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もう言っちゃったよ、遅い。
[少しずつ]
[丁寧に]
[自分が触れてしまってよかったのかわからないけど]
[ブリジットの髪を梳いて整える]
そういう風に言えるなら、未だ君は大丈夫かな。
[すっかり鉱石になってしまった左の眼]
[まだ人の目のままである右の青灰簾石]
[両方を細めて]
[ハインリヒがベアトリーチェに投薬している間]
[そちらは決して見なかったけれど]
─ 蛇部屋前 ─
[拾った紙切れについてのノーラとナターリエの会話が耳に入って来る。]
PCで使えるPASSか。
ヘリを飛ばすための
制御装置へのアクセスを知る必要がある。
ヘリの操縦室は大仰な鍵がぶら下がっていて、
オート制御になっているように見えた。
カードキーか何かがあれば、別だが。
[ユリアンに視線を落とした時は、まだ普通に見えた。]
──ユリアン。
もう、あの部屋のものはノーラが見付けたらしい。
だから、大人しくしてくれ。
[ユリアンが答えないのは流石に体力の限界が来たのだろうと、違和感を憶えず。
こちらもライヒアルトに向きなおり、調べたいと思っていたブツが入ったタイピンに手を添えた。その時、]
…っ!?
[突然びくりと身を竦ませて。
胸を押さえる。自分のものではない痛み。]
なん、で…
なんで…なの。
…なおってたのに、なんで……
[唯一、病の魔の手から逃れていた、あのひと。
どこかずれてるけど、根っこは優しい人。
感じる。彼の命が失われたこと。]
[何が起きたのか、一瞬理解が追いつかなかった。
動かなくなるユリアンと、心臓マッサージを始めるダーヴィッドと。
天鵞絨が、瞬く]
……なん、で。
運だけはあるって、お前……。
[知らず、口をついたのは、いつかのやり取りの一端]
ユリアン……大丈夫だ。
毒はない、ないはずだ…だから、大丈夫なんだ……。
[ぶつぶつ呟きながら、その胸を押した。
そう、ショックだけならまだしも、おそらく、他にもいろいろな要因があった。メデューサでなくても。
証拠に外傷もさることながら、その身体につく痣…叩きつけられたような……。]
ユリアンッ………。
[そして、息を見るが、しておらず、心臓マッサージと人工呼吸を繰り返すけれど……。]
[ベアトリーチェを一度抱き上げて、
脱いだジャケットの上に寝かせると
立ち上がって今度はブリジット達の下へ寄った。]
…腕、
[俯いたまま、見下ろす形で呟いて。
その場にしゃがんでもこちらから手を伸ばして
ブリジットの手を取ろうとはしなかった。]
…腕、出してくれ。
[痛むか?と口調はいつもと同じもので。]
ユリアン?
[ダーヴィッドの声に両眼を見開く。
慌ててユリアンを覗き込んだこめかみから透明な汗が滴り落ち、蛇のうろこに当たってキラキラと光る。
ユリアンの胸に刺さっているのは、蛇の牙。]
……馬鹿な。
この蛇に毒は無い、はずだ。
私も一カ所噛まれている。
[心臓が跳ねた。石化していないユリアンが、ユリアンの心臓が完全に停止してしまったら──。生身のままの死の予感は、石化による死とまた異なる衝撃をもたらす。
けして両眼を逸らす事も、閉じる事も無いが、血の気が引いて行く。]
…ヘリとは恐らく、このメモは関係ないわ。
パソコン…使えるのなら、――調べて見て貰えないかしら。
私は機械に疎くて…。
起動用のパスワードは――「Perseus」よ。
[ヘルムートの言葉に、平静を装うと必死で喉の奥から声を引き出す。カードキー、と言われればダーヴィッドが確か持っていたはずだと視線を投げただろう。
けれどそこには必死に心臓マッサージを繰り返すダーヴィッドの姿があって――止める権利なんて何もない。]
……っ、ごめん なさい。
[緑の髪の少女]
[先程の声だけの子は、あの子か]
[視線を向けて頷き]
そう───ごめん、ね?
[わらう]
[手を引きもどす]
───おかげさまで、憎まれっ子世に憚るってことらしい。
[目を見張る少女]
[首を傾げた自分]
[ハインリヒが薬を打ちに来たので]
[視線だけは、その手元から外しておいた*]
[トクン、ともう一度心音が聞こえた。今度は緩やかな。
闇の中に、点がある。
小さい頃は、いろんなことを聞いて回った。
太陽は、暖かくてまぶしくて、明るいのだと。
夜は、暗いけれど、星が瞬いて、美しいのだと。
見える点を、糸を、眩しいと思った。それまであった色と、逆の色。
明るいってこういうこと。
でも、それは太陽というよりも星の大きさで。
ノーラだから、そんな風に映るのだろうかと、ぼんやり思った]
[ノーラに、ヘリではない事、PC起動用のパス「Perseus」と言う単語を聞いて自分がどういう返事をしたか。今思い出せと言われても口をついて出ないだろう。
繰り返される心臓マッサージと人工呼吸。目の前で揺れるダーヴィッドの赤毛。往復する背中と首筋の筋肉の動きが、何故か視界に入る。否──、]
ダーヴィッド。
[咄嗟にダーヴィッドの肩を掴んだ。]
もう、 いい。
止めてくれ──。
肋骨が折れて飛び出てる。
[不自然に隆起したユリアンの胸から、視線を逸らす事無く。]
[みんなで出ようと、生きたいと、そんな願いが摘み取られていく。大切な、かけがえのない命すら消えていく。]
…っ
[悔しさから、唇を衝動的に噛めば朱色に染まった。]
―――…わたしは、…
[――――視界の先、――――を 深く視ようと―――]
…そうか。
……お嬢さんは…痛覚にもきてるのかもな。
[窺える数値…上がるレベル。
それで痛みを感じないということは…。
症状は表にも出始めている…
痛みを感じない痛み。
ただ動かなくなっていくのは…、
想像するよりも恐ろしいことかもしれない。]
ちっとは…痛くなるといいな、これで。
[揶揄る意味ではない。
差し伸べられた手を受け取ると、手早に注射を打った。]
[額から汗が滴り落ちる。
息があがる……。
だけど、ユリアンの心臓は動きださず……。そして、身体はどんどん冷たくなっていく。]
……………ッ
[どれくらいマッサージをし続けただろうか。
しかし、もう、漂うのは死の匂いだけ……。
やがて、手がずるりと滑って、己の上半身が床に落ちた。そのまま顔を伏せる……。]
駄目だ……。
[ため息]
[―――― あれは 、…アルゴルだ。]
[だけど、どうして――― 赤色に輝いて ―――]
[『 red : ピューリトゥーイ 』 ]
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