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─ 朝・大浴場 ─
[まだ誰も起きていないらしく、途中で覗いた広間は無人だった。
くしゃみをこらえ、ビルケを気遣いながらも、できるだけ急いで大浴場へ入る。
脱衣所に入っただけでも、冷えた身体が温ま>>1:20り、ユリアンはほっとした。
熱い湯で手ぬぐいを絞り、先にビルケの四肢を拭う。
それから癖のある毛にブラシをかける。
肩から背中、脇腹、肢。
暖かい空気とブラッシングに安心したのか、ビルケが大きく口を開いてあくびした。
エーファにとって食事の支度が日常の作業であるように、ユリアンにとってはビルケの世話が日常の動作だ。
抜け毛をまとめて丸めながら、思わず笑みがこぼれた。]
[この季節、老犬の毛を濡らすような真似はできない。
いつもの敷物を置き、ビルケにそこで待つよう指示すると、ユリアンは手早く服を脱いで浴室へ入る。
湯に浸かるのは数日ぶりだろうか。
肺に暖かな空気が満ちると、それだけで深い満足感をおぼえた。
まだ異常事態は終わっていない、そう思いはするけれども。]
[湯船の中からユリアンは天井を見上げる。
寝込んでいたせいで、誰が何をしていたのか、まったく把握できていない。]
エーファ……イヴァン……カルメン……オトフリート……。
[指を折って数えてみても、もはや誰に相談すればよいのか、見当もつかなかった。
成り行きとはいえ、ユリアンが手にかけてしまった旅人は人狼だったのだろうか?
でも、ライヒアルトの喉笛を噛みちぎった人狼が、]
まだ、この館のどこかにいる……。
[結局、誰かに教えてもらうしかないという結論に至った。]**
─ 広間〜厨房 ─
[広間にはまだ誰も来ていなかった。
ユリアンは暖炉に火を起こし、ビルケを残して厨房も覗いてみる。
エーファはいなかった。
遠慮している場合ではないので、薬缶で湯を沸かしたり鍋の残り物を温めたり。
ビルケ用にも湖で獲れたらしい白身魚を煮ておく。
飲み物と食べ物を確保すると、広間へ戻った。
腹を満たすと人心地付いて、気分まで明るくなる。]
─ 翌朝 ─
[この日も目覚めは緩やかだった。
破られることのない眠りからの起床は清々しい。
身支度を整えて客間を出れば、廊下一帯に視線を投げた]
………んー、
[スン、と鼻を鳴らす。
ライヒアルトの部屋に行き、何かを確認した後にユリアンの部屋の扉をノックした。
返事は無い。
寝ているか既に部屋を出たか、居るならビルケが反応している気もするため、既に起きている可能性も考えた]
なんともねーなら良いが。
[勝手に開けるわけにもいかないため、他で見つからなかったらまた来ることにした]
[次いで、カルメンの部屋をノックする。
こちらからも返事は無い]
………?
[先に起きていてもおかしくはないが、何となく嫌な予感がした]
[最後にオトフリートの部屋をノックする。
彼はまだ部屋に居ただろうか。
居なければ姿を探し、呼び止めた]
侍祭さんのことは聞いたか?
[向ける話はライヒアルトがギュンターと同じように襲われていたこと。
けれどそれはただの切欠でしかなく]
──…何を考えている?
[本命の問いかけは言葉短く投げるに至る。
オトフリートへと投げる視線は、知ってるんだろう、と断定気味に問うていた]
─ 広間→厨房 ─
[体格で、遠目にも庭園の人影がエーファであることはわかった。
いつか見た>>3:11、>>3:12ときのように、薔薇の植え込みで歌っているのだろうか。
短い言葉>>3:22は聞こえなかったが、何度も瞳を瞬>>3:21かせていたことを思い出すと、]
……人狼、には思えない……。
[ユリアンはつぶやく。
ギュンターの部屋に駆け込んだ>>2:34ときの、彼の様子もおぼえている。
3階への階段で絶叫>>2:33も聞いた。
あれが故意の演技だったとはとても思えない。
考えながらも注視していると、立ち続け>>27るエーファへ近づくイヴァン>>48の姿が見えて。
ビルケを暖炉前に残し、ユリアンは厨房へ移る。
起きてくる者のためにお茶を沸かしておこうと。]**
─ 厨房→広間 ─
[厨房で湯を沸かし、茶の用意をしているころには、誰かが起きてきただろうか。
厨房を覗くか、あるいは広間で待っていた者がいれば、顔を曇らせて、]
あの……。
実は、ライヒアルトさんが部屋の中で……。
[言葉少なに2階の部屋で見たものを伝えるだろう。]**
[夜、確認すべきことを確認して客間へと戻ろうとした時、
イヴァンから呼び止める声>>14が掛かり足を止めた。
振り向き、話を聞く態をみせれば綴られるは頼み事。]
気になること?
[何だろうと首を傾げれば、ユリアンの名が綴られる。
昨日のこと、今朝のこと、と
彼の話したいという件が気になり是の返事をした。]
――…、
[件のユリアンもエーファからひとであると判じられた。
エーファに関しても信頼できると思っていた。
イヴァンがひとならば伝えておく方が良いとも思うが
イヴァン、オトフリート、カルメンの三人の中では、
痣を見せた時の反応でカルメンを疑う気はなくなっていて、
オトフリートに関しても助言のようなそれを受けたのもあり
まだ絆されていない彼がまだ疑いを向けやすくあった。]
[夜更けになり約束していた来客が訪れる。
扉をあけて部屋へと招き入れた。]
――いや、構わない。
私も、話したいと思っていたから。
[話したいは知りたいに通じる。
イヴァン>>15に椅子に座るようすすめた。
寝台のシーツが皺になっていたのを認め、
軽く手でならしてからイヴァンへと向き直り]
[人参については深く突っ込むのはやめておいた>>19
こういう時に冗句の一つも言えたなら良かったのかもしれないが、先ほどの事を考えると早々打ち解けられるとも思えず、とりあえずの作業に専念した。
食事には全員揃っていただろうか。
誰が何かわからない状況での食事は、それでも気持ちを和ませてくれた事は確かだった。
「黒水晶」、人によっては最強の守り石となる名を持った黒猫は、その役目を果たすようにエーファの傍から離れなかった]
―二階・客室―
[食事を終えて部屋へと戻って、大きく息を吐いた。
エーファが見出すものとわかったなら今のうちに、そう思って結局出来なかった。
真っ直ぐな目は、その力を使わなくても真を見るのか、「狼っぽくない」と言われた事に苦笑する]
殺せないなら、せめて身代わりにとも思ったんですが。
[そう、できるなら殺したくはないし、死にたくもない。どっちつかずの感情が、染まりきれない男を笑うように揺らいだ]
いずれにせよ、時間の問題でしょうね……
結局は、なるようにしかならないんだから。
[抗えないのなら流されるだけ。
自分は、本当はどちら側なのだろうと思いながら、浅い眠りへと落ちていく。]
―翌朝―
[浅い眠りを覚ましたのは、足音>>22
階上から、一度足を止めて、意を決したように足早に去るのを耳で追う]
(………あぁ……見つけてしまいましたか……)
[恐らくはそうなのだろうと思う気持ちは不思議と凪いでいた。
どちらが、と思った矢先にノックの音>>47がして、それが誰かを察して]
起きてるよ、どうぞ。
[と声を掛け、部屋に入ることを促した。
入ってきた姿は予想通りで、問われたことについては首を振る]
ライヒアルトさんが、何か……あぁ、蒼花に抗えなかったのか…
[皆まで聞き終わる前にそういえば、イヴァンも何か思う事があったのだろう。
短く重ねられた問いと視線に、小さく息を吐いて彼を見た]
何を、か……そうだな
どうすれば貴方たちを生かして終わらせるか、かな。
[それはつまり、知っていたと言う事だ。人狼が誰かを]
俺はね、知ってたんだ、最初から。人狼が誰か。
あの詩に出てくる「闇の護り手」、多分、それが俺だよ。
[それを、イヴァンがどこまで信じるかは、今は興味の外にあったけれど]
イヴァン、君はこれからどうしたい?
他を殺してでも生き延びたい?
[愚問だと思いながら問う。死にたい人間などいないだろうから]
そういえば、カルメンはどこに?
[先ほど聞いた足音がエーファで、イヴァンがここに居るならもしや、と。
庭での顛末を知るのは、それからどれくらい後だったか]
[カルメンを探して見つけたのは、雪の上に赤を散らして倒れるその人と、傍に佇むエーファの姿>>27]
………っ
[昨日、確かに言っていた「探して終わりにする」と>>3:152
そして、その言葉どおりに見つけて……敵を討ったのだと。
イヴァンがいたなら声をかけ、外へ。エーファとカルメンの元へと向かって]
………エーファ…
[一度だけ名を呼んで、イヴァンが問いかけるなら>>48後はなるようになるだけと思い、倒れているカルメンの元へと足を運んだ]
……護るって言ったのに、護れなかったな。ごめん。
[そう言って傍らに跪き、その目元を軽く撫でた。*]
─ 庭園 ─
[近づく気配>>48 >>55 に先に気付いたのは、足元の黒猫だった。
警戒の響きを帯びた声で鳴き、少年の注意を喚起する]
…………みつけた、から。
[その声と、向けられる問いかけ。
それに、最初に落ちたのは掠れた声]
月のひかりの、いとし子……おおかみ。
見つけた、から。
だから。
[ぽつ、ぽつり。
紡がれる声は僅かに震えて]
……俺は、見つけられるから。
見つけて、終わりにしてって、言われて。
俺も、終わりにしなきゃって、思った、から。
……だか、ら……。
[ここまで言って、唇をきつく噛み締める。
謝るのもダメだけれど、泣くのはもっとダメだ、と。
そう、心の中で繰り返しながら。*]
やっぱり、見つけた、のか……
[エーファが零す言葉>>56にぽつりと落とす]
君は君の役目を果たしただけだよ。
だから、思いつめなくていい。
[そう言って、その先はエーファとイヴァンが話すのを耳だけで追いながら、倒れたカルメンを見つめる。
血の気のなくなった顔は、それでもまだ僅かに体温を残していた]
カルメン、このままにしておくのも可哀想だし
部屋まで連れて行くよ。いいだろう?
[雪の上では冷え切ってしまう、と、そんな心配はいらないのにそう思って
慎重に、丁寧に抱きかかえ、屋敷の方へと足を向ける]
二人とも、風邪を引かないうちに戻った方がいいからね。
[そんな風に言い残して。
腕の中のカルメンは、思っていた以上に軽かった。*]
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