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[多分其れは]
[「其処へ」とかそんな言葉だったのだと思う。]
[青年の示す部屋の扉を開けると]
[冷たい屍臭]
[寝台の上に横たわる死んだ女]
[青年を抱えた儘][扉を閉め、内鍵を掛ける。]
[部屋の中へと歩み寄り]
[死した恋人の隣に、]
[瀕死の青年を横たえる、]
[婚姻の褥の如くに。]
[優しい檻は、彼を促して何処かへ連れて行こうと。]
…ゃだ……離して……
お兄さんとネリーさんが………!
[彼が居たとしても、手も声も届かないのに。
首を振って抜け出そうともがけば、ふっとその腕から力が抜けて、]
……ぁ…
[驚きに顔を上げた時には、ローズマリーの姿はなく。]
…君は…
[それは幾度も人に問うた言葉。]
大切なものを守る為に、人を殺せるか?
大切なものを奪った相手を殺せるか?
…大切なものが、死を望めば殺せるか?
[――否。
彼が気付いていなかっただけで、獣は最初からそこで全てを見ていたのかもしれない。]
……ぁ…ああぁ……っ!
[怯えながら後ずさるも、その背に触れた――壁のような曖昧な感覚に、ふっと瞳が揺れて。]
[霞む視界とは裏腹に、はっきりと耳に届く、敵意の応酬。]
[然うして}
[青年の刺さった儘のナイフの柄に手を掛け]
[一息に抜き取る。]
[丁度、出血を止める栓の役割をしていたそれを。]
[開いた傷より][勢い良く溢れ出す血液]
[赤く赫い][生命の泉]
[彼を殺した青年と、彼を抱く青年は、激しく敵意を交わし。
彼を受け止めた青年を、彼を投げた青年が、ナイフを深く刺して。
何者にも汚されぬと白銀に輝く獣が、静かに、しかし高らかに詠うがごとく紡ぐ言葉を聞きながら、ただ、そこに在ることしか出来ずに。]
………ああぁ……ぁ……おにぃ…さ……
[視界が霞むのは、意識の揺らぎか、頬をすべる雫ゆえか。]
[甘い馨りに酔った男は]
[青年の着衣の前を乱暴に開く]
[釦が飛び][布地が裂け]
[滑らかな膚を露わにし]
[湧き出づる泉の源][ぱっくりと開いた傷口に]
[口唇を寄せ]
[ごくごくと喉を鳴らし]
[鮮紅の美酒を飲み干す。]
[――やがて、青年は彼を連れてそこを去り。
涙に濡れたまま、彼は白銀の獣を見やる。それが、処刑されたコーネリアスだとは知らぬままに。]
……相変わらず…?
あなたは…ボクを知っているの……?
[目にした惨劇ゆえか、感覚も意識も恐怖も――全てが麻痺して。口から零れたのは、そんな問い。]
[蜂蜜の様に蕩けた][琥珀色の眸は]
[淡い黄金の光を][其の底に宿し]
[恍惚と揺蕩う。]
[剥き出しの平らかな胸に指を這わせ]
[愛撫に似た手付きで弄る。]
[やがて]
[泉が枯れ][緋の奔流も途絶え]
[何時の間にか息絶えて]
[冷えてゆく青年の躯、]
[美しい恋人の骸と並ぶ其の隣に]
[共寝するかの如く][添い伏して、]
[恍惚と眸閉じ][緋色に染まった唇を嘗め]
[赫い闇の眠りに]
[*堕ちてゆく。*]
[”死”とは時間も空間も曖昧なのか――何故か目の前の獣に、逆に問われた声が聞こえて。
頬を濡らしたまま、彼は考える。答えることに意味があるのかすら判らぬままに。]
大切な…もの…を………?
ボクは……ボクには……
守る力も、殺す力も、なかった……
だけど、力があっても。
死を望まれても…大切だったら……大切だから、殺せないと…思う……。
[それは奇麗事かも知れないけれど……彼は、まだ子供だから。]
[――そしてもう、大人へは成れないままだから。]
[揺らり、意識は揺れて。
瞬けば、そこは彼の居た部屋。]
[瀕死のナサニエルの元へと戻ったのか、ギルバートの姿はなく。
眠るようにベットに寝かされた遺体(からだ)の傍に、青年がそうしていたように腰掛けて。
ぼんやりと、*蒼白な己の顔を見つめる。*]
――二階 廊下――
[思い当たる人を探し、彷徨う少女の耳を掠めた男の声に――]
[こつり――]
[少女は歩みを進めて、階下を覗き込むように顔を出す。
そして目に飛び込んできた情景に――]
あっ――……
[その言葉だけを落とすと――
緩く崩れ落ちる蒼髪の青年の姿を――
少女はただ、見守っていた――]
[崩れ行く蒼髪の青年。ルーサーが自分が亡き後の少女の身を託していた――]
[しかし今の少女には駆け寄ることも出来ず、ただ――
刻一刻と蒼褪めていく表情を遠くから見つめることしか出来ず…]
[かつん――]
[聞きなれない音に視線を上げれば、加害の男が毛布に包まった何かを部屋に運んでいて――
それが何かとは、少女には簡単に理解出来ず、ただ視線の先を通り過ぎていくのを見遣り――]
[再び通り過ぎていく加害の男の手に委ねられた、蒼髪の青年の蒼白しきった顔を間近で見れば、もう既に手遅れだということを理解して――]
[ぱさり――]
[その場に崩れ落ちるように少女は座り込んで、加害の青年の行方を、ただぼんやりと見つめながら、しばしの時を過ごして――]
[ゆるり――]
[立ち上がると、少女はルーサーの亡き姿が横たわる部屋へと歩みを進めた――]
――廊下→アーヴァインの部屋へ――
――アーヴァインの部屋――
[部屋に入ると、やはり変わらず横たわっているルーサーの亡骸に、寄り添うように近付き少女は一時の眠りに就く。
内鍵が壊れた部屋。無防備に眠る姿を神父が見たら、何と言うだろうか?
少女は苦笑交じりに微笑んで――そっと瞼を閉じていた]
――夜明け アーヴァインの部屋――
[そして差し込む日差しの眩しさに瞳を開ける――]
[目に映る物は昨晩と何ら変わらず。勿論自身の体も生を受けたもの特有の温かさを携えており――]
あ…私まだ…生きていたんだ――
[呟く言葉に感情の色彩は込められておらず――]
[そして疼きだす背中の感触に、薄く笑みを零すと――]
手向けの花…探す前にまずは身を清めないとね…。だから少し待ってて?神父様――
[ルーサーの額に…軽く唇を落として――]
[ふわり――]
[柔らかく立ち上がると、少女は部屋を後にした]
――アーヴァインの部屋→浴室へ――
[その時の情景は見たくなくて、わたしが(おそらく)次に形を取った(とおもう)場所は、わたしの体がある場所だった。
……みればわかってしまう結末のある場所。]
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