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[ドミニクと、うしろに牧師がいるならそちらにももう一度頭を下げてから、旅人は席に座りなおしました。]
そうだな。
出歩くには少し遅い時間だ。
[心配そうなドロテアの声を聞いて、旅人もかちこちと音をたてる大時計を*見上げるのでした。*]
ルイさんですか。
私はこの村で牧師をしている、メルセデスと申します。
たいして見る所がある村ではありませんけれども
……なんて言うと、村長さんに怒られてしまいますね。
住んでいるのは、良い人ばかりです。
どうぞ、ゆっくりしていってください。
[牧師は旅人にそう言うと、頭を下げました。
テーブルについた木こりの言葉が聞こえると、
牧師は苦笑を浮かべた後、神へとお祈りを*捧げ始めました*]
おや、老女 ゼルマ が来たようです。
老女 ゼルマは、おまかせ を希望しましたよ(他の人には見えません)。
[笹の葉先に夜露が結ぶ夜明け前、一人の老婆が森の中をゆっくりと歩いておりました。後ろにはやはり年老いた黒猫がまぁるい目をして従います。]
今夜は蒸すわねぇ。天気も崩れるかしらね。
[そういうと、リウマチで思うように動かなくなった右の膝頭をさすります。
痛みが治まりかけた頃、遠くにぼんやりと小さな明かりが見えてきました。]
あらまあ。はて、誰かしらねぇ。
[今度は腰を伸ばしてから明かりのほうに二、三歩近づきました。]
[やってきたのは噂好きな一人の男でした。夜明け前の森の中で、思わせぶりに、身体いっぱい使っておおかみの話を聞かせます。老婆はなぜかそれを聞いてうれしそうです。]
はいはい、ホラント。あんたの話は面白いけど、あたしの知ってる昔話も聞いておくれでないかい? まだ村の誰にも話したことのないとっておきの話さ。
あれはこのゼルマがこの村に嫁に来る前、隣村に住んでいた頃の話さね。その頃の私はこれでも美人で通っていたのさ……。
[黒猫がにゃぉん、と短く啼いてホラントが呆れ顔ですたこら行ってしまったことを知らせます。それでもしばらくしゃべり続けてから老婆は言葉を止めました。]
ふふっ、ホラントはこの手で追い払うに限るね。ああ、でも教えてくれてありがとうね、ヴァイスや。
[ゼルマはショールを掛けなおすとまたゆっくりと森の中を歩き*始めました。*]
/*
……黒猫に『ヴァイス』……!
黒にあえて白とつけるところが素敵ですわ、ゼルマ様。
……ところで、あと4人。
主人公的な立ち位置に入れる少年少女系が入ってこない、というのも寂しゅうございますね。
[そこら、自分でやる気はなかったんですか。
なかったんです]
[ゼルマは村の一軒宿でカップやらお皿をキッチンに運びます。何人か泊まりのお客がいるようです。
もう日が高く上っているというのに宿は静まり返っています。]
女将さんもいないし、ドロテアもまだかしら。静かすぎるわね。
[この村にしては普通の、けれども旅する人の目にも粗末と映るであろう朝食を用意し、ナプキンを被せておきます。]
早起きの人が居なくて助かったわ。
[老婆は洗濯を片付けようと*奥に入っていきました。*]
おや、少女 アナ が来たようです。
少女 アナは、おまかせ を希望しましたよ(他の人には見えません)。
ホラントお兄ちゃん。
きょうは、どんなおはなしをしてくれるの?
虹のねもとに埋まっている夢のうた?
ひとりきりの月の零したしずくのうわさ?
黒い森で暮らす双子のものがたり?
それとも、
それとも。
〔やがて始まるおはなしに、
まぁるい眼はきらきら光る。
楽しいことならばわくわく、
悲しいことならばしょんぼり、
こわいことならばびくびく。
それがどんなおはなしでも、何度聞いたおはなしでも、
いつでも、ちっとも、変わらない。
* アナはホラントの、いちばんの聞き手なんだから。*〕
〔朝になって、アナがやってきたのは、村の宿。
ここにはいろいろな人が集まるから、よく遊びに来るみたい。
けれども、今日は静か。
きょろきょろとしていると、ひとりの老婆が来て、机に何かを置いてくれた。〕
わあ。
ありがとう、ゼルマお婆ちゃん。
〔冷え冷えのグラスに、ほんの少しだけ緑に色づいた水。
その正体はすぐわかって、アナは頬を緩めるんだ。〕
[その少女の微かな笑顔に満足してゼルマもまた微かに笑顔を作った。]
ああ、いいんだよ。
[老描も機嫌よさそうに目を細くしている。]
〔ありがとう、
もう一度、お礼を言ってからアナはグラスに口をつける。
冷たくて甘い水は喉を通り抜け、からだの中に落ちていく。〕
今日はお天気悪くなりそう。
ヴァイスが顔を洗ってしまったから?
それとも空に悲しいことがあったから?
〔アナにとっては高い椅子。
つかない足をゆらゆらさせながら、窓の向こうの外を見る。
今にも泣きだしてしまいそうな青灰色が広がっていた。〕
[トントン、軽快な足音が階段に響きます。]
ヒールはやっぱり窮屈ね、こっちの革靴の方がとっても楽。
でも一番は裸足ね、久し振りに草原を少し走りたい気分。
[背伸びをしつつ、覗いた窓を覗くと今にも振りそうな雲行き。]
雨……?
この季節はしょうがないのかな。
[残念そうに窓の外を見て、首を傾げます。]
[ロビーには、老婆と少女がいました。
ツィンカはお辞儀をしながら、挨拶をします。]
おはようございます。
本当に静かですわ、怖いぐらいに。
男性の方で出掛けている方も多いですし、何も起こらなければればいいんですけど……。
[席に着きテーブルに用意された食事を口にしながら呟く。]
今日は少し母のお墓参りに行きますの。
帰って来るのが夕方になるかもしれませんわ。
皆さんに伝言して下されると嬉しいですの。
[朝食を指差し。]
少しパンを頂いて行きます。
ちょっとお墓がある所まで遠いので、お腹が空いた時に頂きたいので。
[バケットの中に、花とパンと紅茶の入った水袋を詰めます。]
では失礼しますわ。
あ、おはようございます。
〔きちんと足を揃えて、膝に手を突いてご挨拶。〕
あれ? ええっと……
〔はじめましてを言おうとした声が止まり、
お客の顔を見て、アナは眼をますます丸くする。
うろうろ、視線が何かを探すように、さまよった。〕
〔閉まってしまった扉をじっと見て、眉根を寄せるアナ。〕
ゼルマお婆ちゃん、あの人、旅の人?
〔質問にはどんな答えが返ってくるのやら。
空っぽになったグラスを持って床に下りると、
自分でかたづけると言い張って、
まるで自分の家のように宿の奥へ駆けていく。**〕
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