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そうかい、それじゃ、お葬式が終わったら、おいらと一緒に帰ろうな。
[少女の返事に羊飼いは、ほっとして、少し笑顔を取り戻しました]
エリーとフリーも喜ぶよ。
[羊飼いの言葉を肯定するように、子羊達は、めえ、めえ、と鳴きました]
さてさて、
今日のごちそうは誰だろう。
[狼は周りを見回します。
狼退治に逸る木こりに
兄のかたきうちに燃える少女。
物知り婆に、それから、それから]
[アナと羊飼いが話しているのが聞くともなく聞こえてきました。]
そうね、アルのところは羊たちも居るから大丈夫だわね。
[ようやくゼルマは自分の飼い猫のことを思い出しあたりを見回しました。
すぐに、にゃぅぅん、と返事がありました。それだけでも老婆は身近に信頼できる存在があるのだと思えて気持ちが軽くなるのでした。]
♪いやなほんとうは うそで
しあわせなうそが ほんとうと
明るい道 目を瞑って ゆくのです
真っ暗闇 目を開けて そのときに
あなたは なにを 見るでしょう
〔とつぜん、思い出したみたいに。
ちいさく、ちいさく、アナは歌った。〕
[不意にかけられた老女の声に、木こりが首を向けました。
考え事に向いてない大男の心は狼探しででいっぱいです。
それでも年配の老女の言葉には首を横に振ったのでした。]
……いい、オイラはもう別れを済ませた。
ここで見ている。
一緒にいたら、もっと見えない。
[ベリエスの声に少しはばつの悪い様子になるものの、意固地に近づこうとはしません。
人々の中に入ってしまっては、影が見えないと思っているのでした。
太陽も月も見えない空を、雷の光が彩っています。]
そうするといい。
ボクも宿に戻るとしよう。
[お礼にはふるふると首を振ります。
旅人はとんがりぼうしをかぶりなおしました。]
何だろうか。
[立ち去ろうとしたドロテアが見つめてくるので、旅人はまたたきました。]
[ホラントの弔いはあらかた終わろうとしていました。
その中でゼルマはどうやって人に化ける獣を見分けるのか考えていました。]
いや、ダメよね。占い師とかが居たからといってどうやって信用するの?
考えたくないけど、その獣が賢かったら占い師を食ってからそれに化けることだって考えるかもしれないわ。
[考えが堂々めぐりになりそうになるとは、ゼルマはかぶりを振るのでした。]
ええと、その。
大した事では、ないのですけれど。
[少し悩んで、それから、ゆっくりと、言葉をつづります。]
信じるのと。
疑うのは。
……どちらが、より、難しいと思われますか……?
嫌な天気ですね。
良からぬことが起こる前触れのような……。
[紫色の光と、遠い太鼓の音。
牧師は一瞬身を怯ませます。
少女の歌う声に、牧師ははっと目を明けるのです]
これ以上、可哀想な人が出ないように、お祈りをすることです。
そうすれば、きっと神様が道を照らしてくれます。
[牧師はそれだけ言うと、俯きました]
[空に光った紫の光と、遠くに聞こえた雷鳴に気を取られて、羊飼いはアナの歌を良くは聞いていませんでした。ただ稲光を反射した斧が、とても恐ろしく見えたので、木こりとは視線を合わさないようにしたのでした]
[アナの小さな歌声が、おじいさんの耳にも届きます。
そして、牧師へと問い掛ける声]
こんな小さい子まで……。
こういうのは、大人だけで済ませるものじゃよ。
[おじいさんは同意を求めるように周囲を見ましたが、しかしあの日、アナもまた森へと踏み込んでいたことの意味を、おじいさんは考えまいとしているようでした]
黒い森には、神さまの手も届かないのに?
〔メルセデスをじっと見て、アナは言った。
ただ、不思議そうに。
それからくるりと向きを変えて、アルベリヒのそばへと寄っていく。〕
アルベリヒさん、ごめんなさい。
お世話になります。
〔ぺこりとお辞儀をして、二匹の羊にも、よろしくと挨拶をする。〕
[ゼルマはなんとなく、本当になんとなくですが木こりは人に化ける獣ではないかもしれないと思いました。]
うん。信用できる人を見つければいいのよね。
[では、信用できない人はどうすれば良いというのか。ドミニクを信じることは正しいかも知れませんがではどうしても信じられない人はどうしたら良いのでしょうか、、、みんなから信じられなかったら、その先に待っているものは何でしょうか。
ひとつの答えが浮かびかけましたが、ゼルマは本能的に否定してしまいました。
そうして、やはり答えは見つからないままなのでした。]
[それに、木こりは喪服を着ていないのでした。
ホラント探し、見つけ、教会に運び込んだままの姿です。
葬列に加わるには腰布に差した斧も相まって相応しくはないのでした。]
悲しむのは後でいい。
……神様に祈るのも、牧師さんに任せたしな。
[呟きは雷鳴に紛れて消えるのです。]
[少しだけ、旅人は黙り込みました。
とんがりぼうしを引き下げます。]
旅をしているとな。
色々なことがあるから、自然と疑り深くなってしまうものだ。
村の人がどうかは、分からないけれど。
[小さな声で答えます。]
ドミニクや、どうか間違えるでないぞ。
自分のする事の意味を、ようく考えるのじゃぞ。
[斧の刃が、ぎらぎらと光っています。
あの斧を振るったら、どんなものでもたちどころに切り裂かれてしまうでしょう。
人狼でも、人間でも]
ああ、こっちこそよろしくな。アナ。
[ペコリとお辞儀をした少女に羊飼いは笑いかけました。葬儀が終われば、その約束通り、少女を連れて牧場へと帰って行くはずでした**]
ええ。
ですから人は、神様の手の届く所で暮らすべきなのですよ。
[牧師は少女に告げると、羊飼いを見やります。
彼が少女に危害を加える者でないことを神に祈りながら]
[アルベリヒと視線が合わないのが、わざとなのか。
それとも帽子のせいなのかはドミニクにはわかりません。
涙もろい羊飼いが目元を隠しているのかもしれないからです。
木こりはアルベリヒの羊を見ます。
狼に怯える羊は人に化ける狼にも怯えるか考えるのでした。]
[小さな声の答え。
疑り深くという言葉に、少し眉が下がりますけれど。]
……ありがとう、ルイさん。
[続けられた言葉には、本当に、嬉しそうに笑いました。]
お引止めしてしまって、ごめんなさい。
それじゃ、わたくし、参りますね。
[葬儀は終わった。
散り散りになる人々を見送りながら]
牧師様、本当にアルに任せて良いのでしょうか。確かに宿も女将さんが居なくなって大変ですけど、部屋もありますから……。
〔アナは納得がいかないといった顔をしながら、メルセデスを見る。〕
神さまは手を差し伸べてはくれるけれど、
なんでもしてくれるわけじゃ、ないと思います。
道を照らされる前に、じぶんで歩く足を持たなくっちゃ。
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