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──書斎──
[歳月を経た本や新しい本。
ひんやりとした書斎の中は、独特の匂いがしている。
目を凝らすと、本の表紙の小さな文字が読み取れた。
やはり、視力が回復している事は間違いない。]
─二階・廊下─
……っとに、何だってんだ、どいつもこいつも!
[駆け上がった二階の様子を見るなり、口をついたのはこんな言葉。
す……と。瞳に険しさが宿り、右手の銀糸が解かれる]
手段を選んじゃ、いられねぇ、な!
[言葉と共に、舞うは煌めく銀の糸]
[「おこしてなんかあげない」?
どういう意味だ、と考える前に彼女は次の武器を手に、今度は此方に襲い掛かってくる。]
ちぃ…っ!
[顔を顰め、小さく呻く。
向けられた鉄球を、腕で弾き軌道を変えようと]
ベアトリーチェが、そう言ったの?
[考えこみながら、じっと何かを『視て』いる]
[駆けていったアーベルの姿を視界の端に捉えて、一言告げる]
あわてることなどないわ。
今は、死の訪れる刻限ではない…。
[そんな声は、アーベルには届くまいが]
──書斎──
[立ち並ぶ本棚。
纏められて置かれた紙束。
机の上に置かれたインク壺と羊皮紙、羽ペン。
そして本。…日記だろうか?
クレメンスは、手にとって、ぱらぱらとページを捲る。]
[振り下ろした鉄球は、とても硬い何かにはじき返された。
ぱちくり、その目を瞬く。
もういちど、と振り上げようとして気がつく。
からだが、うごかない。
周りにはきらきらと、細い細い、銀の糸。]
[オトフリートが素早い身のこなしで少女の手から鎌を弾き飛ばしても、ベアトリーチェは新たな武器を手に彼に殴りかかる。
――少女と、鉄鎖球。
自衛のためでもなく、殺そうとしているのでもいるかのように自分からそれを振り上げている。
硬直するエーリッヒ。
だけども見開かれたままの緑の瞳には今、恐怖しか映っていないのかもしれない。
ミハエルが壁際で立ち尽くしていた。
一番最初に聞いた声は彼のものだったと思うのに、今はただ呆然としている。
その全てがあまりに非現実的]
一体あんたら、何をやって…
…アーベルさん!?
[やはり呆然と立ち竦むしかないユリアンの目の端で、煌めく銀の糸が舞うのが見えた。
オトフリートも黙って殴られはせず動く。腕を翳して弾こうとしている]
無理だ、腕で鉄球を受けるなんて…!
[鋼鉄製の篭手が仕込まれていることなど、知らないのだ]
ええ、そう、言ってた。
目が、覚めたんだって・・・こわい、夢から。
[エルザをちらりと見る。
ギュンターが本当のところどう死を迎えたのか、彼女には分かるのだ。
視えるというのは、どんなにつらい力なのだろうか]
死の訪れる刻限ではない・・・?
[...も上での出来事は気になっていて。]
─書斎─
[探せば近いうちに誰かが見つけるだろう。
書きかけの日記帳のほかに、棚にしまいこまれた
書 き 終 わ っ た 日 記 帳 。]
怖い…そうね。
この人に、ギュンターにとって、生きることは怖かった。
[階上の騒ぎに心が震えないのは、無自覚のうちに知っているから。
今は、生贄を求められている刻限ではない]
──書斎──
[雪のように真っ白いページの上に、インクで書かれてある]
-月 -日『箱庭完成』
-月-(+1)日『駒を揃えた』
-月-(+2)日『遊戯の始まり』
[誰にでも読める簡素な文字だった]
【我らの神は、遊戯し哄笑する神なり…か。】
[それを人は────と言う]
[少女がオトフリートへと鉄球を投げるのを視界に捉えつつ、展開した糸を繰る。
……微かに、違和感。
この銀糸は確かに、自身の一部と言えるほどに使い込んでいるが。
久しぶりに展開したそれは、いつになく軽く、そして。
意のままに動くようにも思えた]
……いや、今は、それ所じゃねえっ!
[低く、言いつつ。少女捕えた糸に少しだけ、力を込めて]
誰か、手ぇ開いてんの!
その物騒なモン、片付けろ!
[魅入られたように少女を唯見つめ返していたが]
[三日月が少女の手から離れるのを視線で追った]
[少女が再び何かを手にオトフリートへ飛び掛るのを呆然と見る]
[やがて視界の隅に閃く銀の光]
[それが何かは分からなかったが、それが少女を止めてくれたことだけはかろうじて分かった]
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