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…
[花びらと紫煙が混ざれば黒い光が生まれ、辺りが暗くなったのを感じた]
…
[圧倒的な力量差なのか…
やがて、ヘルガの声色が変わると、少女は静かにその様子を*見守っている*]
[魔の…ヘルガの力が弱まり、弱々しく呟くような声が続く]
……あぁ、結局これもあのオルゴールに魅入られただけの、オルゴールに囚われた愚かな……
[小さく呟く。哀れみにも似た色を含み]
自らの終わりを知っても、まだそれに固執するというのもあのオルゴール自身の魔力なのかの。
魔すら取り込み歌う……
その様なものの封印が今更叶う物なのかの……。
[魔を凌駕する力を秘めし執事。
しかしそれをもってしてもそれは叶うか否か]
ワシにはどうする事も出来ぬて。
[ゆらり揺れて、そのままその場の成り行きを*見守り続ける*]
─庭園─
[ホールを抜け出した彼女はシャベルを片手に庭園に現れる
向かう先は白と黒の薔薇の咲く区画。先ほど、ヘルガが居た場所
その場所には白い薔薇の蕾がある……筈であった
しかし、そこにあったのは薄紅色に色を染めた五分咲きの蕾
そして、鼻歌交じりにその根元を掘り出す]
[執事自身、音色に関心がないと言えば嘘になる。
否、むしろ――けれど、それを表に出す事はなく]
お気づきになりませんか?
人をあやかす魔たる貴女こそが、歌に魅せられている事に。
その快楽は刹那に過ぎず、やがては貴女の身を滅ぼす。
美しきは永遠に喪われてしまう。
[先程までの様子と一転して、孔雀石の瞳は柔らかな色を帯びる。
薄い口唇から零れるのは、まるで睦言を紡ぐかの如き甘いテノール]
戻れなくなる間に―― こちらへ。
[既に間に合わぬと、執事は知っているか、知るまいか。
頑是無く頭を振り、虚ろな存在となる女に手を差し伸べようと]
ああ……なるほどな。
それで、か。
[駄々をこねるような言葉に。
零れ落ちる呟きは、どこか……納得したような響きを帯びて]
……愚かな事を。
『歌姫』を……独占しようなどと……。
[はっきりそれとわかる嘲りを込めた言葉と共に、翠の瞳がす、と閉じられ。
……次にそれが開かれた時、そこにいるのはいつもと変わらぬ……しかし、いつもよりも疲労した様子の青年で。
もし何か問われたなら、できうる限りは答えようとするだろう。
……それでも、今の自身の変化については、*言葉を濁す事だろうが*]
[女性の姿が揺らめき。]
[殆ど同時に、蒼かった筈の双眸は紫を経て煌々とした完全な紅へと変わる。]
・
・・・や、
[薄闇の中で光るそれは何を視ているのか、怯えを含んだ微かな呟きを洩らした。]
[純粋な魔そのものである女は、魂ごと存在が揺らぐのか。
紅の姿は、半ば透けて薄紅色へと…淡く淡く変わり行く]
…ィヤァ……嫌なのォ……
[消えることか。返すことか。それすらも曖昧に頭を振る]
[それでも、睦言のように繰り返されるテノールは、女の耳へと届いたのだろうか。
差し伸べられた手を、女は…魔は戸惑うように見つめて]
…魔が…魅せられ…るぅ…?
ゥゥン…違ゥ…私はァ…魅せる為の…華(モノ)……
[ぽろぽろと露の雫が零れ、床へと届くことなく霞んで消える。
彷徨う様に…白か黒かどちらへ触れるか迷う様に指先が伸ばされ――]
[極東の島国では薄紅色の花を咲かせる木の下には死体が埋まっているという
そして、この薄紅色の蕾の下に埋まっているのは……]
……あはっ
[カチンという音がし、ショベルの先端が硬いものにぶつかる
ショベルを放り投げると、服が汚れることも気にせず、手で土を掘り返す
かくして、土の下から姿を現したのは]
あは、あはは、あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
見つけた。見つけたわ、『私の』歌姫! 彼の言った通りだ!
さあ、歌わせて差し上げます。もっともっと。心逝くまで!!
[高く笑い声を上げるその手の中にあるのは、土の中にあったにもかかわらず変わらず銀の輝きを放つオルゴール]
―――…、
[目前で起こる理解の範疇を超える出来事に、僅か目を見開いて。
それでも、紫煙が黒の光へと飲み込まれ
女の身体から虚ろに、力なく紅の花弁へと散っていくのを見れば
気付けば、青年の足は踵を返し一歩踏み出していた。
ふわり、と。 その服の裾が、蒼の髪が―――翻る]
[傍に居た金髪の青年の異変に、気付かなかったのか
それとも、気付いて尚その笑みを浮べ、気にも留めなかったのか]
・・・・・・っ
[息を飲むような音。]
[魔の魂が消えた瞬間、身体が傾ぐ。]
同じ・・・
ナターリエさんの、時と・・・
[呟くと共に崩れ、膝をついた。]
[紅い左眸から一筋流れ落ちる泪は、血のようにあかい色を*湛える。*]
[微かに震えた口唇は、薔薇の艶女の名を紡いだか。
されど一連の出来事は、声をあげる間もなく起こり――
流石に魔と対峙していれば、周囲に気を配る余裕もなく。
気を抜いた一瞬に襲い来た眩暈の如き感覚に、額を押えた]
『少々、使い過ぎた、か』
[一部は相手の力を利用したとは言えど、
元より仮契約の身の上、当の主がいないともなれば、
己が用いる事の出来る能力は大分制限されているというのに]
……オルゴールは、何処に?
[問いかけに応える声は、ない]
[緩く首を振り、振り向いて、周囲を見渡す。
孔雀石の瞳の焦点は合い辛く、視界はややぼやけるか。
その場にいる者、いない者。
それを認識する事は、現在の執事には叶わず。
それでも、普段通りの笑みを客人達へと向ければ、
騒ぎの謝罪をして、ひとまずの後処理を*行うだろう*]
[その時、オルゴールが歌声を響かせる
そして、薄紅色の蕾は一気に花開き、真紅の薔薇を咲かせる]
あははっ、わかる。わかるわ
あの女の魂が今この中に入ってきた!
いい気味だ。私の歌姫を奪ったりするからっ!!
さあ、奏でてくださいな。あなたの歌声を
さあ、もっと。もっともっと。もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっとモっともっトもっとモッともットモっともっトモットもっともっトモットモットモットモットモット……
[土に汚れた手を気にすることなく顔を覆い、壊れたラジオのように言葉を繰り返し続ける]
―――思っていたより随分と、呆気ない
[幕切れだったな、と。
そう呟く声は、何時もの青年よりも、低く冷やかに響く。
それは、何処か詰まらなさそうな色を含んで。]
…まぁ、余興にしては十分過ぎるか。
『アーベル』も、そろそろ勘付いて来た頃合いだからな。
[青年の掌を見詰めつつ。
呟く声に焦りの色は見えない。ただ、それすらも余興だと言う様に]
[ふと。気配の流れる方へ視線を向ける。
この響きが庭園からの物だと悟れば愉快気に、その紅の瞳は細められ]
後は…刻までに、あの『駒』がどう躍ってくれるのか。
―――…さぁ、精々楽しませろ。
["私"は、ゆっくりと見学させて貰おう。
くつりと、口端が歪む。]
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