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……さて。
私は、あの子の元に戻らなければ。
書置きだけはしておいたのだが、心配で心配で。
[花籠と聖書を持ってがたんと立ち上がり。]
貴方も。
大事な人の所へ行った方がいい。
もうすぐ夜だから。
人狼が誰を狙っているのか、わからないから。
こんな状況で面白そうだから見に来ました、なんて理由は無いと思います。
[ 足は再び止まり、鍵の持っていない方の手を肩を竦めるように動かせば同様に影が揺らめく。口許には何時もの如く苦笑めいた表情が在るのだろう。]
……本当に人狼とやらが居るのならば、何んなにか上手く化けているか解らない。
用心の為、或いは――……
兎も角、其れを欲するのは極自然な事だと思いますが。
[ 少女は知るまいが、其処には先程神父に対して口にしたのと同じ心情。]
―ウェンディの部屋―
[ドアをノックして、声をかける。……沈黙。
ノブを回すと、あっけなくドアは開いた。]
……ウェンディ?いないのですか?
[部屋を隅々まで探すが見つからず。
立ち尽くしたまま、*途方にくれる。*]
[わたしは神父様を見送る。
その姿が見えなくなって、表情を作るのをやめた]
大事な人は、いないのよ
宿ったあの子を、殺したわたしには…そんな人をた作ってはいけないのだわ
[それでも立ち上がって、二階へ向かう]
あなたは……前にもこんなことを……?
[流れる血は止まっても、今も痛々しい傷跡。
魅せられたように、そこから目が放せない。
信じる。彼女の言葉を胸のうちで繰り返す。]
私は……ネリーを信じたい。
ネリーは、私を部屋に入れてくれた。
狼なら、その時に私を殺してしまうことも出来たはずよ。
でも、あの人は優しかった。
まあ、…興味もございましたけれど、ね。
[変わらず何処か曖昧な言葉。けれど青年の言葉を初めて肯定するような含みがあった]
牧師様…いえ、異端審問官様に頼り切る訳にも参りませんからね。
[その口調は何処か皮肉めいていたかも知れず。
青年の濁した言葉の先には触れない]
[息苦しさを覚えて、浴槽をでた。
洗面器に満たされた冷たい水を顔に浴び、頭を冷やす。
信じること、疑うこと。二つの言葉が頭のなかでぐるぐるまわる。]
―玄関 外―
[頭を冷やしたかったのかもしれない。わたしは外に出る。
あぁ、何もないと思った]
ぜんぶ……
ぜんぶ、ないことなら良いのに
[もしも人狼だったら、死んでしまう指。
それを見ても彼はかわらず心配してくれるのかしら
わたしは目を伏せる]
[ 室内に香るのは古びた鉄錆の匂い交じり合う僅かな血臭。
苺タルトの甘ったるい味が未だ僅かに口内に残る。
然れど、矢張り此れでもない、足りない、充たないと叫ぶコエ。]
[ぎゅ、と手をにぎりしめる。
それからなんだか、綺麗なものを見たくなった。]
―→庭園―
[近づくにつれ、耳にとどく歌声]
欲しければ摘み取る。それだけでしょうに。
[さも当然と、響くコエ。]
あなたは、好物は最初に口にします?
それとも、大切に残して最後に?
僕は、最後まで楽しみに取っておく主義ですが。
……そうですね、彼一人に任せる訳にも。
[ 返す言葉にも僅かな含みが籠められていただろうか。少女に向けられていた視線は逸らされ、再び室内を巡り一点で止まるかと思われたが直ぐに逸らされる。]
俺は、此れで。……鍵は此処に置いておきますね。
[ 鈍い音を立てて傍の机へと置かれる赤錆の鍵。辺りに漂う奇妙な匂いの元は此れと同じものか、其れとも――。]
御邪魔しました。
[ まるで友人の宅へと遣って来た訪問客が帰るかの如き気さくさで然う告げれば、何の武器を手にする事も無く*狂気の眠る部屋を後にした。*]
……最後かな。
[ 其れは真意を理解して答えた言葉か否か、兎も角端的に。
彼の場所から早々に立ち去ったのは、古き血の臭いに耐え切れなくなったが為。獣が求めるのは新鮮なる血、柔らかな肉。]
ならば、オードブルはどれになさいます?
[少なくともその言葉は、白身魚のカルパッチョ等を指すものではなく。]
[ 廊下を歩めば窓の外の遠くには薄闇に包まれる庭園が見えた。彼処に足を運んだ事は余りないが、美しい花々が咲き誇っていたのはよく覚えていて目をじれば瞼裏に其の光景が蘇った。其れを手許に置きたいと思った事が、無いと云えば嘘になる。]
何れに……。
[ ――欲しければ摘み取る。
其の言葉の通り、幼い少年は其れを躊躇いも無く手折って生を奪い己が欲を充たした。其れと一体何が違うというのだろうか。好きな物を好きな様に選べば好い。若し神が人狼という存在を創り給うたのならば、其れは赦されし権利だ。]
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