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― 東殿・一室 ―
< 幾らの時が過ぎたか、陽は出ないために確かではない。世界は少し違って感じられる。
孫娘が結界に囚われた事を伝え聞いても、皇竜の眷属らは平静であるよう努めていた。
しかし、灯された明かりは闇と共に不安を払わんとする証。
光は影を生み、揺らめく >
[絶叫が聞こえ、びくりと扉の前で肩を竦める。
聞こえた部屋の前まで行き、そっと耳をつけ。
コンコン、とノックした。]
…あの、大丈夫ですか?
何か、ありましたか?
[混沌の欠片でも出たのだろうか、と。
風竜の部屋の、扉の前。]
……ふえっ!?
[唐突なノックの音に、慌てて起き上がろうとして]
あ、なんでもね、ちょっ……どわたっ!
[ごろごろしている内に端に寄っていたのか、見事にベッドから落ちた。
派手な物音が、響く]
―――回想―――
[食堂に着いた後は、一緒に歩いていた二人とはそれなりに離れ、アーベルからお茶をもらい、適当に益体もない話を色々な人と話しているとき、
『それ』は突然来た]
(……は……ぁ……!?)
[声にこそ上げなかったが、多少身震いしたのは鋭いものならば気づいたかもしれない。
水が。
いきなりその力を増大させた]
―――っ。
[ともすれば、暴走してしまいそうな力を無理矢理に押さえ込む。
それが精一杯だ。
其の後のことは、断片的にしか思い出せない。
後にそれは―――天聖のものが結界に囚われたことにより、一時的に弱まり、結果、「力ある剣」の持つ強大な力が、流水へと流れたことだということに気づいた]
(『力ある剣』を持っていなく、また、それを扱う資格のない私にすら余剰の力がフィードバックするとは……。
『力ある剣』
予想よりも遥かに強い力のようねぃ……)
[この時に一時的に流れた力に比べたら、焔に何かされたことなど、取るにも足らないことだった。
―――ややして、雨にもう少し触れてくるとか適当な理由をつけて、中庭でその力が発散されるのを待った]
―――回想終了―――
流水竜 ナターリエが「時間を進める」を選択しました。
[廊下の方から聞こえる声。
それに答えるよりも早く、ピアが動いていた。
きーきー、と危機感を帯びた声は、急いで急いで、とでも聞こえるかも知れない]
……あたた……あ、うん……。
[落ちた当人は、当たり所が良かったのか、打ち付けた部分を摩りつつ、反射的に頷くのが精一杯]
/*
嵐絡み組は、コアが揃いやすい気がする。
とゆーか、ここはみりたんに説明して、クレさんに特攻、かしら。
……できればいいんだけど、特攻。
[ガチャリ、扉を開ける。
ひっくり返ったティルを見て、駆け寄った。]
どうしたんですか?!
攻撃を受けましたか?!
[思わず大声を出し、扉は開け放したまま。
ピアにも、何が?という顔を向けた。]
……ふぅ。
[木の根元に座り込み、目を閉じて、長時間雨に打たれながら、淀んで鉄砲水のように飛び出しそうな力を、河から海へ、海から雲へ、雲から河へと循環するように、少しずつ、その力を発散させていく。
その眼前には、水の輪がくるくると回っている。
自分は暴走するタイプだからと、水竜王に教わった御し方の一つだ]
天聖……。
確認するまでもない。
結界に囚われてしまったようねぃ。
[半眼を開けて、ポツリ呟く]
─東殿・自室─
[駆け寄ってきたミリィ。
その声がちょっと耳に痛かったのはさておき]
いや、そーいうんじゃなくて。
考え事してごろごろしてたら、落っこちた……。
[そうとしか説明できないので、ぼそぼそと呟く。
ピアは呆れたように、肩を竦める仕種をして見せた]
『力ある剣』
「偽者」たる私が使えないのは当然なのだから、これは、単なる八つ当たりと思ってもいいかしらぁ。
―――これは、「本物」の生粋たる竜族でしか扱えなくて当然ねぃ。
さて。
問題はその件のものが、どこにいったのか、ということかしらぁ。
答えは―――二つ。
八つ当たりと証したのだから、天聖に起因しているのは、間違い無いでしょうねぃ。
すなわち、天聖と共に結界内に消えたか、「揺らされたもの」の手に落ちたか。
おっこち…?
大丈夫ですか?
[少し安堵した表情を見せ、ピアの仕草には思わずそちらに駆け寄りそうになり、ぎゅっと手を握って止めた。]
…冷やす、とか私できないのですけれど…
どこかいたい所ありませんか?
[出来る事といったら、電流を流してコリをほぐす事くらい?]
ん、へーきへーき。
こんなん、兄貴と殴りあうのに比べりゃ、どーってことないよ。
[比較対象が間違ってます。
ピアは、握り締められた手にきょと、と首を傾げつつ、相棒の肩へするりと登る。
少しでも、首筋の痕を隠そう、というつもりらしい]
それより、雷竜の姉さん。
どっか、行くとこだったの?
[とりあえず、落下の話は決まり悪いので、話題そらしを試みてみた]
[考察を進めると、眼前で回っている水の輪が二重になった。
複雑に動くほど、思考が冷静になっている証拠だ]
「揺らされたもの」
もし、『力ある剣』を手に入れたとして、いきなり動いてくるかしらぁ?
―――無いわねぃ。
手に入れたとして、それは切り札。ジョーカーとなる存在。相手の手札も分からないのに、オープンにする人はいないわねぃ。
なら、可能性は、ある。ということかしらぁ。
逆に前者の場合。
「揺らされたもの」の結界内ということを省みれば、やはり、あちらが有利。
けれど……誰かが、天聖が囚われたのは、虚竜王の不機嫌による影響とか言っていたかしらぁ?
なら、結界内にあるとは分からない可能性もある。かしらぁ。
……ふむ。
状況は、五分よりも悪くなっているかしらぁ。
[それでも、口調はひたすら淡々と]
あぁ、えぇ。
ザムエル殿にお話を聞こうと思って。
ああそうだ、ティム殿、貴方は――揺らされていますか?
[人差し指だけを伸ばして他の指は軽く握り、自分の顎に絡めていたけれど、ふと思い出してちらりとティムに向け。
真っ直ぐに質問をぶつけた。]
爺ちゃんに?
[飛び出した後の事は知らないから、それは素朴な疑問として零れ落ちる。
だが、何故、と問うよりも先に続けられた問いに、青は一瞬きょとり、と瞬き]
オレは、疾風の眷族。何よりも、束縛や干渉を嫌うもの。
『揺らすもの』が、どんな風にちょっかいかけてくんのかはしらねぇけど、オレは、誰かに心をいじられてなんか、いねぇよ。
だから、オレは揺らされてない。
仮に揺らしに来られたって、揺れてなんかやらない。
[真っ直ぐな問い、それに返すのは真っ直ぐな視線と、答え]
……そこまで、推理したとして、さてどうしようかしらぁ。
[ぺちょり。
思考は崩れ、水の輪はもろくも崩れ去った]
一人で無駄な推理を続けるよりは、誰かと話していたほうが、答えは出やすいかしらねぃ。
[半眼に開いていた目を完全に開き、ナターリエがゆっくりと立ち上がった。
さて、何処へ行こうか?]
[真っ直ぐな答えに、眼鏡の奥の濃紅の瞳を和らげ、口元も少し緩める]
…信じましょう。
この先は兎も角、今は揺らされていないと。
[そしてすぐに、自分が言った言葉にはたと動きを止めて]
この先、まだ揺らされる事ってあるんでしょうか。
さんきゅ、姉さん。
そやって、真っ向聞いてくるとことか、姉さんもちゃんと、自分の心の自由は保ってるみたいだね。
[信じる、という言葉に嬉しげに笑う。ピアもほっとしたよに、短く鳴いた]
これから……か。わかんないな。
んでも、オレが感じてる嫌な感触の数は、変わってないんだよな。
だから、揺らすものが直接ちょっかいかけてくる事って、ない気もする。
[確信ないけど、と呟いて]
……むしろ、あれかなあ。
揺らされた連中が、仲間増やしする可能性とか、あるんじゃねぇかな。
< 枕元の明かりを消すと、影は闇に呑まれる。
ただ一点、髪の下、右の眼の奥に仄白い光が揺れていた。
腰掛けていた寝台から立ち上がり、部屋を出ると回廊を歩み始める >
―― 私室 ――
[ぐーるぐるぐる、怖い考えは巡る]
だーめーだーっ!
[ガバ、とベッドから起き上がった瞬間、ぴくりと左の腕が動いた]
あ…チャージしかかってるのか。
[ベッドの上に座り直してメタルの腕を見つめる]
今なら、再セット可能…か。でもなあ…
[毎度調査の度にぶっ倒れる誰かさんの部屋の方に、視線を彷徨わせて溜め息]
─回想─
[食堂を出た後は意識が腕輪へと向かっていて。周囲を気にする余裕はなかった。故に回廊で足早に立ち去る姿を見られているなどと露知らず。その足は宛がわれた個室へと向かっていた]
[個室についた後は腕輪の制御と状況の整理をし、長く深い溜息の後に再び休息を取る。心労に似た疲れを取るために]
─東殿・個室─
[不意に目を覚ましたのはいつだったか。外は相変わらず雨模様。時折落雷が響くその様は嵐の様相を呈していた。それを確かめると、短く息を漏らしてから部屋を出た]
[思案を巡らせながらゆっくりと歩むその足は、一体どこへと向かうなりや]
─東殿・個室→回廊─
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