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[飛び出すのが僅か遅く、伽矢を止められないまま地面に倒れてしまった。
そのまま伽矢の足を掴もうと手を伸ばす。
私は薄々感づいていた。
史さんが憑魔ではないことを。
おそらく、伽矢が憑かれている事を。
一息に伽矢を殺せるだろう力がありながら、彼は防戦一方だった]
[相手へと突き刺したナイフはたちまち凍りついてしまう]
てっめ…!
…憑魔じゃなくても、治るやつは居るだろ!
[含めた意味が通用するかは判らない。
抜くことが出来なくなったナイフを離し、殴りかかろうとして]
っ…!
[倒れた母親に足を掴まれる]
…邪魔を、するな!!
[横槍が入ったこと、相手を仕留め切れないことに苛立ち、オレはチカラを解き放った。
オレを中心に放射状に放たれる、圧縮された空気の球。
牽制の威力しかないそれを放ちながら強引に母親の手を振り切り、オレは男に突進する。
両手の先には圧縮された空気の爪。
その爪で相手を切り裂かんと、真っ向から詰め寄った]
[相手が離れ、片膝をつく。
血は溶けて、ナイフが地面に落ちた]
……は。
こんな、人の話も聞かずに襲ってくる『司』が居るかよ。
[言いながら巫女はやりかねないかも、と頭の片隅を過ぎったが、今は無視しておいた。
相手が足を掴まれて手間取るうちに、白い冷気を纏う右手を前へ]
『貫け。』
[低い声音。
冷気は細長い氷錘となって、真直ぐに伸びる。
斜め下から、制止を振り切り飛び込んで来る少年の、胴の中央を狙った]
てめぇが憑魔だと思うからだよ…!
[そうこじつけるしか無い。
睨む翠の瞳は片膝をつく男を捉え、両手を大きく振りかぶった]
[大きく開いた上体。
攻撃にだけチカラを回していたせいもあり、無防備なそれを護るものは何もなかった]
…っ!! が、ぁ、っは…!!
[意識外から飛び出してきた氷錘は、違わずオレの胴を貫く。
飛び込みの勢いもあって、それは深く突き刺さった。
喉奥から込み上げて来るものを感じ、オレは咳き込むようにしてそれを吐き出す。
どす黒い赤が、地面へと広がった]
…く、そ……この、くれぇ…。
[修復をかけようにも内臓の損傷が尋常ではない。
治癒力を大きく上回っていた]
…お…じ……りた…った…に……。
[言葉にならぬ声。
チカラがどんどん抜けて行く]
[伽矢から、強い風が吹き付けられ、怯む間に振り払われてしまった。
起き上がる間に、再び伽矢が史さんに襲い掛かる]
伽矢、伽矢!
[振り絞った声は届いていない様。
そこへ、冷たい声。
店出会った時、この公園で会った時とは人が変わったような史さんの声]
駄目。 だめよ。
伽矢、伽矢!!
[そう言った時には既に。伽矢の身体は貫かれていた]
かや、にいちゃ。
[氷に貫かれるいとこを、じっとじっと見つめた。
て、て、とゆっくり近づく。
大量の血の匂いは恐怖を呼び起こす。
だが、何故か今は悲鳴を上げることはなかった。]
にいちゃ。
[百華が先に近づくだろうか。
伯母より近くにはいけない。
それでも顔が見えるほどは、近くに寄った。
瞳はきょとんと、無垢色に。
うさぎもいっしょに揺れている。]
……人を殺した報い、受けなさい。
[その命の炎を消そうとしている伽矢を見つめながら、私はそう呟く]
心配せずとも、私もいずれ受けるだろうけどね。
ただ、あなたのほうが先だった。それだけよ。
[氷錘は貫いた内側で、更に細かい枝を伸ばしていた。
治癒は難しいだろう]
……同情はしてやるよ。
[それだけ呟いた。
周囲には目を向けない。
『憑魔』がチカラを失うのに比例して、氷もまたじわりと溶けていく]
伽矢、伽矢、伽矢!
[倒れた我が子の傍に駆け寄り、髪を撫でる]
あんたは伽矢? それとも、憑魔?
……どっちなの。
憑魔なら、返してよ。
伽矢を返して。
[細かい枝が身体を侵食する。
オレはまた赤を口から吐き出した]
─────………。
[従妹がオレを呼ぶ声がする。
けれどもう声が出ない。
視界がぐらりと歪む。
誰かが何かを言う声すら聞こえなくなってきた]
[身体を貫いていた氷が溶けて行く。
広がる赤、闇に沈む意識。
氷が完全に溶けた頃、オレの躯は地へと*倒れ伏した*]
……。
[遠く離れた伽矢に泣き崩れながら寄り添う百華を見つめ、神楽がボソリ呟いた]
私にとって、憑魔は最悪の別れの象徴だけど、あなたにとっては、大切な絆、だったのかもね。
……愛しいなら───
[暗い目]
───食らって、その身に宿すもいい。
憑魔になり、誰かに殺されるかもしれないけど、少なくとも私はもうこの町にいるつもりがない。
後なんて……知るか。
私の此処での復讐は終わりだ───。
[いつものように撫でてもらえなくて、ちょっとがっかりしたけれど。
崩れていく伽矢の姿を、最後までじっと見つめていた。
神楽が何か言った。
史人が何か言った。
百華が何か言った。]
みんな ひとごろしだね。
[他人事のように自分も言った。
そこに自分も含まれているのか。
うさぎだけは、変わらない。赤い瞳で、空を見つめる。]
……。
ああ。ひとごろしだ。ひとぐいだ。
誰も彼も。
それが、この騒動の、呪いかもね。
[千恵の言葉に、そう小さく呟くと、やっと治ってきた体を引きずり、結界が解けたのを確認して、ふらふらとその場から立ち去っていった。
後の姿を見たものは、*誰もいない*]
……あぁ、だる。
[憑魔は動きを止めた。
ほぼ同時に、限界も訪れる]
まぁ、やるこたぁやったし。
……後は頼んだ。
[内で見ていた『彼』に呟き、目を閉じた]
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