[アーベルが、エルゼの前に立ち、聞こえた声とその顔を近寄せるのに、タオルから包丁を引き抜く。
獣にできた、隙、向こうからはこちらの姿は見えておらず、何よりアーベルは自分の目的を果たしていたし]
ふぅ……
[短い吐息、それから呼吸を止めて、その背後に向かってゆっくり足音を立てないように近づいていく。
気配を完全に消せるほどに熟練しているわけではないけども、相手に悟られぬように動くのは狩りの基本だと、なんども教えられてきたこと。
ブリジットからはアーベルに切りかかりに言ってるように見えたかもしれないけど。
アーベルがひとしきり味わった頃くらいだろうか、その背後にまで来たところでぽんと小さくその背中を左の手で叩く。
右手に持った包丁は体の内側に向かって構えて、一気に振りぬくときは内から外へ、これも最初に刃物の扱いで教わったことだった]