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−廊下−
[早朝ゆえか、廊下はしんと静まり返っていて。
まだほの暗い廊下を、声の聞こえたと思しき方へと進む。
半ば夢現に聞いたのだから、はっきりと確信があったわけではないけれど。どこか、聞き覚えのある声のような気がしたから。
確か昨日、このドアから姿を見せていたはず――と。
メイの部屋の扉をノックする。]
[コンコン、コンコン]
メイさん? ボクです…トビーです。
起きていますか……?
[ 防音加工のされた部屋に其の声は、本来ならば殆ど届かなかった事だろう。然し獣の耳は確りと其れを捉え、主が誰であるかを理解すれば容易に原因も察せ黒曜石の瞳は僅かに揺らぎを持つ。彼女に其れを齎したのは――少なくとも片方は――彼の所為に違いなかった。]
[睡りに堕ちて行く]
[緋く赫い]
[闇奥で、]
[甘く甘い][赤く、朱い]
[生命の甘露、]
[泉の如く湧き出づる、美酒を、]
[甘く甘い]
[蕩ける様に柔らかな]
[肉を][臓物を]
[喰らう、]
[喰らう、]
[喰らい尽くす。]
[返ってこない声に、不安が募る。
けれど、今は早朝なのだからと無理やり自分を納得させて。]
メイさん…寝てるんですか……?
……怖い夢でも、見たんですか……?
[夢くらいで、あの苛めっ子なメイが悲鳴を上げるなんて考えられなかったけれど、よく見知った人に何かあったなんて思いたくなくって。]
[ドンドン]
[やや強めに扉を叩けば、ガチリと錠が鳴って。無意識にノブに手が伸びれば、カチリ、あっけなく扉は開いて。]
―ニ階・客室―
[ 硝子製の器へと視線を向ければ、既に燃え尽きた煙草が幾本かに積もる灰。少々吸いすぎたかと思いつつ立ち上がり、喚起を促す為に部屋の扉を開けば漂っていた空気が外へと逃れ散っていく。其の儘廊下へと黒の視線を緩やかに巡らせ、何時までも此処にいても現状は解るまいかと腰に手を当てて小さく息を吐き部屋を出る。
階段迄辿り着けば、反対側の廊下から聞える強めのノックの音。何か在ったのかと足を止め其方へと視線を向けるも、曲がり角の先は見えはしない。]
[緩慢な動作で起き上がり][寝台の上を見る]
[寝乱れたシーツ][乱雑に捲られた上掛け]
……トビー……?
[微かに眉を顰め][もう一度少年を呼ばわる。]
[外はまだ、白んだばかりで]
[カーテンを外した窓から]
[弱い朝の日差しは部屋に届くものの]
[未だ室内は薄暗く]
[しかし、]
[少年の姿は見当たらない。]
[一通り部屋を見回り][扉を見れば、]
[内鍵が開いていた。]
[部屋の前で][暫しの間きょろきょろと]
[辺りを見回す。]
[少年の姿は無く、][少し考え込む仕草]
[そろそろと未だ慣れぬ][屋敷の廊下を歩いて行く]
−廊下→メイの部屋−
[ギィィ]
[扉の開く音は、早朝の廊下にやけに響いた……気がした。]
メイさん…? ねぇ、寝てるの…?
[頭だけをドアの隙間から覗かせて。部屋の中を見やる。
恐れていたような――血の流れる匂いは、霊感のない彼には感じられなくて。少し、ほっとしながら、大きく扉を開けた。]
[ 其れを齎したのは自らなのだから、放っておけば好い。一体何の様な顔をして彼女を見れば好いというのだろうか。其れで心配の振りをする等、偽善の極みでは無かろうか。嗚呼然れど、其れは何時もの事かとも思う。]
[メイは、ベットに伏せて眠っているようだった。
けれど、その声を聞くまでは安心できなくて。]
……あの、大丈夫ですか…?
何か…悲鳴が聞こえたような気がしたんですけれど…。
[もしかして、違うのかなとも思いつつ、伏すその傍へと近寄れば、規則正しい呼吸音。
少なくとも、息があることに安堵しつつ、軽く身体を揺すろうと。]
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