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[広間を出ていく者>>1:171がいれば見送り、入ってくる者が入れば目礼し、
ユリアンはその場に残っていた。
傍目には、老犬のために暖かな暖炉の炎を守っているように見えただろうか。
誰かに話しかけられれば、掠れ気味の声で応じただろう。
所在を確認する問いがあれば、客室でずっと眠っていたと答えるだろう。
夢>>1:123の話もするかもしれない。
そして、思い出しながら付け加えるだろう。]
さっきここに来ていた、行き倒れの旅人だという……、
あのひとも、夢で見たような気がする。
変だな、初めて会ったのに……。
こう、髪が広がっていてね。
青い雪の上に……。
[変だなと繰り返しながら、視線はどこか遠くを見ていたか。]**
仕立て屋 ユリアンが「時間を進める」を選択しました。
─ 翌朝/自室 ─
[翌日目が覚めて、最初に視線が行ったのは机の上だった。
そこにあるのは、昨日手折って持ち帰った季節外れの薄紅]
……ん。
[寝起きのぼんやりとした感覚のままそちらに向かい、花弁に手を触れた瞬間、白い光がふわりと散った]
…………え?
[それと共に、意識の内に閃いたのは陽のひかりと、その下に佇む黒髪の姿。
理由や理屈はわからないけれど、一つ、はっきりとわかった事があった]
……そ、か。
侍祭さんは、ひと、なんだ。
[零れた呟きに籠もるのは安堵]
………………。
[それからしばし間を置いて]
……て、待とうよ、俺。
なんで、それ、わかるんだ?
[物凄く今更な現実に行きあたった。
とはいえ、疑問に答えてくれそうな宛は──]
……じっちゃん、なら。
[何かわかるかも知れない。
というか、他に相談する先が思いつかなかった。
昨日のやり取りの後は顔を合わせるのを避けていたけれど、今はそれどころじゃない、と思ったから。
着替える間も惜しい、と上着を引っ掛け、部屋を出る。
黒猫が一歩遅れてその後をついてきた]
─ ギュンター私室 ─
じっちゃーん、起きてるー?
[扉をノックしながら呼びかける。
祖父も朝は早いから、この時間でも大抵は起きているのだが]
……あれ?
[返事がない]
まだ、寝てる……? あー……。
[どうしよっかな、と。眉を寄せていると、黒猫が落ち着かない様子でかりかりと扉をひっかき始めた]
……モリオン?
[名を呼べば、黒猫は早く開けて、と言わんばかりににぃ、と鳴く。
その様子に首を傾げはするものの、同時に、只ならぬものを感じて]
じっちゃん、はいるよ?
[もう一度声をかけて、扉を開けて]
……え?
[開けた瞬間に漂って来たにおいと吹き付けてきた冷たい風に、息が詰まる]
ちょ……な、に?
[掠れた声に重なるのは、低い猫の鳴き声。
室内を見回して、最初に目に入ったのは開け放たれた窓。
次に目に入ったのは、ベッドの上で不自然ないろに染まった祖父の姿]
じっ、ちゃん?
[呼んでみた。けど、答えはなくて。
そっと、そーっと近づいて、もう一度呼ぼうとして]
…………っ!
[出そうとした声は、どこかに引っかかってしまう。
頭が上手く働かない。
それは、見えるものを受け入れたくない無意識の作用。
足の力が抜けて、その場にぺたり、と座り込んだ]
なに、これ。
……ね、なに、これ?
なんで…………こんなに、なって、ん、の?
[引き裂かれ、内にあったものを欠落させた身体はぴくりとも動かない。
それが何を意味するか、わかるけどわからない──否、わかりたくない]
……ねぇ。
俺、やだよ?
こんなん……こんな、わけわかんないの……わけわかんない、のにっ……!
なんで……ね、なんで……。
[纏まらない思考のまま、言葉だけがほろほろ、落ちる]
なんで…………おいてく、んだよ…………。
なんでだよ、じっちゃんっ!!!!
[答えなんてない。
わかってても、どうしても言わずにおれなくて。
呼びかけは、自分で思っていたよりも大きな──絶叫となって、響き渡る。
その様子を離れた所で見ていた黒猫は階下へと駆けだして。
二階の廊下で、誰か、だれかと訴えるようににぃ、にぃぃ、と忙しなく鳴き始めた。**]
─ 翌朝・客室 ─
[ようやく熱が下がったらしい。
頭痛を感じない目覚めに、寝台の上で小さく頭を振る。
げんきんなもので、少し元気になると空腹が気になった。]
ビルケもお腹が空いたんじゃないか?
[愛用の敷物の上で緩やかに尾を振る犬へと声をかけながら、寝台を出て着替える。]
[意識して注目したわけでもないのに、遺体が引き裂かれ>>28ているのを見てしまい、
「……あれは、人の手じゃつけられねーわ」>>1:115
「どう見ても、獣に襲われたような傷だった」>>1:131
とイヴァンが話していたのはこういうことだったかと納得する。]
エーファ、怪我はない?
立って、ほら…逃げなきゃ…危ない。
ここは……危ないよ……。
[エーファが座り込んだ>>28ままなら、助け起こそうとするけれども、
病み上がりのユリアンにどれほどの力があっただろう。
そうしているうちに、エーファの絶叫とモリオンの鳴き声>>29を聞きつけた者が、この部屋へやってきただろうか。]**
[エーファから許可を得、必要な道具を地下の倉庫から引っ張り出して外へと出た。
ロープの端を自分の腰に結わえて残りの部分を肩にかけ、スコップを担いで梯子を上る。
屋根に上がると頭頂部に設置されている輪にロープを通し、解けないようにしっかりと結んだ。
落下防止のための命綱、雪下ろしには必須なもの]
よし、やっぞー。
[準備が出来ると屋根の縁の部分から雪にスコップを刺し、隙間を作って落とし始める。
その作業を繰り返し、時間をかけて屋根の雪を下ろしていった]
[幸い、足を滑らせ宙吊りになることは無かったという]
[既に窓が空いているため、目指す場所を迷うことはない。
漆黒の獣がギュンターの私室へと飛び込んだ]
お待たせ。
…へぇ、カルメンは銀色なんだな。
綺麗な色だ。
[四肢で床を踏み近付きながら、聲をカルメンへと向ける。
自分とは対照的な、輝くような色。
素直に綺麗だと思った]
ついてる。
[近付いたところで、何が、とは言わずに告げて、銀毛についていた紅い色を舌先で舐めとる。
カルメンはどんな反応をしたか。
何か言われても、イヴァンは楽しげに笑った]
じっちゃん、朱花だったんだな…。
だから中央教会から書簡が届いたのか。
[ぴちゃ、と溢れる紅を舐め取っての呟き。
旅人の言葉を聞いていないため、ここで初めてギュンターが朱花であることを知った。
それと同時、疑問に思っていたことの答えを得る。
残る肉をこそぎ取りながら咀嚼すると、歌い手を襲った時には感じられなかった感覚が身を駆けた]
───ははっ、全然違うわ。
これが花───俺達のご馳走。
[愉悦を含む聲で言い、2・3口食すだけで留めた]
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