― 過去 ―
[血を流しすぎた視界は、そこにいるのが誰かを捉えたわけではなかった。
ただ、理解できているのは、自分を痛めつける人間ではないということ。
だから死を求める動きを、止めなかった。
視線が動いたのは、声を捉えたから。
感情を閉ざした青い瞳はゆっくりと焦点を結び、砕かれた鎖に驚くような色を加えた]
(なぜ)
[問いかけがこぼれることはなかった。
連れられ、問われたことにはか細くしゃがれた声が、名と北の海の名を答える。
やがてたどり着いた故郷の風景に、涙が落ちるのを止められるはずもなく。
縋るように、連れてくれた魔人の服を、掴んだ]
――…名、を。
[問いに答えが返れば、かすかに口元に笑みが浮かび、手が放れる。
そうして、深く、海の底に沈んで――]