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あ、そうだわ
ギルバートさんはどこかしら。服、持ってきたのだけれど
[シンプルなシャツと黒いパンツ。誰でもはけるようにと、デザインなどはないけれど、それを見せる]
あと、包帯
[それからメイに微笑みを向ける]
ん、それなら良いの。
辛いのに無理をしては駄目よ?
いつか壊れてしまうわ
[不意に掛けられた(というか、きれいなお姉さんに意識がいってて気付いてなかっただけ)落ち着いた声は、彼のよく知ってる人のもので。
顔を上げると同時にむくれてしまったのは、まぁ色んな意味で足元にも及ばない青年への微かな反抗心ゆえだろうか。]
……大丈夫だもん。
[そんな風だから、余計に子ども扱いされるのだとは気付かずに。]
[突然かけられた声に、びくりと体を震わせる。
小さな水音が、先の声とともに浴室に反響した。
思わず身を守るように自分を抱き締めながらも振り向けば、ぼんやりとした湯気の向うから見えたのは煙る金髪。]
あ……。
[自分とさして年の変わらないであろう少女の顔を確認し、その強張った表情がゆるやかに和らぐ。]
こんにち……は。
[しかし、彼女もまた人狼である可能性をもった者なのだと気づき、緩みかけた頬は中途半端な状態のまま奇妙な表情を作った。]
……お早うさん。
[ メイの言葉にヒラと手を振り挨拶を返すも其の目は眇められ、]
まあ、俺はお早うでは無い訳だが。
[確りと憎まれ口の様なものを叩くのは忘れない。
トビーの強がりめいた口調を聞けば自然と悪戯っぽい笑みの形になり、腰に手を当てて荷物を沢山持った少年の様子の見遣る。]
はいはい。
[ここで叫んでもきっと、誰も気づいてくれない。
そんなことを考えたのに逃げようとは思わなかったのは、自分と同じくらいの年の少女を心底疑う気にはなれなかったから。
そのかわり、確かめるような視線を少女にのばした。
他人の裸体を見つめるのが不躾であると言う意識は、ヘンリエッタの環境にはない。]
別に、無理は……。
[してない、と。いつもの調子で言いかけて、止まった]
……あんまり、してないですから。
[大して変わらないけれど、完全な否定をする事は避けて。
曖昧な答えを返し]
……どうせ寝坊だよ。
[ハーヴェイにはぽそ、とこんな言葉を投げ返す。
実際大幅寝過ごしたのだから、その点に反論の余地はなし]
しっかりって……ぅー。
[彼なりに、考えた上での行動なのだけれど。
ローズマリーの前で、誰に怯えているのかを言うのは躊躇われて。
それでも、いつもどおりに見えるメイのからかいの声と笑い声に、尖らせた口元が緩む。]
……ギルバート…?
…ぁ、お兄さんならボクの部屋に!
[ローズマリーの告げる名には、不思議そうに小首を傾げるも。
手に持つ服に、怪我人のお兄さんの事だと気付いて、小さな声を]
[メイの曖昧な言葉には、少し、悲しくなった。
でもわたしは頷いて。]
ん、それなら良いのよ
…ちょっと昔の友人を思い出しちゃっただけだから。
その答えなら、大丈夫ね
[そしてトビーの言葉に]
あ、お名前。そうね、怪我をしていた人のことだわ
あなたの部屋にいるのね
眠っているのかしら?
用事が有るなら早く済ませた方が好いんじゃないか。
[ 拗ねてみせたかと思えば表情を和らげたり首を傾げたりと大忙しの少年を見遣り、然う声を投げ掛ける。手は腰に当て体重を片足に寄せた体勢で視線だけを向けはしたが、恨めしげな視線は当然気にはしない。
メイの零した寝坊の単語には軽く笑みを浮かべてからかいの表情を見せるも、]
……眠れたなら好かったな。
[小さく云えば、僅かに目を伏せ其の場に皆を残して階段を降り始める。]
俺は下に行くんで、此れで。
[跳ねる水音と響き渡る天然の音響の中、聞こえて来た声は年端も変わらない――]
あなただったのね…、こんにちは。ヘンリエッタさん…。
[僅かに安堵した表情で少女は、煙る向こうで身を守るヘンリエッタの表情を見て…小さく苦笑を漏らし――]
驚かせちゃってごめんなさいね…。私の身の潔白が証明されていないのに…近付いてしまって…。
[謝罪を口にしながら、少女はヘンリエッタに背を向けて――]
そうだよね…さすがに…何処の誰ともわからない人物と二人きりで居るのは嫌だよね…。
でも…どうしても背中を流したかったから。
少しの間だけ――我慢して…
[実際人狼と対峙してきた所為なのか。少女は人を警戒するという自己防衛の感覚が麻痺していた。そしてその感覚は時に、他人との尺度を計り間違えてしまうことを――
相手の反応を見て初めて思い出すほど鈍くなっていた。]
まあ、ある意味トビーくんらしいけどね?
[くす、と笑んで。ぽふ、と少年の頭を撫で。
ローズマリーの言葉には、ほんの少し、首を傾げる。
ただ、その言葉の意味を追求する気にはなれなくて、また、曖昧に頷くに止めた]
[ローズマリーの言葉に、部屋にいるであろう青年を思い出し、大丈夫かなと心配が首をもたげて。]
……あ、元気になったって……言ってたけど。
お薬塗りなおした方がいいよね、ぅん。
じゃぁ、ローズマリーさん、こっちです。
[腰に手を当ててこちらを見やる青年の姿には、こう、むらむらと「ハーヴェイさんのかっこつけー!」と叫びたい衝動に駆られたが、青年の発する「用事を片付けろ」という言葉には反論の余地などなく、内心歯噛みしつつもこっくり頷いて、先頭に立って歩き出す。]
うん、まあ、眠れたけど……。
[ふと、そういうハーヴェイは眠れたのかと気になったものの。
問う前に、彼は下へと向かっていて、ため息一つ]
……と、ボクも下に用事あるんだっけ。
[それからふと、思い出したように呟く]
[親しくなりたいと思ったはずの少女の謝罪の言葉に、反射的に罪悪感を覚える。
なんで、この子を疑わなくちゃいけないのだろう。自分と同じ子供で、同じように不安でいっぱいだろうに。
やり場のないいら立ちに唇を噛み締めた。]
あなたは、私が怖くない……?
[聞きかけて、少女の背の傷跡が目に入る。
水音のなか、ヘンリエッタの息を飲む音が小さく響いた。]
ん、ありがとう。
[トビーの後ろについていく。
そっと、荷物を左手に寄せ、右手を口元に近づけた。
メイからも見えないだろう]
[髪に泡を絡ませ、少女はヘンリエッタの様子など気にも留めずに指を滑らす――]
[と、聞こえた質問に。少女は指を止めて――]
怖くは――無いわ…。
私はここに来るまでに…散々人を疑ってきたから…だから…もう…。
[言葉を切り。一呼吸置いて。自身に言い聞かせるように――]
私は人を疑いたくは無いの…。
[そして再び指を動かす。
背後で聞こえたヘンリエッタの声には…。静かに静かに微笑んで――]
結局、神を信じ人を疑い続けても…何も救われなかったから…
[その言葉は、背後に居るヘンリエッタに届いただろうか――]
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