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[──然うして眼を見開いたまま、]
[何れ程の時間が経ったのだろうか]
[ざ────]
[くぐもった][雨音]
[部屋の中にも漂い]
[ 目に入りかけた前髪を退け手の甲で顔を拭うも、其の手も濡れているが為に和らげる効果しかない。
森と館との間に架かる吊り橋が、今日は特に怨めしく思えた。風が然程無いのが唯一の救いか。ギィと橋の立てる軋みすら雨音に紛れ、揺れは降り注ぐ雨滴に隠される。
寒さに音を上げる躰と悴んだ手とにもう少しだと云い聞かせ、如何にか渡り終えればベルを鳴らすが、其の古びた鐘の音すら掻き消されるか。]
[窓の外を眺めては、降りしきる雨音に耳を傾け]
引き止められて…正解だったのかしら…
[小さく呟く。カップの底に残る紅茶を飲み干し静かに本を閉じた少女の眼差しは、いつの間にか窓越しの暗闇の中に*奪われていた*]
―廊下―
[外で降る雨の音は次第に強さを増していた。何となく、暗鬱な気分にさせられるような。
丁度同じ程のタイミングで出てきたらしいメイの姿を見つければ小さく会釈をして、自らは二階に向かおうと。
その耳に、玄関のほうから微かにベルの音が届いた気がした]
[音楽室を出て、広間へと向かう。
ふと、人の気配を感じればネリーの姿が。
会釈するのにやあ、と挨拶を返した直後に、ベルの音らしきものを捉えた気がした]
……また、誰か来たのかな?
[ 開かれた扉。今度は紛れも無く安堵の息を吐く。]
あー……っと、今晩和。
……済みません、取り敢えずタオル御願い出来ますか。
[ 殆ど感覚の失せ赤らんだ手を軽く不利、バツが悪そうに苦笑を浮かべつつ云う。寒さ故か、顔色は蒼褪めていた。濡れた髪から服から、パタパタと止め処無く水が滴っていく。]
―広間―
[どれ位ぼんやりとしていたのか。
広間に現れたウェンディに会釈を返し、周りを伺う。
相変わらずの様子に一つ息を吐き、恐らくは昨日飲み過ぎたせい、と]
それにしても静かだな…。
[きっといつもはこんな感じなのだろうと。
その静けさを打ち消すように、雨音]
降って来たのか。
[そういえば先ほどハーヴェイが帰ると言っていたが、大丈夫だろうかとふと思い。
微かに届くドアベルの音にあぁ、やはり…と]
[開いた扉の向こうにいた者に、きょとん、とまばたいて]
ハーヴェイ……何、やってんの、そんなになって。
[問いかける声には呆れと共に、僅かに心配の響きも織り込まれ]
[扉の向こうにいたのは酷く濡れそぼってはいたけれど、ここ数日で見慣れた客人であることは一目瞭然であった。
その酷い姿に思わずきゃ、と小さく声を上げつつも]
しょ…少々お待ちを!
[奥の部屋へとぱたぱたと駆け出して行く]
[そういえば、とふと思い出す。
昨日のあの怪我人はどうしているだろう?
先ほど訊いた時は落ち着いていると言っていたけれど]
そろそろ、目ぇ覚ますころかな…?
[怪我の程度から流石に気にはなって、立ち上がり彼が居る部屋へと様子を伺いに]
―広間→二階・客室―
途中で降り出して来たんだから仕方無いだろうが。
御蔭でずぶ濡れ……って、あ゛ー……。
[ メイに誤魔化すような言葉を返す途中、ポケットを漁れば案の定グシャグシャのシガレットケース。此れでは使い物に成らないだろう。]
一箱しか持って来て無かったのに。
[ 思わず愚痴が零れるも、]
あ、済みません。助かります。
[慌てて駆けて行くネリーを見れば小さく頭を下げる。]
[その部屋の前に立てば、一応驚かせぬようにと軽くドアを叩いてからゆっくりと開いて。
近付こうと見れば、目を覚ましているようでゆっくりと視線が漂う]
気が付いたか…?
あぁ、様子を見に来ただけだから安心していい。
[昨夜の怯えた姿を思い出し、刺激をしないようにと声を掛けて]
何してるんだか、もう……。
[返ってきた言葉に、ため息一つ。
それから、ぐしゃぐしゃのシガレットケースとこぼれた愚痴に、くく、と笑い声を上げて]
あーあ、ご愁傷様。
身体に悪いものやってるから、罰でもあたったんじゃない?
[冗談めかした口調でこんな言葉を投げかけて]
―回想―
[眠る前に、隠し子の話を聞いた。といっても、彼のその口調は楽しげで、重いものなど感じさせない。
それだけで本当のことなんてわかるようなもの。]
ん、そうね。じゃぁ、今度はわたしの番?
……え、その話が好いの? いつも同じ事しか言っていないというのに、不思議なこと。
そうね、そう。
ずっと昔の話だわ。その村に住んでいた子供が大人になってしまうくらい昔の話。
[頭を撫でてくる手は心地よい。わたしは請われるままに話し始める。]
そう。
それはずっと昔の話。
ある日、人狼が現れました。
長老様は、殺せといいます。でも誰が人狼なのでしょう。
村の人々は、話し合いました。疑いあいました。
「お前がやったんだ」
「いいや、お前に違いない」
そんな中、異能者がいました。
彼女は、その白い肌を黒く、何かに浸食されたように染めて言いました。
「あなたが人狼よ」
果たして、彼は人狼でした。
それから彼女は、探せと村人に言われました。彼女はその身体の一部に、毒を受けるためにそれを続けました。
だけれど、そのもう一人の人狼に。
彼女が気づくことはありませんでした。
彼はまだ、彼女の娘と、同じ年頃だったから。
そうしてその日。
泊まりにきた彼に、彼女は殺されました。
彼女の娘は、箪笥の中で、それを見ていました。
彼女を殺した彼は、彼女の娘にも爪を振るいました。
まるで玩具に対するように。
それでも、突然興味をなくしたように、彼は去りました。
その後。
人狼の痕跡は、何もなくなりました。
[大きめのバスタオルを引っ張り出すと、再び玄関へと向かった。慌ただしく駆ける音が雨音に混じり館内に響く]
済みません、お待たせ致しましたっ
[そう言いながら青年に手渡した。
それから湯浴みの用意はできていただろうか、とまた駆けて行く]
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