[その男が小島の屋敷に担ぎ込まれたのは、一週間ほど前の事。
橋を渡り切った辺りで倒れていた所を使用人が見つけ、そのまま主の命で保護された。
旅の途中で何かに襲われ、命からがら逃げてきた……という事情の断片は聞きだせたものの、それ以外は錯乱気味のためにわからないまま、落ち着くまでは、と主が面倒を見る事になった]
…………。
[月下の演奏会には、そんな彼の姿も片隅にあった。
主に誘われて出てきたのだが、やはり、どこか落ち着かぬのか。
『幻燈歌』が終わると同時、他者への挨拶もそこそこに宛がわれた客室へと戻っていたのだが]
……つきのうた……。
[演奏会の最中に漏れた小さな呟き、それに気づいたものは果たしていたか]