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―戻る前、結界内でのこと―
[とりあえず陽光竜にどこか空いた部屋を宛がわせ、ついでに混沌のカケラについては『絶対触ったら駄目!』と口を酸っぱくして言っておいた。
傍にユーディット、ギュンターが居るならともかく、一人で対応出来るとは思っていない。
また食料に関しては食堂の保存食を腹が減ったら食べるように言っておき。
どこかにギュンターとユーディットが居るだろうから、もし困った時は二人を探すようにも告げる。
陽光竜の細かな反応に関しては省略。
怒りか、嘆きか、それとも放心か。
どれであっても受け止めて。
部屋に混沌のカケラが無い事を確認してから、夏玲を置いて外に出た。]
…だめ?
たのしそう、なのに。
[萎れる様な声に、内心私は安堵する事になる。
窓から飛び出て行ったのは見て取れたが――まさか真似したいなどと言い出すとは夢にも思わなかった故に。
地竜殿にお止め頂き助かったと云わざるを得ないであろう。]
うん、あのね。
[目線の近しくなった地竜殿を真直ぐに見据えつつ、仔は先を促され地竜殿の耳元へと顔を近づける。――不要に口外してはならぬという言葉に従ったか、さては秘密裏の会話で話すのを気に入ったのやも知れぬ。
何れにせよ地を這い、未だ仔よりも距離を置く私の耳元には声は届かぬ。]
けん、もってる?
すっごい、つよいやつ。
…聖魔剣。
[胸元を押さえて小さな声で呼びかける。
けれど応えは無い。小さく唇を噛む。
この中では特に力を抑える理由、そんなものは聞くまでもなく分かっていた。だからこそ外に出されたのだから]
申し訳ありません、我君。
[それでも何があっても干渉された者に渡すことはしまいと。そう決意を込めて顔を上げた]
―東殿・個室前の廊下―
[西殿の方を見ていた時、不意に風が動くのが見えた]
あの影は、風竜……ティルの?
[何が起きたのだろう。
感じた胸騒ぎは、徐々にではあるが、膨れて行く。
先に西殿へ向かおうと、踵を返したところで。
部屋から出てきた、命竜の姿が見えただろうか]
なんつーか……わっかんねぇ。
[ぽつり。
雨の中に零れるのは、小さな呟き]
どいつもこいつも……そろいもそろって。
何がしてぇんだよ?
揺らされた連中も、竜王も。
ひそひそこそこそして……ワケわかんねぇよ!
[吐き捨てるよに言いつつ、結界を殴りつける。
鈍い音が、雨の向こうに響いた]
……幼き仔竜です。大地殿も無碍な扱いはされないでしょう。
何を聞いたとしても子供の戯言で済みます。
[仔竜の話し方によっては危ないのはオティーリエ達の方であり、袖の陰で笑みが儚くなった。
そして青年の眼差しに怪訝な色と納得の色が混じりながら過ぎる]
――あぁ、また虚竜王の不機嫌が起こったようですね。
これは……エルザ殿?
風邪をひきますよ?
[ そっくり同じ口調で、影は言う。
外へと歩み出せば、同じく濡れるのだが。水を含んだ土は普段よりも柔らかく、微かに沈んだ。数歩の距離を置いて立ち止まる。]
―戻る前、結界内でのこと―
[中庭の方から聞こえる音に、こっそり窓から様子を伺うが直ぐに隠れる。触らぬ神になんとやら。
ギュンターの事は気になったが。幼竜の様子を確認し終え、用が済めば外に出ようかと足を向けたところで。
感じるのは妙な予兆。]
んん?…何だ。
[それが虚竜王の不機嫌としるのは、直ぐ後。
妙な気配を探り、カケラを掻い潜り丁度エルザが顔を上げたところに出くわし目が合った。]
…………よ。
[片手を上げてひらり。表情は少し驚いていたか。]
そうですね。
老君は何もしないでしょうから――でも、何かあったら、助けてあげてくださいね。
[アーベルの心配はわからない。
ただ、彼ならば頼れるのだ。]
エルザ殿?
――本当に無差別ですね。
―東殿・廊下―
[なにやら慌しい声が聞こえるが、原因は分かっていた。
先ほど、西殿の中で会った――彼女の件だろう。
ダーヴィットあたりはめっさ凹んでるんだろうなと思いながら、自身も再び、今度は徒歩で西殿へ向かおうとして。出くわした影一つ。]
よう、氷竜殿。
騒がしいようだが…何かあったか?
[さも今しりましたと言った風に尋ねかける。]
…クレメンス、様。
[グッと息を呑んだ。気をつけろと再三言われてきた相手。
しかもこの西殿の中に居られるとなれば、その答えは一つ]
干渉を受けましたか。
…それすら気付いておられないのやもしれませんが。
[だがこの相手は恩人でもある。
覚悟はしていても、苦いものが広がる。
壁の向こうから響く音に少しだけ気をとられながらも、目の前の相手を睨んだ]
[ ふ、とノーラの意識を深淵に引き落とす。
光と闇の分かたれぬ今、浮上するのはかなり億劫ではあるが。]
引かなかろ。影なればな。
[ 紫に変わりし瞳を向け月闇の竜を映す。煙る雨に、視界はやや霞んだ。]
己であるを望むが故に、力を求めるか?
[しばし、壁を睨むように見た後。
東殿には戻らず、庭園の木の上へ]
…………。
[そのまましばし、枝の上から雫をこぼす空を*睨むように見つめ続け*]
―東殿/食堂―
[大地の老竜と翠樹の仔竜の話は内緒なので当然聞こえない。
風を聞く疾風の竜ならまだしも、青年では何か冒険めいた仔竜の心の動きを感じる程度だった。
そちらに意識を向けながらも開け放された窓へと歩き、雨風が入らぬように閉じる。
そして振り向いた時、意気消沈した若焔が食堂へと入って来た]
……エルザ殿が?
それは…どのようにしてですか?
[飛び出した疾風竜の言葉により概ねわかっていたが、正しく刻む為に問いかける]
疾風竜 ティルが「時間を進める」を選択しました。
―戻る前、結界内でのこと―
干渉?ああ、まぁ一応な。
[力が増えた事の自覚はある。散々揺れるものの話は聞いてきたので、予想くらいはすぐ出来た。
よもや精神面まで干渉されたとは思っていないのだが。]
あいつらお前さんを襲うた言ってなかったな。
虚竜王のあれに巻き込まれたか。
[近いうちにばれるとは思いはしたが、アーベルとオティーリエの名は伏せた。
こちらの調子は常のまま。
睨む眼差しにもへらり、笑みを湛えて受け返す。]
―東殿・廊下―
ごきげんようかしら、命竜殿。
[意味無く同じ呼び方で返した後には、ふるりと首を振り]
騒がしいほど、騒がしいのかは分からないけれど……
今、ティルが結界のほうに駆けて行ったみたいなの。
……もしかしたら、また誰か「引き込まれた」か。
それとも、揺らされたものに襲われたか。とにかく、何か起きたのかも。
[ふるり、首を振るう]
―― 食堂 ――
[飛び出していく風竜をただ見送ったのは、恐らく珍しいことだろう。ダーヴが食堂に現れてから、ようやく、息を吐く]
…他は、無事かな?
結界を見に行くか、人の集まっているところに行こうかと思ったんだけれど。
貴方は?少し、疲れているようだけれど……。
[どこか疲れているような命竜に向かい、尋ねる。
また探査の為に力を使ったのだろうか。そんな風に、気遣うように]
振り向いた時にはもう、無限の輪に捕まってた。
十中八九、虚竜王様の手によるものだと…。
[半ば鱗の生えた手をきつくきつく握り締める。]
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