― 大広間 ―
[少なくともこの場に、自分が逃れるべき人は居ない。
そう思っていたから、大広間に辿り着く前よりも幾らか心は和らいでいた。
廊下でちらと周囲を見回していたのは、確かにメイドを探していたからでもあった。
けれどそれとは別に抱いていた不安は、同行していたキリルに悟られないよう、顔に出していなかった。
けれどそれとはまた別に、キリルの顔色を少し案じる心もあった。
怪我のことに触れた時の「彼女」>>158の仕草は、その言葉と同じように、大丈夫だと告げるようにも見えたが――。
そんな気持ちも顔には出さず]
そういえば、食事も頂けるってさっき会ったメイドさんから言われたんだけど。
温かい飲み物も、食事と一緒に頂けたらいいですね。
ね、キリルさん。
[ただこの場で、出て行ったサーシャのことを思いながら零した言葉の中に、少しだけ滲み出た。]