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ん? ああ……。
ウェン君が外に出たから団員達に連れ戻されたみたいだよ。
[訊ねて来るエーリッヒに簡潔に答え]
[真紅をそちらへと流した]
[口元に張り付けた笑みはそのままに]
それと。
エーファが 外で 紅くなってた
[己が見たものを口にする]
[直接的な言葉にならなかったのは、その色が鮮明に記憶にこびり付いていたからであろうか]
騒がしいな。
[自室で木刀を素振りしながら階下の騒がしさに気づく。
軽く身支度をすませて階下へとおりていく]
どうしたんだ?
[広間に向かう途中入り口付近にゼルギウスとエーリッヒの姿が見えて問いかける]
ウェンデルが?
何か刺激するようなことしたのか。
[団員たちのストレスも相当なものだろう。
初期に余計なことをいっただけでもあの反応だったのだから。
そんなことを考えているところに、伝えられる事実]
…なに。
[一瞬言葉を理解し損ねる。
ついで、その意味を理解して衝撃に目が見開かれた]
しまっ…!
…。
[疑心は消えない]
なら、誰がそうで、誰を殺せば、終わるという。
[背にした扉からずれ、壁を背に。
金の瞳は、翠玉を睨みつけたまま。
今、ウェンデルを動かしているのは、花の熱ではなかった]
マテウス。
[呼びかけに視線を向ける]
[笑みはそのままだったことだろう]
[エーリッヒに説明したのと同じように簡潔に事態を伝える]
そりゃあ。
集会場に隔離していた奴が外に遺体が投げられていたのに、集会場の中から出て来られたら何されるか分からないと考えるだろうさ。
誰なんだろうねぇ。
あんなに鮮やかに咲かせた奴って。
[エーリッヒの様子は気にも留めず]
[声色はやや愉しげなものとなる]
[ゼルギウスの笑む様子に不審そうにそちらを見ながら周囲を見回し]
ゲルダはっ!?ゲルダはどうしたっ?
[今の状況よりもそちらが気にかかったらしくエーリッヒに視線を向けて]
厨房か?
あたしでは…何も終わらない。
[繰り返した言の葉に、自分で溜息を吐く。
金の瞳に宿る疑心を見て、翠玉はゆっくりと瞬いた]
ウェンデルが信じられないなら、試してみるのもありだと思う。
あたしを殺して、花がどうなるかを見るのも。
だけど。
あたしはエーリッヒやマテウス兄さん、欲を言えばウェンデルとも…生きて一緒に帰りたいから、絶対抵抗するよ。
[紡ぐ言葉は、常よりも柔らかい。
最後の言葉は、消え入るほどに静か]
だから、あたしは…
…ちっ。
[ゼルギウスの言葉は一理ある。
確かにそれでは外の者達は過敏に反応もするだろう]
何、愉しそうに話してるんだ。
そんな場合じゃないだろう…!
[ゼルギウスは違う。それは導き出されたはずの回答。
けれどその身に残る狂気が真実を霞ませる]
ゲルダちゃんは知らないなぁ。
けどここに俺らが居て、さっき厨房にウェン君が行って。
厨房で何か叩くような音がしてたから、厨房に居るかも知れない。
俺の聞き違いかも知れないけど。
[聞く聞かないを別として]
[マテウスが気に掛ける人物の居るであろう場所を推測した]
!!
[マテウスの声。
目覚めてからはまだ見ていないゲルダの姿。
ゼルギウスの声。
厨房に向かったというウェンデル。
反射的に厨房へと走り出した]
[浮かべるのは、ほんの少し、苦みのある笑み]
ウェンデル。
…あのね。
薬箱、そこにあるから。
頬、痛み止め塗った方が良いよ。
今のあたしが貴方に触れるのは、…きっと嫌でしょう?
[こんな時でも、紡ぐ言葉は、常と同じ性質のもの]
ウェンデル、いたそうだもの。
そうか。
[ゼルギウスの返答に短く答えてから]
エーリッヒ、俺はゲルダのところいってくるっ!
ゼルギウス、馬鹿な気起こすんじゃないぞ?
[二人にそう告げて厨房へと向かった]
はーい。
[ひらりと右手を上げながらマテウスに返事をし]
[けれどその場に残るのが自分だけと知ると]
[ゆっくりと厨房へと足を向けた]
[言は、何処まで聞こえていただろう。
決意は、何処まで伝わっていただろう。
昨日までのウェンデルであれば、届いたかもしれない。
けれど。]
…まるで。
彼を殺せば終わるとでも、知っている口振りじゃないか。
[知っているのと、信じているのと。
その違いすら、今はわからず。]
………言われるまでも、ない!
[疑心と恐怖に突き動かされて。
踏み出した。
左手に握った十字架を。
その切っ先を、ゲルダの顔に向けて、振り下ろす]
[厨房に向かいながら]
エーリッヒ、あいつのことどう思う?
[問うのはゼルギウスのこと]
どう考えても普通じゃないよな…。
[質問の答えに返答が来る前に厨房へとつく]
ゲルダっ!いるかっ?
[マテウスの声にも足は止まらず、厨房へと駆け込んで]
やめろっ!!
[飛び込んだところに目に映る、振り上げられたウェンデルの手。
光る十字架。
掴み止めようと。
ゲルダをも突き飛ばすような勢いで、その切っ先に向けて何も握らぬ右手を伸ばした]
[目に映ったのはウェンデルがゲルダに今襲いかかろうとしてるように見えた姿]
ウェンデルっ!何してやがるんだっ!
[反射的に飛び出してウェンデルを突き飛ばした]
……っ!
[振り下ろされる十字架は、容易にある記憶に繋がる。
いつか、自分が、同じ事をした時のそれに]
……どいつも、こいつも……。
[低く呟き、唇をかみ締める。
手を出せぬ事へのもどかしさを感じつつ]
[ゆっくりとした足取りで辿り着いた先では]
[先程感じ取った混沌が形を成し始めていた]
[笑みを浮かべたまま厨房の出入口付近からその様子を眺める]
[至る事はなく。
あっけなく、その身体は突き飛ばされ、壁に激突する。
棚にまで衝撃は伝わり、用意されていた皿が大きく揺れた]
……っ、げほ………!
…うん。
[小さく小さく頷いて。
振り上げられる十字架の切っ先を見上げた]
…信じさせてあげられなくて、ごめんね。
[謝罪を口に、少しの避けるそぶりを。
間に合わない気がした――けれど、聞こえる二人分の声]
[突き飛ばしたウェンデルの方へ向きながら]
どういうことだ?
返答しだいでは……ただじゃおかないぞ…?
[怒気をはらんだ様子でウェンデルを睨む]
[少しだけ力が抜けて、床へとへたりこむ]
…エー、リッヒ。にいさ…、
[かたかたと指先が細かく震える。
握りしめ、縋るものを探すように指先が動いて。
掴んだのは、ナターリエの遺品とも言える聖銀と、同じ場所に入っていた折り畳みナイフ]
ごめんっ。大丈夫か?
[マテウスに突き飛ばされるウェンデル。
本来武器ではなかったそれは空を切った。
数歩の踏鞴を踏むと、ゲルダに向き直り手を差し伸べて。
それから庇うように立ち直す]
………。
[ウェンデルに向け直した翠色は僅かに曇る。
何も言わず、ただ困ったような、けれど譲ることはできないという光を宿して見つめている]
………花が、散った。
[呼気と共に、言葉を吐き出す]
人狼は、いる。
誰をも殺す。
…神は、我等を見放した。
何もかも、所詮、偶像に過ぎない、
[痛むのは傷だろうか。熱が沸き上がる]
なら、やられる前に、やるしかないじゃないか!
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