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[ふと、聞き覚えのある声を聞けば、かの神父がいつに無く真摯な面持ちで男の言葉を否定する。
そうだろうか?と考え直して]
何にもしてないぜ、俺は。
[微かな笑いは自嘲とは違うもの]
[瞼を伏せた彼には、ナサニエルが唇を噛んだのはわからなかったけれど。]
「…ごめんな。」
[掛けられた謝罪の言葉に、はっと顔を上げて。
少し泣きそうな顔で、ふるふると首を横に振った。]
ボクらの一族は、異能……異端なの。
死を視る。
声を聴く。
どちらも、普通の人の身では、できはしない。
だからと言って……異形……獣と称されるものでもない。
どちらにもなれないし、どちらにも寄れない。
狭間のものたち。
……初めて声に接するまで、そんな事、知らなかったから。それを受け入れるのは、すごく怖かった。
[静かに、澱みなく、語る。
何故、この少女にこんな話をしているのかは、わからない。
ただ、誰かに聞いて欲しいだけなのかもしれないけれど]
今は……どうなんだろうね。よく、わかんないんだ。
ただ、どちらにも寄れない、から……。
そうでないと、いられないような気がしたから。
そう思ったら、あんまり……気にならなくなった。
[差し出されたナイフを見て、少女はくすりと笑みを零し――]
武器を持つ勇気が無かったのに…武器庫の鍵を探していたのですねぇ。そして今は…トビー君のナイフを…。そうですか…。
でも、そんな小さなナイフで…本当に自身の身を守れるのでしょうか…。武器庫にはもっと優れた者があるのに…。
[そこまで言って、少女は息を吐き――]
まぁ、尤も…。別な力があるのならば…。武器なんて必要ないんでしょうけどもねぇ。
[くすり――]
[微笑む――]
[――何処か遠く…響く、哀しい詩。]
……いかなくちゃ…
[止められなかったのならば。せめて、見守る事くらいは、と。
ゆらり、揺れて。
*始まりの場所へ。*]
[いつもの彼女であれば、直ちに部屋を出て行っただろう。客人の頼みを聞くこと、それは彼女の勤め。
――けれど]
申し訳ございません。
今、取り込み中でございまして。
[男性のほうを見すらしないまま、淡々と告げる]
[少年が首を横に振るのを見て、少しだけ安心したように微笑む。
だけど、それだけでは償いきれる物ではなくて]
俺の事は、赦さなくて良いから。
[笑って
まるで冗句でも言うように]
[ 広間に入って来た男が部屋を横切っていくのを端目で見遣り、]
俺は、“自分で入りたい”とは云った覚えが無い。
誰が武器を手にしたか。其れを気にするのは、当たり前だと思いますが。
……自分は傷付けられない自信でもおありでしょうか。
[嘆息して眉根を顰めれば、初めて疑念の眼差しが金糸の少女へと向けられる。]
俺は自分から他人を傷付けたいとは思わない――。
[ 其の言葉には過去を悔いるかの様な強い光が宿り、然れどほんの一瞬で消え、]
別な力?
[ 怪訝そうに、問う。]
[ネリーが断るのにも][然して感慨を覚えた様子も無く]
……では、其方の用事が済んでからで構わない。
[暖炉の前に立ち][燃える炎に見入る様子で]
[じっと眺めている。]
[滔々と語られる言葉を少しだけ意外に思う。
彼女と自分は深く言葉を交わしたわけではなかったから。
語られる内容は、力を持たない自分にはわからないものであったけれど。
ただ、理解できないことで、少しだけ彼女を哀れに思った。
どちらにも寄れない少女は、ただひとり。
声を聞く力とは何の為にあるのだろう?
人狼が現れた時にだけ、聞こえる声。
彼女の声を、最後まで聞いて、ヘンリエッタは首を廊下へと巡らす。]
私、ウェンディを探しに行くわ。
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