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でも……それなら。
つまり……そういう事、なんだよ……ね?
ボクはまた……視なきゃいけないの?
視たくない……何も……余計な事は、識りたくない……よ。
―広間―
確かに、人との柵を作るよりは、楽かもしれないわね。
[ちらりと、メイと、コーネリアス、そしてネリーを見やる。
彼らは、恐らくわたしのことを知っているのだろう。知ってしまっているのだろう。
自分の仕事を疎ましく感じたこともないけれど。
彼らの柵は、わたしを隔てるだろうことは判った。]
それじゃぁ、しばらく、ゆっくりしていくと良いわ?
そして若し、また旅に出るなら、ふもとの村に戻ってくると良いわ。
皆、優しいから、家族のように歓迎してくれると思う。
……え。
[不意の呼びかけに、はっと我に返る。
数回瞬いてから振り向けば、緑の髪が目に入り。
もう一度、瞬き]
あ……なんでも……なんでも、ないんだ。
ちょっと、考え事……。
早く、雨、止むといいな、って。
[早口に答えつつ。浮かぶのは、どこかぎこちない、作ったような笑み]
……然様で。
そんな貴重な御話、御聞かせ有難う御座いました。
[ 頭を下げて云いはするも、心は余り篭っていなかっただろうか。一足先に風呂を出よう――として、]
……あ゛……、着替え……。
[然う云えば全部びしょ濡れになっていたのだと思い出す。]
[食事が終わるのを見計らったように、いや、恐らく見計らって、使用人の女性がデザートを置いていった。]
私も、それ頂戴。
[言って、自分で大皿からムースを取り分ける。
ほんとうなら使用人にやってもらうべきなのかも知れないが、そういった作法は彼女の身にはついていない。
それを幸いと、皿にたっぷりとムースを載せて、少女は満足げな笑みを浮かべた。]
[ローズの表情がほんの少し曇るのは気付いたけど、聞くことはせずに]
そうだね、折角こんな立派な所に泊まれるんだし、ゆっくりしようと思ってる。
話のネタにもなりそうだ。
[麓の村の事を思い出し、確かに人が良い人たちだったと思い返し]
そうだね、帰るときにでも寄らせてもらおう。
…君はその時は歓迎してくれるかい?
あー……。それはお気の毒に。
でも生憎、私の着替えは渡せないのですよね。
そもそも私の服では大きすぎるでしょうし。
ま、脱衣場を探せば何か見つかるのではないですか?
[一足先に脱衣場へ。]
…ああ。
[ぎこちない笑みには一瞬だけ訝るような色が過ぎるけれど、特に何も言わぬまま。
視線を窓の外に向けて、頷く]
この雨では外に出るのも叶いませんからね…
[濡れ鼠のようになっていた青年、次いで浴室の辺りで擦れ違った牧師の姿を思い出した]
……雨に降られたんだから、仕方が無いだろう。
[ 云い訳めいた台詞だと、自分でも思った。本来の力を持ってすれば、其れでも下山する事は可能だったに違いないのだから。何故しなかったかと云えば――頭の中では解っていても、認めたくは無かった。]
其の様子だと、アーヴァイン以外にも殺る心算か?
[久しぶりに口にする甘味をうっとりと味わう。
お菓子は、彼女にとっては贅沢品だ。
これが食べれただけでも、ここに来て良かったかな。
心の中で、そう呟いた。]
[善悪………それを定めるのは法。
しかし、法を、罪を、罰を定め。執行するのはいつも人だ。
私は知っている。刑を執行する人々の苦悩を。
何故なら、私もそうだったから。
特別な力を何も与えられなかったが故に、その任を押し付けられたから。
人は、嫌な事を他人に押し付けたがる。異端審問官という役職はその最たるものだ。
字面だけ見れば偉そうな肩書きだが、実際の役割は人殺しだ。
私は魔女と疑われた者を殺し、人狼と疑われた者を殺してきた。
おかげで、すっかり銃の扱いにも慣れてしまった。
村人は皆、私にその任を押し付けた。自らが手を汚す事を厭って。
では、それを押し付けられた私の苦悩は、苦痛は。誰が引き受けてくれると言うのだ。
殺される者の恐怖は、誰でも想像出来るだろう。
しかし。
殺したくないにも関わらず殺さなければいけない者の苦悩は、どれだけの人が想像出来るのだろう。
乾いた服に着替え、ハーヴェイに気付かれないよう聖書に偽装した拳銃の入りの箱を確認しながら。
そんな事を考えていた。]
うん、こうも雨が強いと出るに出れないし。
ハーヴェイの二の舞には、なりたくないからなぁ。
……それに、いくらばーちゃんが心配でも。
さすがに、この雨の中、あの橋を渡るのは勇気がいるからね。
[どこか冗談めかした口調で言いつつ、すっかり冷めた紅茶のカップを空にして]
ん、そうね。
今日はとても人が多いし、きっと何か面白いことがあるわ。
[微笑を作って、わたしは少し考える。]
アーヴァインさんの隠し子疑惑とかも。
[そこにいる少女がそうだとは、わかるわけもない。
それから、続いた言葉に。]
もちろん、歓迎するわ。
……あなたがわたしを嫌わないでいてくれるなら
[ナサニエルの言葉が、とても嬉しくて。
作った表情が、本物になるなんて、わたしにはわからなかった。
それでも、やっぱり、気になるのは……そこで。]
ばーちゃんが心配、か。
心配は心配だけど、むしろ、自分が心配なのかもね、ボクは……。
[雨を見やりつつ。何となく、自嘲の呟きを、心の奥に]
[小皿に盛ったチョコレートムースをぺろりとたいらげて、お代りをしても良いかと思案しながら辺りを見回す。
緩慢にムースを口にする銀髪の男をなんとは無しに眺めた。
こんな美味しいものを食べているのに、あまり嬉しそうに見えないのを不思議に思う。
緩い動きは体調が悪いのだろうかと窺わせた。]
ハーヴェイ君、着替えになりそうなものは見つかりましたか?
[さっさと着替えを終え、いつもと同じのほほんとした笑みを浮かべながら聞いてみる。
手袋は代えの物を嵌め、聖書は持ってきたバスタオルに包んでおいた。]
……そうしてみます。
[ 余りの間抜けさに思わず肩を落とす。情け無いにも程があった。
結果的にルーサーに遅れて脱衣所に入り周囲を漁れば、軈て見付かったのは落ち着いた柄の浴衣。灰色の地に描かれているのは鎌輪奴柄。先日のローズマリーと云い、此処の主は東洋の温泉とやらに被れてでもいるのだろうかと思ったが、其れよりは――]
知識は何処で役立つか解らないもんだな……。
[考え付いた事は心のうちに留め、案外と手馴れた様子で其れを身に纏う。とは云えど冬の寒さ対しては少々薄いとも感じられるか。室内で着る分には不足無いが。後で使用人に何かしら頼もうかと考える。]
[「ばーちゃん」の言葉に少しだけ表情が曇る。
彼女の元の主人が亡くなったのは急な病気が原因だったから、心配する気持ちは分かる気がした]
吊り橋は、無理ですね…
ただでさえ揺れますから。
[真剣に頷く。それからテーブルのほうを見て]
とりあえず、甘い物でも如何ですか?
[デザートを示し、小さく微笑んだ]
[言われた言葉にくすくすと笑って、隠し子といわれ]
それは確かに気にはなるね。
[と赤い髪の少女をちら、と見て。
その先の言葉に軽く首を傾げて]
俺が君を嫌う理由は無いと思うけど…?
[自身がローズに向ける代名詞がいつの間にか変わっている事には気付かず。
微かに曇る表情に]
何か、気になる事があるのかい?
[それはただの疑問。
ローズの不安がそこにあるとは思わずに]
…ん?
[赤毛の少女の視線に気がつき、見返す。
…子供に罪は無いというか…悪いのは義兄の方なのだとわかってはいても、なんとなく複雑な心境なわけで。]
自分の首を絞める事態にならなければ好いけどな。
[ 興味の無さそうな様子は変わらねど、其れを望む心境が無いと云えば嘘になる。表に出さぬよう務めてはいるが、心中は揺れ動き酷く不安定だった。]
/中/
……ろずなさ?(ぇ
ていうか、今回は存在が地雷な自分の設定。
て……それっていつもかorz
まあ、踏み抜いた相手によっては、何事もないさ、きっと。
―広間―
ふう、いいお湯でした。
どうも皆様、こんばんは。
[バスタオルで包んだ『何か』を床に。
脱いだ後の服は、後から浴場まで取りに戻る予定だ。]
ネリーさん。ラプサンスーチョンを入れてきてください。
ホットミルクは持ってこないで下さいね。飲みたくありませんから。
ええ、また。
[ 早々に立ち去るルーサーを見送れば、がらんとした脱衣場に青年一人が取り残される。広げておいた荷物は直ぐに乾く筈も無く、取り敢えず濡れた衣服は洗濯して貰えるだろうかと傍の籠に入れたが、問題は其の他――主に手帳。日記を付ける習慣等無かったから、其れは単なる読書の覚書程度にしか過ぎないが。]
『取り敢えず、部屋に置いてくるか。』
[ 其の結論に至り、浴場を後にすれば先ずは自室へと向かう。]
[視線が合ってはじめて、自分が相手をじっと見ていたことに気づいた。
見返されて、何故か目を泳がせる。]
おいしくないの?
[じっと見ていたことを誤魔化すように問いを口にした。
そう言えば、二日酔いだとかなにか言っていたような気がする。]
[僅か、陰った表情に戸惑うものの、その内心の思いにまでは当然の如く気づけず]
うん、あの橋は慣れてるつもりでも怖いからね。
[真剣な様子に、こちらも真面目に頷き返し。
ようやく気づいたデザートの存在に、今度は自然に、口元をほころばせた]
そだね、甘い物食べて、嫌なことは考えない方がいいね。
[そちらに釣られるように視線を向けて、わたしは赤い髪の少女を見る]
? …ええ、気になるわ。なかなか。
[しかし結局なぜ彼女を見たのかわからないままで。
続いた言葉に何と答えようか、逡巡。]
……ううん、何もないわ。気にしないで。
嫌わないでくれるなら嬉しい。
[微笑を作って、やってきた牧師様に頭を下げる。
自分の仕事は、自分では嫌だとは思っては居ないけれど。
知ったときに、傷つけられるのは、もう嫌だった。]
[入って来た牧師に会釈をして]
…あ、はい。
かしこまりました。
[「何か」にちらと視線を寄越したが、注文を受ければ直ちに厨房へと向かう。
…ホットミルクは余程嫌だったのだなと、頭の片隅で思った]
…ま、おいしいですけどね。
どうも二日酔いで胃が荒れているんだか…あまり食欲が無いもので。
[半分くらいで手が止まっている。]
―ニ階・客室―
[ 浴場から持って来たタオルを机に敷き、其の上に濡れた品物を並べる。嵌め殺しの窓の向こうに広がるのは烏珠の夜。今宵は、月が見えない。]
しっかし……。
[ 小さく声を零して口許に手を当てる。
想起するのは森の奥に見た彼の金色の双眸。幻覚だったのか現実だったのかは解らず、未だ誰にも話していなかった。雨の所為で其れどころでは無かったというのが大きいが、容易に口外する気にもなれない。]
[テーブルに戻って、チョコレートムースを取り分けつつ。
ルーサーの問いに、そちらを振り返って]
デザートのチョコレートムースですよー。
[答えつつ、自分の分をがっちりと確保]
酒場の看板娘 ローズマリーは、牧童 トビー を能力(占う)の対象に選びました。
[やって来たルーサーに軽く頭を下げ]
…ホットミルクは嫌い?
[と訊ねるでもなく訊いて。
気になる、との言葉には頷き]
そのうち分かるとは思うけどね。
[と返し。
その後に続く言葉に、以前言っていた秘密と言う言葉を思い出す]
そう?ならもう訊かないよ。
秘密の一つくらいは…って前にも言ったかな?
…嫌う理由がないから、嫌いにはなれないな。
[ローズが何に不安を抱いているのかは分からなかったけれど、少しでもそれを軽くしようと、笑う]
おやおや、大丈夫ですか?
自分の飲める量はきちんと把握した方がいいですよ、コーネリアスさん。
[のほほんと微笑む。]
……んー。二日酔いには梅干を入れた番茶が効くらしいのですが。
この屋敷に梅干や番茶があったかどうか。
―厨房―
[立ち上る湯気は何か煙のような香りがした。珍しい香りだと思う。
やがて淹れ終え、トレーにカップを乗せて広間へと戻る]
―厨房→広間―
まあ、ホットミルクには嫌な思い出がありましてね。
ミルクティーやココアも受け付けないのですよ。
シチューは平気なのですが。
[特に気にした風もなく、ナサニエルに答えを返す。]
あ、どうも。
……ふー。やはりこの匂いは落ち着きますね。
[煙に似た匂いを吸い込み、ほうとため息。]
[秘密、と自分で言って、ちり、と胸が痛む]
俺の旅の話…人には言えない事。
それを知っても笑ってくれるんだろうか?
金に困って自分を売った事。
そして…身を守るためとはいえ人を……
あの時の男の遺体はどうなっただろう?
……男…いや、あれはきっと人の姿をした、何か。
獣と思ったから、殺した。
そうでなければ、俺が……だから、殺した。
もう、あんな事はしたくない、けど……
[傷ついた男の反応と言葉を思い出す]
人狼、が、居るというのだろうか?
―広間―
そのうち、わかるのかしら?
[本当は、違うことはもうわかっているけれど。
それから続いた言葉に申し訳なくなる。でも、わたしがそれを今、口にすることは出来なくて。
たとえ周りが知っていたとしても]
ありがとう。本当に、嬉しいわ。
あなたは、優しいひとね。ナサニエルさん。
[安心させるように、笑ってみせよう。]
[ 静かに響く雨音を耳にしながら部屋を後にすれば、慣れない下駄で廊下を歩み階段を降りていく。一歩間違えれば盛大に転びそうな気がして、此れを履き熟す東洋人は偉大だ等と少し間の抜けた事を考えつつ広間へと向かえば、賑やかな声。]
……今晩和。
[ 逡巡の後に扉を開き、軽く会釈をする。]
今日も大勢の方がいらっしゃるようで。
[二日酔い、の言葉に無意識に眉をしかめる。]
おいしいものが食べれなくなるまで、飲まなきゃいいのに。
[いくらかきつい口調で言うと、すこしだけ表情をやわらげて、声をかけて来た牧師の方に首をめぐらせた。]
ウメボシ?とかナントカ茶は良くわからないけど、確かに、クリームよりもお茶の方が二日酔いにはいいと思うわよ。
…今宵よりは、明日…でしょうかね。
[長くここで暮らしたゆえか、屋敷の構造は把握している。
天井裏すらも。
どう動けばもっとも効率よく、そして面白いことになるだろうか…それを緻密に考える。]
[梅干しを入れた番茶、という言葉が丁度耳に入る。
ありましたっけ、と問おうと使用人の姿を探すと、既に厨房へと向かっているところであった]
…ま、自重しますよ…。
[多少反省しているのか小さくため息をつき、
からころと(多少ぎこちなく)鳴る下駄の音に目をやってクスリと微笑む。]
おや、これは風流な。
まあ、私には必要のない薬ですがね。
何せ私はうわばみですから。ふふふ。
[ヘンリエッタに笑いかけながら、ラプサンスーチョンを啜る。]
ヘンリエッタさん。
お酒の飲みすぎも良くないですが煙草も良くないのですよ。
味覚が鈍くなってしまいますからね。
おいしい食事をしたいなら、煙草は吸わない事をおすすめします。
[まあ、まだ煙草の吸えない年ですから関係ないでしょうが。と付け加え。]
[デザートの甘さにほんの少し、張り詰めていたものが緩むのを感じつつ。
聞きなれた声に振り返って]
…………。
[沈黙、数瞬]
……ハーヴェイ、どしたの、そのかっこ?
[何となく、想像はつくけれど。敢えて聞いてみた]
[ヘンリエッタがそう言ったのに呼応するように、使用人の少女が茶器を牧師の前において行く。
紅茶にしてはいささか特徴のある、薬じみた匂いが鼻を突いた。]
……へんな匂い。
[それを口にし、ため息を吐く牧師をもの珍しそうに見る。]
[ コーネリアスを見遣るほんの一瞬に其の黒曜石は眇められるも、直ぐに人当たりの好さそうな表情へと変わり以降銀髪の男へと視線を移す事は無い。]
明日……、か。夜雨に紛れた方が好いと思うが。
[ 尤も、と後に付け加えられる言葉。]
騒ぎにしたいのならば話は別だけどな。
[ミルクティーもダメとの言葉に少し驚き]
…重症だな、それ。
[とぽつりと。
ミルクティーは美味しいのに、と付け足して。
優しい、とのローズの言葉には軽く首を振る]
俺は優しくはないよ?
……俺にも言えない事がある、だから訊かない。
君が笑ってくれるなら、いくらでも優しくなれると思うけどね。俺は。
[それは半分は社交辞令で半分は…だけどそれは胸の内に隠しておこう、と。
旅人に好かれても、寂しいだけだから]
/中/
しまった……。文化圏についていけてないorz
浴衣と言う言葉は、共通言語として有るっぽい。なら、番茶も梅干も皆知ってておかしくない。
ん、貧乏なので、舶来品など目にしたことがないのデスヨー。
[牧師の言葉に、ヘンリエッタはしかめ面でこくこくと頷く。]
お酒も煙草も嫌いよ。
このお菓子の方がずっとおいしいわ。
[さりげなく、2杯目のチョコームースをよそいはじめた。]
[ 元々目立つ事は得意では無い為に、皆の多様な反応と注目する様子に思わず其の場から逃出したくなったが危うく踏み留まる。いきなり逃走するのも奇妙極まり無いが、其の上こけようものならば恥に違いない。]
……どうも有難う御座います。貴女程ではないですが。
[ 普段通りの微笑を浮かべながらローズマリーの褒め言葉にはそう答えはするものの、数瞬の間沈黙したメイには半眼になり僅か顔を俯かせ額に右の人差指を当て、左手は右肘を支え腕を組む。]
如何したも、斯うしたも。
雨の所為で着替えが全滅したんだから仕方が無いだろう。
[ 好きで着ているんじゃないと云いたげに溜息を吐いた。]
優しいわ。
……ありがとう。
[社交辞令だとわかっていても、その言葉が嬉しくて。
わたしは、いつか、いつか。彼のかなしみも癒したいと思った。
それから、ハーヴェイの言葉を聞けば、首を横に振る。]
大変だったのね。でも、とても懐かしい気がする。
……本当、とてもよく似合っているわ。
[彼の母親を思い出す。]
…おや、着替えが。
[それは災難でしたね、とハーヴェイに声をかけ。]
サイズが合いそうなら、僕のを持ってこさせましょうか?
でもまぁ、その姿もお似合いですよ。
義兄の蔵書に翻訳モノの推理小説なんかもあったでしょ。
…それに出ていた挿絵の方に良く似ています。
[半ば予想通りの反応に、楽しげに笑いつつ]
ま、着る物ナシじゃ、困るもんね。
まさか、何にも着ないでいるわけにもいかないし。
[さらり、と返しつつ。ムースを一匙、口に運び]
でも、いいじゃない。似合ってるし。
[どうせ離れるのだから、と好意を寄せられても応じないようにして、今までやってきた。
彼女たちが望むのは安定した暮らしで、俺の旅の終わりを望む事だったから。
代わりにその欲を満たす物は、場末にある娼館。
なんの柵も後腐れもなく相手をしてくれる女。
もとよりそういう欲は薄く、故にそれで事足りた]
売っただの買っただの言ったら…嫌われるだろうな。
[だから、言えない。
秘密の一つ]
[程なくして、使用人が銀髪の男性の前に番茶を運ぶ。
それを横目で見ながら、耳に入ったハーヴェイの「仕方ない」との言葉に]
…申し訳ございません。
替えのものをご用意させて頂きます。
[青年の横を擦り抜け、着替えを*探しに行く*]
[ハーヴェイの言葉には少し同情的な気持ちを浮かべ]
あの雨で、か?
災難だったな。
[旅をしていればそれは日常、しかし彼には厳しいだろうか、とふと思う。
そして礼の言葉を口にするローズには笑って]
礼を言われる事はしていない、けどな。
[優しいのではなく、自分が嫌われたくないのだ、とは言えずに]
[ ローズマリーの台詞を聞けば、苦い表情で首を傾けた。]
……明日も帰れそうにありませんね、此の様子だと。
[ 然し次いだ言葉に彼女から視線は逸らされ火の揺れる暖炉へと向けられる。其れは幾度か見せたぎこちなさと似たものだったが、一瞬の事で。]
そうですか。
[ 微笑と共に、そう、端的に。]
…あんな目?
[その言葉に気になりはしたが、あまり訊くのも悪いかと]
まぁ、いろいろあったんだろうな、そこまで重症なんじゃ…。
[と一人で呟く]
[ コーネリアスの申し出には逡巡の様子を見せるも、流石にずっと浴衣姿は辛いものがあり、有り難くは思う――も、着替えを探しに行くネリーに瞬いて、済まない事を云ってしまったかと若干申し訳無い心地になる。]
ああ、推理小説ですか……。
確かに、有りましたね。矢張り東洋の、でしたか。
[ す、と黒の瞳が細められた。]
[牧師の甘いものばかり、の言葉に少しだけ唇を尖らせた。]
今まで甘いものなんて滅多に食べれなかったもの。
今までの分、少しばかり多く食べたって罰は当たらないと思うわ。
[口答えしたものの、牧師の空笑いにつられて笑う。]
なあんだ。
牧師さんだって好き嫌いあるんじゃない。
[くすくすと、年相応の素の笑顔で、ヘンリエッタはムースを口に運んだ。]
[……やはり、似過ぎていて非常に怖い。
彼女に視線を向ける事でさえかなり勇気がいる。
『幽霊ではない』と頭では分かっているのだが。]
あなたの言葉が、嬉しかったのだもの。
お礼位、言わせてくださいな。
[ナサニエルにわたしはそう言う。
優しい言葉に、顔は知らずにほころんでしまう。それを止めようなんて思えなかったけれど。
ハーヴェイの一瞬のぎこちなさには、気づかぬふりをしよう。
彼はきっと、色々あっただろうから。]
そうね、雨も酷いし。神鳴りも、すごいわ。まるで、何かに怒ってるみたい。
……怖い、ものね。
[わたしを見る牧師さまが、すぐに視線をそらしている。
似ている、というのがやはり問題なのかしら。
彼を見て、小さく微笑んでみる。]
[ 楽しげなメイに返す表情が些か不機嫌な様子なのも、予想通りだろうか。其の様な事はハーヴェイには考え付きもしないが。]
流石にそう云った趣味は無い。
[ メイの傍、空いていた椅子の一つを引き腰掛ければ頬杖を突く。似合うという言葉は少々意外だったのか、瞳を一度ゆっくりと瞬かせた。]
……其れはどうも。
[ 然し機嫌は余り好くなっていないらしく、]
それにしても、人が苦労している間に暢気にしてるんだからなぁ。
[ムースを口に運ぶのを横目に見遣りながら若干拗ねた様に云う。とは云えど、雨に降られたのは半ば自業自得な訳だが。]
[浴衣の青年の、帰れそうにないという言葉に窓を見やる。
外は真っ暗で何も見えないが、窓ガラスに打ち付けて流れる雨粒は見える。
いつの間にか、この雨音になれてしまっていたことに気づいた。]
……ああ、すみませんすみません。
どうしても初対面のイメージが刷り込まれているようで。
お気に触られました?
[ルーサーはローズマリーの様子を見ることにした。今度は視線を逸らさずに。]
[ メイやトビーに対する時と他者に対する態度の変わりようは或る意味では天賦の才と云えようか、若しくは母譲りのものか。兎も角、ナサニエルへと向ける表情は苦笑ではありながらも一転して柔らかい。]
ええ、災難でした。
……雨だけならば未だマシでしたが。
[ つい零れた言葉に口許を軽く手で押さえ、]
灯りも無かったですからね。
[そう付け加えればローズマリーに同意する様に頷いて、]
怒るような何かが、あったのでしょうかね。
或いは、此れから――……いえ、何でもありません。
と、言うか。
そういう趣味あったら色んな意味で大変だから。
[冗談めかした口調で言いつつ。
拗ねたような様子に気づけば、くすり、と笑んで]
褒めてるんだから、素直に聞けばいいのに。
暢気っていうか……甘い物食べてる時くらい、悩みは忘れないと。
美味しいものも美味しくなくなるからね。
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