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薄い……?
[さながらそれは、無理矢理引き伸ばしたかのような手ごたえの無さ。
影を殴るかのような手ごたえだった]
誰が、触った?
[そう自分に問いかけるが、混沌のカケラはそのような思考も許さないかのように、次から次へとその数を増やしていく]
ああ!もう!
邪魔ですわぁ!
[言って、左手からもう一つ水のハンマーを生み出して、混沌のカケラの中をつぶしながら進んでいった]
[ティルに答える前に、緊張の走った体ははじけるように立ち上がる。]
これ、は…?!
[廊下へと駆け出ると、黒いふよふよしたものはゆらりと形を変え始め…人の形を取った。
ゆっくりと、何かの形を取ろうとするカケラの向こう、人の影が見え。]
…何方か、おられますか?
危ないです!
[誰か確認する前に、声をあげた。]
―東殿:廊下―
……、…っ
[回廊に浮遊する其れを眼に留めたか僅かに息を呑むのが私の耳に届く。
闇にも似た欠片は幼子の記憶に酷く新しい。
其れと同時、あれに触れてはならぬと聞かされたのも
幼子には強く記憶に刻まれている事でもあった。
仔は怯えにか、はては冷静な上での撤退を目論んでか一歩退く。
欠片の向こうには、幾人かの姿も見えるが呼ぶには僅か距離がある。
呼ぶには聊か拙い、しかし自らには対処する術を持ち合わせておらぬと、仔は重々に承知していた。]
っとに!
悩むヒマくらい、よこせっつの!
[駆け出したミリィに続くよに駆け出す。
飛び出す間際、常磐緑と銀のロッドはしっかり掴み。
まだ濡れた緑で、傷痕を包み込む]
っだあ、もう!
いつの間にこんなに増えてんだよ!
─東殿・廊下─
―東殿の一室―
[陽が消え、天が隠れ、時が失われて――昼も夜も時間もどこか曖昧だった。心が必要とするだけの休息を得る為に眠る]
………?
[青年が重い瞼を上げたのは、廊下に濃く満ちていく『混沌』の気配の為だった。まだ少し湿り気の残る髪を長い指で耳にかけ、椅子から立ち上がる。
白いシャツの上に掛けていた長衣を羽織り、扉に手をかける]
[ダブルハンマーで道を作りながら進んでいると、廊下の向こうから、ミリィの声が聞こえた気がした]
雷の?
此方は大丈夫ですけど、其方は大丈夫ですの?
[なんとなく。
昨日中庭で声かけられた時に似てるなとか思ったり思わなかったりしながら、やはりダブルハンマーで道を切り開いて、雷と風の元へと辿りついた]
─東殿・回廊─
[気配の下、前方の曲がり角から顔を覗かせる。その先には回廊の幅を埋めるような黒い何か]
誰ぞがまた触りおったのか?
面倒な…。
[ぶつぶつ言いながら砂の翼を背に展開させる。背に現れた翼はその形を変え、うねりとなって黒きものへと襲いかかる。蛇の動きにも似たそれは、廊下いっぱいに広がっているそれの一部を削り取るように巻き付き、締め付け霧散させた。その奥に、見慣れた背が現れる]
ぬ?
エーリッヒか?
< 結界を振り返り、暫し目に映していた。
僅かな間、目蓋を下ろした後、再び揺らめく。
結界の付近には欠片は殆ど居らず、此処では都合が悪い。
蠢く影に似た存在を感じながら、黒布で包むようにして気配をその中に隠し、東殿へと戻る。集団とは、近すぎない位置を保って >
[肩当てから伸びる鎖を掴み、ブンと振り回す。
人の形を取ろうとしていた欠片は砕け、その向こうに居る流水の姿が見える。]
ナターリエ殿。
ええ、私は大丈夫です。
何故急にこんな?
[ハンマーを見て、頼もしいですね、と、少し肩の力を抜いた。]
あ、流水の!
[やって来たナターリエの声にそちらを振り返り。
同時、後ろから迫るカケラ──否、影の如きモノへとロッドを突き出す]
……?
手応え、軽い?
[それを訝る間もなく、次が寄ってきたりするのだが]
―― 私室前・廊下 ――
[ざわりと、薄い影のような欠片が動いた。そのままざわざわと揺れながら薄い壁のように高くなっていく。下手をするとそのまま押しつぶされそうだった]
でええっ!?俺、触ってないよ!触ってないからねっ!?
[誰に向かって言い訳してるのか意味不明です]
それは、私のほうが聞きたいぐらいです……わぁ!
[最後の言葉と共に、寄ってきた混沌のカケラを横殴りに吹っ飛ばした]
ただ。
知っての通り、手ごたえが軽いんですわぁ。
まるで、影を殴っているかのように。
[一応、一時的な暴走状態により、力がありあまっているということは伏せておいた]
風のも、一緒だったんですねぃ。
どう?
少しは自分の思っているままに疾っています?
……って、ああもう、うざったい!
[言いながら、右手のハンマーを変容させて、パイルバンカーのごとく勢いで混沌のカケラを突き刺した]
―― 私室前・廊下 ――
[背後から来た地竜に気付いて、慌てて右手を振る]
あ、ザムエルさん、危ないから近付かないでっ!!
[危ないのは、おまえだ]
―東殿/回廊―
[静かに扉を開き廊下の様子を伺うと、影のようなものが漂っていく所だった。それが十分離れるのを待ち、扉を開けて滑り出る]
……目覚ましにしては賑やか過ぎるな。
[あちこちから聞こえ始めた物音に呟き、レンズ越しの紺碧を漂っていく影の背に向ける。混沌の欠片にしては大きく、けれど攻撃しては来ない様子を見送って、逆方向へと足を向けた]
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