其れも女手一つの生活は決して楽なものでは無かったが、彼女は村人達の助力を得ながら懸命に働き、彼を育てた。愚痴を零す事も無かったけれども、故郷への憧憬の念は強かったのだろう、窓辺に座り頬杖を突いて遥か遠くを見詰めている姿を度々見掛けた。彼はそんな母に声を掛ける事も出来ずに、唯、彼女を邪魔せぬよう扉の影から黙して其の横顔を見詰めていた。
そして先程のハーヴェイの表情が、其の時の母とよく似ていた――だなんて、彼自身気付ける筈も無かったけれども。]
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