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[手だけは昨日、嫌と言うほど洗ったけれど、思い出してもう一度洗う。
自分も、あんなふうにごみのようにバラバラにされるかも知れないのだ。
暖かな湯舟のなかだと言うのに、ヘンリエッタは身震いした。
湯面に漣が広がる。]
嫌。死にたくない。
[そう呟いて、ヘンリエッタは顔を被った。]
−厨房−
[厨房には、焼きあがったばかりの甘い匂いがまだ満ちていた。
生唾を飲み込み、食料を漁る。
パンと、水。それから、林檎を3つ。あと、自分が運んできたチーズの塊を引っ張り出し、愛用の小さなナイフで大きく切り取った。]
……何か、入れるもの…あ、あった。
[チーズを破いた紙で包み、入れ物を探して見回せば、卵を運ぶのに使うのであろう籠があって。それに食料入れ水袋をベルトに結び付けて、出来るだけ急いで部屋へと。]
取りあえず、気持ち、切り替えないと、ね。
[独りごちた後、立ち上がり。
窓から、外を見つめる]
…………。
[ほんの一瞬、瞳が陰るけれど、それを何とか打ち消して。
とにかく、何か食べないと、と部屋を出て、下へ向かう]
[ローズマリーが出て行ったところを見送り、2本目のワインを開ける。]
……冷めちゃいますね、タルト。
[くすり。
苦い笑みを浮かべ。]
[やや、覚束ない足取りで階段まで来れば、色々と抱え込んだトビーが上がってくる所で]
……なに、その大荷物。
[思わず、呆れたような呟きがこぼれた]
[階段を登りきった所で、ドアの開く音に気付いて、ぎくりと立ちすくむ。]
…ぁ、メイ、さん…?
[それが知っている顔である事に安堵し、小さく息を吐く。]
[妙にほっとしたようなトビーの様子に、くす、と笑んで]
足元、ふらついてるよ?
大丈夫?
[軽い口調で問いかけつつ。
ローズマリーの心配げな様子に、わずか戸惑いながら、礼を返して]
[あきれたようなメイの呟きには、また馬鹿にされるかもと思いつつも素直に、]
…これは、ご飯です…。 知らない人が……怖いから…
[知らず視線を伏せたのは、”知らない人”と仲良くなっているローズマリーの表情を見たくなかったせいだろうか。]
――客室――
[少女は窓から差し込む光に本を読みながら、時を刻んでいたが――]
……っー…
[癒えた筈の傷口が疼きだすのを感じる。
そう言えば昨日は薬も塗らず寝床に入った事を思い出し、軽く溜め息を吐く――]
少し位外に出ても…大丈夫よね…。
[置かれた紙の契約――破るのはほんのちょっとの時間――]
[少女はそっとドアを開け――]
[静かに廊下へと足を…]
――客室→浴室へ――
ん、少し、落ち着いた?
…よかったわ
[メイに微笑みかける。
それからトビーの言葉に、わたしは首を傾げる。]
知らない人?
[誰のことだろうと首を傾げて]
[ローズマリーの心配そうな声には、仄かに心が温かくなって、空元気も元気とばかりに。]
…ぁ、これくらい平気です!
ちょっと、お腹が空いてるだけ…だもん。
[メイの軽い口調には、ちょっと拗ねた風に口を尖らせるも。本気で拗ねているのではない事は、付き合いの長いメイであればわかるだろう。]
[ 漸くシンプルな黒の上下に着替えを終えれば部屋を出、階下に向かおうとすれば一箇所に固まる人の姿。緩に黒の瞳を瞬かせ其の中にメイの姿を見留めれば僅か視線は逸らされるも、階段を通らぬ訳には行かず傍に寄れば軽く頭を下げた。]
……大荷物だな。
[ トビーを見て思わず零れた言葉が似通っているのには気付かない。]
――浴室――
[途中、廊下ですれ違った人達に軽く会釈をして、少女は足早に通り過ぎた。
部外者が立ち入ってはいけない雰囲気に――胸が押しつぶされそうになったから――]
[滑り込むようにして中に入った浴室。誰も居ないのだろうかと、室内へ軽く視線を泳がせれば…]
誰か…居る?
[脱衣場の籠には衣服――
しかし少女は気にも留めずに服を脱ぎだした。
――殺せるものならここで殺してしまえばいい――
そんな思いを胸に抱いて…]
[そして疼く傷を抱えながら少女は中に入る――]
[水蒸気と響く音に、平常心を保ったままの声色で――]
こんにちは?お邪魔しますね…。
[知らない人が怖い、という言葉に、僅かに眉を寄せる。
こんな状況では、それも仕方がないとは思うから、それ以上は追求はせずに]
そうなの?
情けないなあ、しっかりしなさい、男の子っ!
[拗ねた素振りに、くすくすと笑いつつ、からかい半分の言葉を投げる]
……ええ、まあ。
何とか……ですけど。
[それから、ローズマリーには短くこう返す。
思い過ごしなのだろうけれど。
何かの弾みで簡単に切れてしまう事を悟られているようで、少し、落ち着かない感じがしていた]
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