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ねえさま?
そなたはあやめ殿の身内かの。
…髪色は似ておるが。さてさて。
[袖を前に組むおなごと童を見比べ、やや首を傾ける。]
ああ、我か。
我はゑゐか…えいかじゃ。
[首を傾げる姿に短く告げて、冷たきびいどろに撫子色を寄せた。]
[やって来た雅詠にぺこりと礼をし。
あやめから投げられし問いに、ゆる、とまばたく]
風漣は、今、目が覚めたの。
[だからまだ、と、そう返し]
/中/
天狗って、縁故組み辛いですね(笑)
時空の歪みが云々とかやってしまえばいいかしら。
表の口調を少しずつ変えられたら好いなと思います。
えいかの……ねえさま?
[告げられた名を、首を傾げつ、呼んで。
身内か、という問いにはふるり、首を振る]
……どうなのだろ? 風漣にはわからない。
風漣は、目上のひとは、にいさま、ねえさまとお呼びしなさいといわれたから、そうお呼びしているの。
[誰に言われたか、は霞の彼方なれど、その言いつけだけは残るが故に、そう呼んでいるにすぎぬと。
童にとってはそれだけの事、特に意図などはなく]
身内。
さてな、どうだろうね。
そうであればうれしやと思うけれど。
[真似るように首を傾いで口許に笑み作る]
生憎と、生憎と。
物心のつきし頃にはひとりであったと記憶している――
はて、不思議だね、名以外にも覚えがあるとは。
遅いつもりはねぇんだがな。
[あやめの言葉に苦笑いを返し、他の二人の方に]
俺は雅詠ってんだ―何時までかはわからねぇが今しばらくの間宜しくな。
[返り来る声に潜む感情に気づきしか。]
月白の神巫の力故かな、
己等も人の頃を思い出しそう。
[さても意に介す風もなく小さく咲ふよ。]
[ぴくり、と微かに指先が振るえ、そして蜜色が光を見る。
少し眩しそうに瞳を一度二度瞬かせ]
…我は誰そ。
……我は揺藍。…揺藍。
[言葉を重ねる。小さく、小さく欠伸を一つ。ふわり。
するすると袴の裾を引きずりながら童子を探す]
…湯浴みをしたいのだが。
[梔子色の結わきを解けばくすんだ空色が風に踊ってさらりと落ちる。
童子に導かれるように奥の間へと進み]
[あたたかな湯はどうやら天然のものであるらしい。
衣を脱ぎ捨て湯に身をしずめ──
暫しすれば濡れた髪を下ろしたままふらふらと縁側に現われようか]
そうかい、それなら朝餉を貰うと好い。
育ち盛りの坊に足りるかはわからぬけれど。
[猫の如き眼細め浮かぶ微笑は柔らかく]
その前に顔を洗うた方が好いかも知れぬね。
寝惚け眼の侭ではまた鞠に逃げられてしまう。
[露に濡れたびいどろを置けば、象牙の髪のおのこの姿。
それに礼をする童の声に、琥珀の眼差しは揺れて伏せられる。]
風漣か、よい名じゃの。
[そう呟くは、せせらぎを模した菓子を見つめてか。
されど己を呼ぶ幼き声音には、ゆると頭を揺らして見上げ、]
さてさて、どうであろうの。
我はそなたに敬意を払われるものではなかろうて。
[えいかでよい、と言い置いて。
空のびいどろと干菓子を残し、袖翻して立ち上がる。]
我は、揺藍。
星に祈り、舞を捧げる白拍子。
我は揺藍。
─昔は朱蘭(しゅらん)と言う名の者であったけれど。
その名は、今の我にはもう要らぬ。
──我は、揺藍。
[遠く懐かしき過去には何を視る。
人の身で在りし頃のこと。
深い深い霧の向こうに煙るやう。
ひとりで居りし頃のこと。
唯ただ思ひ浮かぶはさみしとや。]
[朝餉を、との言葉に、ひとつ頷き]
鞠、逃げてしまう……?
[ついだ言葉に、思わず腕の中の鞠を見やり、それから、はあい、と頷いた]
……でも……よいの?
[言い置かれたえいかの言葉に、また首を傾げ。
新たに現れた空の色彩にまた、ゆる、とまばたいて]
昔は朱蘭(しゅらん)と言う名であった。
揺藍というのは妹の名であった。
母は妹を大層可愛がった。
我など要らぬとばかりに揺藍を愛した。
大人しい妹。母に従順な妹。
それゆえに母は妹を社の嫁に差し出すことを躊躇った。
故に我は舞手となった。
故に我は「揺藍」であり[朱蘭]ではないものになった。
なぁに、象牙の旦那。
其方が此方を早いと感じたように、
此方は其方を遅いと感じたのだから、
仕方なかろうて。
[言の葉にて遊ぶような物言いして眼移す]
空の君もお早うかな、
濡れた髪なればまるで海のようだけれど。
そうか、すまぬの。
[遠まわしに否と言うあやめに短く詫びて、続く言葉に瞼伏せ、]
いかな不思議も天狗の仕業。
なれば不思議も不思議にあらず。
[すいと琥珀を逸らして傍をすり抜けんとす。]
好い返事だね、風の坊。
そうそ、逃げられては大変だからね。
失くさぬよう、しっかりその手にお収めよ。
己が手に届くものは大切にしておくと好い。
離れてしまえばもうかえりはせぬのだから。
[無垢な眼差しを見つめ返せぬは、いつの頃からか。]
慕われれば情が湧く。
なれば、言い捨てられる方が良い。
[言の葉にはせず、ただ頷いて]
えいか―良い名だな。
[うんと一つ頷いて、新たな顔に目を向ける]
お早う、初めて見る顔だな―。
[と言っても他もまだ見知ったばかりだがな―と、笑い。
先ほどの名乗りを再び行うか]
…わらし。
[鞠を持つ小さな手に蜜色を微かに揺らす]
…花の君。
……湯浴みを、してきた。それ故に。
まだ、乾ききらぬので。
[腰を下ろしながら答えよう。
新たに見ゆる男の姿にちらりと蜜色を揺らす]
…そちは誰そ。
[逃げられては大変、というあやめの言葉。
それに、華の紋を抱きし手に、力がこもろうか]
うん……これは大切。大切な鞠。
[なくしてはだめ、と。その言葉は自身に言い聞かせるが如く]
……それがよいなら、風漣はえいか、とお呼びするよ。
[しかし、浮かびし陰りは刹那なるもの。
頷くえいかに、笑みつつこう返す]
否、生き別れなどという事もあるからね。
どこで縁が繋がっているかなどわからぬよ。
[朱の唇はやはり弧を描いたまま変わらず]
天狗、あまのきつねの仕業か、
確かに左様な話ではあったね。
成る程、なれば面妖でもないか。
其方は如何様に思うのかな。
[何の問いか定かならず相手に向きもせず]
…そうか。
我は揺藍と言う。…よしなに。
[言葉は少なく男に名乗る。
性の匂いを感じさせない風貌と声音の集合体は童子の持ってきた茶粥を啜る]
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