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[空に光った紫の光と、遠くに聞こえた雷鳴に気を取られて、羊飼いはアナの歌を良くは聞いていませんでした。ただ稲光を反射した斧が、とても恐ろしく見えたので、木こりとは視線を合わさないようにしたのでした]
[アナの小さな歌声が、おじいさんの耳にも届きます。
そして、牧師へと問い掛ける声]
こんな小さい子まで……。
こういうのは、大人だけで済ませるものじゃよ。
[おじいさんは同意を求めるように周囲を見ましたが、しかしあの日、アナもまた森へと踏み込んでいたことの意味を、おじいさんは考えまいとしているようでした]
黒い森には、神さまの手も届かないのに?
〔メルセデスをじっと見て、アナは言った。
ただ、不思議そうに。
それからくるりと向きを変えて、アルベリヒのそばへと寄っていく。〕
アルベリヒさん、ごめんなさい。
お世話になります。
〔ぺこりとお辞儀をして、二匹の羊にも、よろしくと挨拶をする。〕
[ゼルマはなんとなく、本当になんとなくですが木こりは人に化ける獣ではないかもしれないと思いました。]
うん。信用できる人を見つければいいのよね。
[では、信用できない人はどうすれば良いというのか。ドミニクを信じることは正しいかも知れませんがではどうしても信じられない人はどうしたら良いのでしょうか、、、みんなから信じられなかったら、その先に待っているものは何でしょうか。
ひとつの答えが浮かびかけましたが、ゼルマは本能的に否定してしまいました。
そうして、やはり答えは見つからないままなのでした。]
[それに、木こりは喪服を着ていないのでした。
ホラント探し、見つけ、教会に運び込んだままの姿です。
葬列に加わるには腰布に差した斧も相まって相応しくはないのでした。]
悲しむのは後でいい。
……神様に祈るのも、牧師さんに任せたしな。
[呟きは雷鳴に紛れて消えるのです。]
[少しだけ、旅人は黙り込みました。
とんがりぼうしを引き下げます。]
旅をしているとな。
色々なことがあるから、自然と疑り深くなってしまうものだ。
村の人がどうかは、分からないけれど。
[小さな声で答えます。]
ドミニクや、どうか間違えるでないぞ。
自分のする事の意味を、ようく考えるのじゃぞ。
[斧の刃が、ぎらぎらと光っています。
あの斧を振るったら、どんなものでもたちどころに切り裂かれてしまうでしょう。
人狼でも、人間でも]
ああ、こっちこそよろしくな。アナ。
[ペコリとお辞儀をした少女に羊飼いは笑いかけました。葬儀が終われば、その約束通り、少女を連れて牧場へと帰って行くはずでした**]
ええ。
ですから人は、神様の手の届く所で暮らすべきなのですよ。
[牧師は少女に告げると、羊飼いを見やります。
彼が少女に危害を加える者でないことを神に祈りながら]
[アルベリヒと視線が合わないのが、わざとなのか。
それとも帽子のせいなのかはドミニクにはわかりません。
涙もろい羊飼いが目元を隠しているのかもしれないからです。
木こりはアルベリヒの羊を見ます。
狼に怯える羊は人に化ける狼にも怯えるか考えるのでした。]
[小さな声の答え。
疑り深くという言葉に、少し眉が下がりますけれど。]
……ありがとう、ルイさん。
[続けられた言葉には、本当に、嬉しそうに笑いました。]
お引止めしてしまって、ごめんなさい。
それじゃ、わたくし、参りますね。
[葬儀は終わった。
散り散りになる人々を見送りながら]
牧師様、本当にアルに任せて良いのでしょうか。確かに宿も女将さんが居なくなって大変ですけど、部屋もありますから……。
〔アナは納得がいかないといった顔をしながら、メルセデスを見る。〕
神さまは手を差し伸べてはくれるけれど、
なんでもしてくれるわけじゃ、ないと思います。
道を照らされる前に、じぶんで歩く足を持たなくっちゃ。
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