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ノーラ、無理をする……。
だけど、もう、僕のことは、構わなくていいんだよ。
[そして、さっき座っていた椅子に腰掛ける。]
[嘘?――嘘だ、と。同じ言葉が反芻される。]
…えぇ。
[蛇のせいか、彼へと抱く僅かな恐怖のせいか揺れる視界。
彼を見て瞳から零れた涙、地面に落ちる時には石になった。]
…信じたわ。
[信じて、招いた結果――。思い出し、両手を握りしめた。]
貴方は、…薬になんて
負けないと…――信じたわ。
―3F 石像傍―
[駆けていく、足音が遠ざかる
――誰かが、誰かを。
…
身体が重い。]
……― 、…
[うすく、眼を開く。
ぼんやりと虚ろな霞がかった常緑樹の眼が覗く。
Halsdorff・Heinrich
視界の中に映った、
――断ち切った、ハインリヒの首輪
ゆっくりと手を伸ばして、握り締めると
そのまま、胸に抱いた]
[ノーラがゲルダを呼ぶ声が聴こえる。俯いたベアトリーチェの肩に>>25手を添えてから、たち上がった。向こう側に居るゲルダは──石になって動かない。
頭からすっと血の気が引く感覚。視界が暗くなり、石化したゲルダと揺れるノーラノ長い黒髪だけがクローズアップされたように鮮明に見えた。]
[ノーラの声がフロア中に響く>>28。]
──ピューリトゥーイは、
ハインリヒじゃないのか。
ダーヴィッドが?
[大きく両眼を見開き、ノーラを見た。ノーラが占いのような力を持っているらしい事は知っていたが、投薬により能力が活性化していたとしても、占いなら読み間違いもあるのではと。
石になったゲルダと目が合う。彼女が、言っていた言葉が何故か鮮明に甦った。
「…気をつけなきゃ、いけないよ。>>5:92
意志の強い人、だったら…
影響されてても普段どおりに振舞ってるかもしれない。」
視線を感じて、ダーヴィッドを見詰めた。──目が合う。ダーヴィッドはノーラの告発を否定せずに実験室へ入って行く。]
[遠くで声がした。大切な、人の声。護ると言った人。糸が、揺らめく。
死んだ者は、返らない。戻ってこない。だから、彼も、戻ってこない]
ねえ。ツヴァイさんは、死にたかったの、かな。
[誰に問うわけでもなく呟いた]
[手を伸ばすと、石になった身体があった]
憶えてる、から。
忘れ、ないから。
私、まだ間に合うことを、するの。
[右手で杖を探す。転がったそれを拾い上げて、立ち上がった]
ノーラさん!
[声の去った先。始めていく場所だったけれど、彼女がどこにいるのかは、わかる]
[エーリッヒ。忘れる事が出来ない名。
彼を、殺した人が今、目の前に。
だけど]
…どうして、…
[口から出た言葉は、3度目となる同じ言葉。]
[ヘルムートの声が、聞こえた。うめくような、声]
ヘルムートさん?
[前方。もう扉があるのだろう、扉を開けたヘルムートの背に、ぶつかりかけて、留まった。
聞こえた、>>56ノーラの声]
………。
[彼女のどうして…は、答えられない問いだった、今までは。
だけど、今回は………。]
彼は永遠になるじゃないか
……綺麗なままで。
ダーヴィッド。
[実験室奥の解析マシンには、まだあの薬物の結晶多形、ペルセウスの星座が大写しになったままだった。ダーヴィッドは先刻腰掛けて居た椅子に座っている。
ヘルムートは、ダーヴィッドとノーラが居る実験室の入口を塞ぐようにして、立ち尽くした。]
[ダーヴィッドの声。綺麗なまま。その言葉の意味を理解して、誰のことを言っているのかと、思った。彼――]
ダーヴィッドさんが、エーリッヒさんを?
そ、んな。
[糸の先。ノーラの方へ手を伸ばした。触れたらその手を握って]
―――ふ、
ふざけ…ないでッ。
[綺麗?永遠?
何を言って―――
衝動的に手を上げて止められないのなら
そのままダーヴィッドの頬を掌で打っただろう。]
…ッ
[肩で息をして、少しだけ周囲が見え始める。
茨が蔓延る壁に白い花が咲いた。
手繰り寄せるように近づく糸。
ヘルムートの気配。]
ベアトリーチェ。
[背中に当たる小さな身体と声は、ベアトリーチェのもの。
ぶつかった少女を、後ろ手で庇うようにしながら、聴こえてくる室内の声に耳を傾ける。実験室にある茨に、ぽつり、白い花が咲いた事には当然気付かない。
──嗚呼。
ダーヴィッドは今、何を言っているんだ?]
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