─二階・個室─
[痛みから逃避した意識が彷徨うのは、過去。
父を海の事故で亡くした時の事。
父が海で事故にあった時、祖父はこれ以上は他者を危険に晒すから、と途中で捜索を打ち切った。
十に満たぬ年の未だ幼い頃、それが納得できなくて祖父に食ってかかかり。
感情の暴発から派手な発作を引き起こし、数日死線を彷徨ったのは色々な意味で苦い記憶。
ずっと忘れていたそれを思い出したのは、毅然とした瞳を見たからか。
夢現にそんな事を考えていると、何か、柔かいものが頬に触れる感触があった]
……ん。
[薄く、目を開く。目に入ったのは、真白の猫]
ああ……だいじょうぶ、だ、ミーレ……。
[小さく呟くと、猫は不安げな声でなぁ、と鳴く。
いつもの澄まし屋ぶりとは打って変わった甘えたに、口元が綻んだ]