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[それでも尚、選べずにいる自分がいた。隠し通すのか、開き直るのか。
嗚呼、「人狼のルールに則り、独断で処刑を執り行いました」だなんて、受け入れられるはずがあろうか。
けれど、この、人の少ない場所で、下手な嘘はすぐにバレるに違いない。
偉大なる先人は言った。お前の役職が何にせよ、自らを偽るのは最低限にしておけ、と。
よって、楠木裕樹は、途方に暮れたようにも取れる表情で、そこに立っていた。
さして遠くもない場所で、男の声>>5が響き渡るまでは。
血に濡れた上着をその場に放り出したまま、どこか浮ついた足取りで、…は声のする方へと足を一歩踏み出す。
白く濃い霧がいつやって来て、いつ晴れたのか。それさえも気にもならないほどに、浮ついた心を抱えて。**]
―エントランスへ―
[そうして、…は真っ赤なエントランスへと到着した。]
……菊池さん、
[呆然とした表情で、悲痛な声で、そう呟くこともした。
けれど、自らの赤色にまみれたTシャツと顔を、隠すことはなかった。**]
―洋室―
[大広間を出た後、礼斗は真っ先に館内の探索を始めた。
他の三人にシステムメッセージが表示された事を知らせる?なぜそんなことをわざわざしなくてはいけないのだ。
彼らはこれをリアル人狼と受け入れているようだし、今更文章に変化があったと知ったとて何が変わるのか。
重要なのは自分が殺されない事だ。
身を守るための道具を探し、たどり着いたのは薄暗い洋室。
主もいない今ではただ静まりかえるのみ。
何を持ち出すべきか迷うが、手に取ったのは壁に飾られていた斧。
宝石のちりばめられたそれは本来装飾用に作られたものだろうが、持てばずしりと重い。]
殺さなきゃ殺されるんだ……
[親指を噛んで、呻くように独り言を]
[部屋を出たとたん、視界と意識が白く染まる。
まるで身体の自由を奪われたかのように脱力し、時間感覚を手放した。
やがて自分が目を瞑っていた事、そして膝をついて蹲っていた事に気づき、混乱しながらも立ち上がる。
この感覚は先ほども味わった、あの]
「霧」か……?
まさか……
ぼ、僕は、生きている
[片手のひらを呆然と見つめながら、まだ生きていることを確認する。
おそらく今の霧は、日が変わった事の合図で。
「処刑」と、パスされていなければ「襲撃」が行われた事なのだろうと]
―大広間―
[どこにいくべきか分からず、おそらく飛河がいるであろう大広間へと戻る。
彼女が狼ならば、再び誰かの遺体と共にいるだろうか?
足音を殺し、呼吸を殺し、大広間の扉へと近づき、
その扉が、うっすらと開いている事に気づく。]
……。
[その隙間から中を見やり、驚愕で目を開く。
何か、赤く染まった布のようなものが転がっている。
斧を構えながら中に入れば、]
ひ、
[飛河が、真っ赤に染まって倒れていた。]
[先ほどまで話していたばかりの人物が死んでいる。
近づいて確認するまでもない。
がたがたがた、と両足が震えた。
眼鏡のずれを直そうと顔に手をやるが何度も空振り、ポケットにしまったままの事を思い出して、はあ、と大きく呼吸をした。
眼鏡をしている僕は、日常にいる。
眼鏡をしていない僕は、非日常にいる。
ここは非日常だと、自分に言い聞かせた。
血なまぐさいにおいを嗅ぎ取るたび、脳みその奥が麻痺する。
マトモな思考が奪われる、ちょっとした浮遊感は酒を飲むよう。
囃し立てる声、甲高い笑い声、ぎらぎらとした光にさらされる男たち女たち、飛び交う駆け引き。
思い出す夜の時間。非日常な日常。慣れてしまえば、楽になれる。]
[アルバイトのことを思い出して、慰められるなんてことがあるなんて思いもよらなかった。
斧を片手にぶらさげたまま、こときれた飛河のそばに寄った。]
村情報と国情報、読めって、言ったろ
馬鹿
[本来RP村にしか入らないはずのjujuは、こんな目に遭わずに済んだはずだ。
泣いて、泣いて、混乱して、それでもようやく何かの決心をしたような表情が思い出される。
彼女を狼と疑い、ともすれば殺していたかもしれない礼斗だ。
謝るのも感謝するのもおかしい。
ただ彼女の亡がらを見下ろす。
眼鏡を取り出し、力なくたれている彼女の手へ。
すっかり冷たく、自分の手よりも小さなそれを固く握りしめた。
日常に戻らないための決心として。
飛河の血で汚した手で斧を握りこみ、他の生存者を探しに大広間を出る。
前を向く。]
―エントランス―
[人の気配と血のにおいは、覚えのある場所から漂ってくる。
そういえば、飛河は襲撃されたのだろうか?処刑されたのだろうか?
いや、考えるまでもない。「占い師」がこの「村」にはいるのだから。
速攻で彼を噛む。誰だって。
予想通りに、ホールの中央で倒れていたのは菊地だ。
それを驚愕の表情で見下ろす鷹津と、こちらに背を向けているのは楠木だ。
彼の来ているTシャツが赤いのは、何故なのか――
いや、考えるまでもない。]
─ エントランス ─
[どれくらいその場に座り込んでいたか。
止まっていた思考は、呟き声>>12と、人の気配に再び動き出す]
…………楠木…………くん?
[視線を向けて、捉えた姿にこてり、首を傾ぐ。
表情は呆然として、声音は悲痛で、でも、不自然にあかいその姿は何を意味するか]
…………誰、を?
[どうしてそうなったか、は、問わなかった。
状況がリアル人狼で、亘の身に起きた事態──綾野のそれを彷彿とさせる状況を『襲撃』と見なすなら。
それ以外に血に染まる事態なんて、『処刑』くらいしか思いつかない。
裕樹が亘を、という発想に至らなかったのは、綾野の死後、誰も血を浴びた様子がなかったから、だが]
……ぉー。
[問いかけに答えが返るのと、裕樹の向こうに礼斗の姿が見えたのは、どちらが先か。
は、と息を吐いてがじ、と頭を掻いた]
……で、ここで二択、と。
[ぽつり、と零れたのは小さな呟き。
視界に入る二人、どちらかが『人狼』なのは確かで。
さて、それならどちらか、と。
それを見定めるように、僅かに目を細めた]
この期に、及んで
[張りつめた空気の中にこぼれた呟き>>20を聞き取る。
二択。そうだ、普通に考えるならば鷹津は礼斗か楠木のどちらが狼かを見極めるべき立場なのだ。
しかし彼の言葉は礼斗の逆鱗に触れる。
戦おうとせず、ただ傍観する気なのか。
まるで高みの見物じゃないか。
飛河の言葉が脳裏に蘇る。
「感情で動く」
斧を握る手に、力がこもる。]
……ヒガさん。
[問いかけ>>19には、特に隠そうとする素振りも、動揺も見せずに、一言答える。]
……別に、あの人を狙ったってわけじゃ、なかったんスけど。
あの人しか、いなくて。処刑は一日一人まで、ってことッスかね。
[どこか上の空のままに、赤く染まった床を見下ろしながら、呟く。]
でも、これでハッキリしたんで、いいンじゃないスか。
[この状況を予想できなかったのは自分の落ち度だな、と、頭半分、冷静なままに思う。
得物がないのは痛いな。女相手に急に襲いかかるのと、警戒している男を相手にするんじゃ、事情は違うだろうし。
ポケットの中のスマートフォン。持ち物はそれだけ。
直に、"彼"は背後から忍び寄っただろうか。>>18
ここまでやって、死んでたまるか。彼に気が付けば、送るのは鋭い視線。]
[いいかい、ひよっ子よ。
堂々たる振る舞いで、確固たる立ち位置をやすやすと手に入れた先人は、こう吠えた。
主観はとても大切だ。いいかい、感情も、勘違いも、村人が自然に行うことは、俺らもやってみせなきゃいけないんだぜ。
それを小賢しいと言う奴もいるかもしれないが、負け犬の遠吠えなんざ、気にするんじゃない。アオーン、と。
だから、楠木は、そのやり方を踏襲することにした。狼の時も、村人の時も、占い師の時だって。
なんせ、尊敬する彼は、とっても強かったので。
それは、ここでも同じこと。すう、と息を吸って、吐き捨てる。]
……狼め。
[モニター越しの会話のように、悲しげな表情や憤怒を取り繕うことはできなかったので、
恐らくは、声と表情がちぐはぐな大根役者のようだった。
それでも、冷めた目で、しっかりと新見を睨み付けることはやめなかった。]
[楠木が何かを言っている。彼もまた、この期に及んで演技を続けているようだ。
それに何も思わない。とっくに殺意に支配されているこの身には、何も響かない。
感情に従うのなら二人まとめて殺してしまいたい。
順番はどうでもよい。]
狼だろうが村人だろうが、知るか。
全員まとめて死んでください。
[他人の血でぬめる手が、これは非日常だと語り続けてくるようで。
両手で斧を握りしめ、二人を睨み返す。]
[裕樹の様子は、ちらりと横目で見るに止め。
視線を向けるのは、礼斗の方]
……全員まとめて、ね。
そんだけやって、それから。
背負える覚悟があるってわけ?
[一応、問いは投げておく。
答えは、期待していない、けれど]
……その後で、絶対自殺しない、って言い切れる?
[自分だけの判断基準。
答えがあるかどうかで、自分の動きは、決まる]
[楠木からやるべきか、鷹津からやるべきか。
どちらにせよ2対1となるだろう。1人を片付けてからもう1人を、と。
処刑は1人。襲撃が起こるのはその後だ。
誰かを殺したり殴ったりした経験はない。先に動いて隙を見せるのは嫌だとまだどこか冷静な部分があって。
己の中で葛藤していると、鷹津の声がかかる。
その問いかけの背景、彼が何を抱えてるかなんて知らない。知りたくもない。
考え方も見ている世界も、決して誰とも共有は出来ないのだから。]
覚悟なんて後からでもできる。
[今、死にたくない。
生死もわかんない「後」の事なんか考えたって詮無い事。
吐き捨てるように答えた。]
[感情偽装ってのは、インパクト勝負だと、いつかベテランPLは鼻高々に語った。
楠木は、隠しもせずに凶器を携えた男に思う。面倒だし、頭おかしーんじゃないの。ああ、それって、俺もか。
そうして、もうひとりの、奇妙な問いかけ>>26に、実感を繰り返す。やっぱりめんどうだな。
明らかに、インパクトでは負けている。]
……めんどくさ、
[聞こえるか怪しいくらいの声音で呟いた。覚悟ってなんスか、ミナサン。
ジンローゲームですよ、ミナサン。そんな感じ。
っていうか、俺、丸腰なんですけど。そうも思った。
武器。ポケットの端末は、武器に入るのかな。
楠木は、いつだって動き出す心構えだけはして、少し考える。
逃げ出すことは、できないか。目の前の二人がやりあってくれないか。
処理順のことだとか、そういう諸々を。]
なあ。
[精神だけがすりきれる、永遠のようなにらみ合い。
牽制のように楠木へ言葉を繰り出す。
中身はどうでも良い。いいや、良くない。
なんでもいい。]
襲撃ってどうやってやったの?
そーゆーことなら、まあ、仕方ないんじゃないッスか。
[確かめるような問いかけ>>28に、返すのは投げやりな言葉だった。]
人狼って、こういうゲームじゃないと思ってましたけど。
[思っていたのと、まるで違うなあ。
そう思ったあたり、随分とゲーム脳とやらに毒されているのかもしれない。
よ、っとしゃがんで、真っ赤なキクチサンに手を伸ばした。
さて、目当てのものは、どこにあったか。ポケットから、ありそうな場所を探っていく。
自分の大切な端末を、牙を、投げ捨てるわけにはいかないので。
手を更に赤くして、取り出すのは、占い師様の携帯端末だ。
ロック解除に勤しむ余裕なんてありませんので、用途はまったくの別なんだけれど、心のなかで謝っておく。
壁にぶち当てて壊しても許してね、おにーさん。
多分、顔だとかにぶち当てりゃ、動揺くらいは誘えるでしょう。]
[よ、っと場違いな掛け声と共に再び立ち上がろうとして、投げかけられた問い>>30に、眉を顰めた。
ちゃんと嫌悪の表情は作れていたはずだ。多分。]
質問の意味がわかんないんスけど。
[よいしょ、と立ち上がりながら、馬鹿にするように鼻で笑うくらいの余裕はあった。
どうにも、現実感がなくていけない。]
アピとか、不慣れっぽいのに、無理しない方がいーんじゃないスか。
[楠木の中では、やっぱりこれは人狼ゲームでしかなかった。
感情偽装も、吊り数の計算も、アピも、バーチャルと等しく存在するように思えた。
近付いてくるなら、他人のスマートフォンを投げつけてやる。
それから、走って逃げて、広間に戻れば、武器だってあるんだから。
どうにも、呑気でいけない。]
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