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─自宅─
……ん?
[空になったコーヒーカップ。
一まず片付けようか、と思い、立ち上がった時。
外が、妙に騒がしい事に気づいた]
……激しく、嫌な予感がするんだが。
気のせい……じゃ、ないよなぁ……。
[いつか、と同じであるならば。
同じことが起きているのは、容易く想像がつく]
やれやれ。非力な一般人としては、どうすべきか。
[口調は冗談めかしているものの。
表情は、真剣そのものだった]
―礼斗宅―
そうでしたか。
[予想以上に礼斗の過去は重たく、それしか返すことはできなかった。淡々とした声は確認するかのようにも響く]
素手よりは安心かと。
武器屋探しから始めないといけませんが。
[空いた間にも気にせず答える。
だから真顔で続けると、以下略]
それはさておき。
閉じこもっていても終わりそうにないなら、情報を集めるのに街に出るのもありかなと思いました。
― 回想・開花時 ―
[木の上の少女が言葉を紡ぐ。
その姿に目を奪われて、周囲の人には気が回らなかった]
力の流れ? 気脈?
[何か意味があるのだろうか。
私にはさっぱり理解できなかった。
少女に木から下りる様言おうと傍に寄ると、
鈴の音と共に、桜に溶ける様に少女は消えてしまった]
[『携帯が通じない』 周囲の人々がざわめく。
さっき時計代わりに携帯を見たときは、電波を拾えていたはず。
周囲と同じように携帯を確認するが、表示は『圏外』だった]
きみが悪い。
季節外れの桜、哀れな女、消えた少女。
電波は消える。なんなの?
[問い返されて、頷きを返す]
……遭遇すれば、命に関わる。
[説明はそれだけ。
流石に詳細を伝える気にはならなかった。
駆け出し、更なる問いが向けられると]
家に帰れない以上、後はあんまり……。
それこそ瑞穂が言ったみたいに子猫のところくらいか。
後は……。
[駆けながら少し考えて]
―礼斗宅―
『桜花』に『司』、……『憑魔』。
……なんか、非現実的な話だよな。
[礼斗の話を聞き、最初に出た声はそれだった。
言葉の割に響きは淡白で、疑念や困惑の色は薄い]
……けど、事実なんだろ。
巻き込まれたってのも、生き残ったってのも。
[そしてすんなりと受け入れる言葉。
数逡の後顔を上げて、礼斗の顔を見た]
……あやみん。
お前さ、
[何かを問おうと口を開き]
[雪夜から自分が囮になるということを聞くと]
え?いいの?
んじゃ、お願い。
[いともあっさりと了承した]
こんなときに頼りになるのは、やっぱ男の子だね。
いやあ、さっき力強く腕を引っ張ってくれたのは少しだけ胸キュンしたよ。
[笑みを浮かべながらそんなことを言おうとしたが、顔が強張るのはあまり制御出来なかったので、顔をそむけてみた]
もし、死んじゃってもさ。私がしっかりと送ってあげるから心配しなくていいよ。うん。
でも、そういうのは疲れるから、あまりやらせないようにね。
……じゃ、綾野さん。行くよ。
[綾野を引き受け、雪夜から離れるように走り出す]
[とにかく公園を離れたくて、桜の元から離れた時だった]
千恵ちゃん?
[突然姪に声をかけられた。すこし向こうに瑞穂ちゃんと、伽矢。
驚いて少し裏返った声で返事をしたが、気づかれなかったようだ]
うん、桜、すごいねぇ。
春じゃないのに、いっぱいさいたねぇ。
[無邪気な問いかけに、精一杯の笑顔で応えた]
なぁに、おみくじとってきてくれたの?
ありがとうねぇ。
[千恵ちゃんの髪を撫でつつ、おみくじをあける。
横目で桜を見ながら開いた紙には*半吉*とあった]
命に………。
[さきほど通りに人の姿が見えなかったことがその言葉をさらに重いものに感じさせた]
始まったって、そういうことなの?
[漠然とした何か、よくわからないけどよくないことが起きている。]
子猫のところいっていなかったら、仕事場に向かってみる?
[走りながら、伽矢にそう返す]
─自宅─
……素手より安心なのは認めるが、そんなものがここにあるのかと。
[突っ込みを入れて、ため息一つ]
外で、色々と動き出しているらしい。
安全とは思えんけど、閉じこもっていてもどうにもならないのは確かだし……様子、見に行くか。
[首を傾げる黒江にこう言って。それから、視線は何か問いかける史人へと向かい]
……史さん?
[歪む、表情に。訝るように、瞬いた]
[しばらく走り続けているうちに、綾野が珍しく話しかけて来た]
『……良いのですか?』
ん?せったんのことかな?
まあ、男の安いプライドだよ。女はそれを尊重してあげないとさ。
例え、命にかかわるようなことでも、プライドのほうが大事なんだから、笑っちゃうよね。
[無理に笑みを浮かべながら、その足は止めない。
進む道はただがむしゃら。のはずが、何やらゴールが明確に見えているような気がした]
『何処に向かっているのですか?』
仕事場。
せったんが頑張るように、私も頑張らなきゃ。
……ついたよ。
[神楽が向かった先、それは、憑魔が食い散らかして、まだ処理もされていない人間の死体が転がっている場所だった]
……悪くはないって事かしら。
[コメントしようのない結果を姪に見せつつ、
私がいないかのように振舞う伽矢に、小さく溜息をついた。
瑞穂ちゃんと伽矢はベンチに座ったようだった。
少しびくついて、千恵ちゃんは私の影に隠れた]
怖い事ないよ。 ……ひふみおじちゃ?
[私自身に言い聞かせるように、姪を励ました。
姪の口から知らぬ名を聞き、彼女の視線を追ったが、
反応する人物はいなかった]
もう夕方ね。
千恵ちゃんは、そろそろおうち帰らなきゃ、ね?
[ここに長居させてはいけない、そんな気がして、
ありきたりの文句で帰宅を促した]
[あまり走りなれていないのか、それとも、この死体の群れに戸惑っているのか、綾野は大きく息をついた。
一方、神楽はどちらに関しても特に問題は無い]
教えてあげる。
あやのっちが言ってた一つ。
『司』が私。
霊能者って言えばいいのかな?元々、そういう類の仕事なんだけどね。でも、この騒動に導かれて、この力がそういうものなんだって分かった。
色々と力が湧き上がってくるような気がするけど、使わない。私は、今までの私のまま、彷徨う御霊を送るよ。
[そこまで言うと、懐から扇子を取り出し、顔を引き締めて舞い踊る]
[千恵ちゃんはあっさり承知してくれて、胸をなでおろした]
じゃあ、お願いね。
瑞穂ちゃん、いつもありがとうね。
[稲田さんちの娘さんは、よく家の仕事をこなす良い子だった。
伽矢を心配してくれている様子も、私は何となく知っていた。
彼女を伽矢と瑞穂ちゃんに託すと、私は足早に公園を離れた]
………………はぁっ?!
[あまりにあっさりした返答に思わず素っ頓狂な声が漏れる。
ほら、もう少し何と言うか「でも」とか「じゃあ」とか……
まあ、神楽にそれを求めるなんてどだい無理な話か。]
はぁ……お前に期待した俺が馬鹿だったよ。
ったく、こういう時こそ、もっと女らしくしてみろよ。
[しかし、そう零す口元にはニマリとした笑み。
そうして、走り去る二人を見送ると、]
……さぁて、と。…………っつぅ!?
[おもむろに指をツプリと咬む。
ぽたりぽたりと指先から落ちる血に反応したのか、追いかけてきたその『何か』は完全にこちらに注意を向ける。]
さあ、おいっかけっこの続き、だぜ。
[不敵な笑みを浮かべると、二人とは別の方向に走り出す。]
わかんねぇ。
でも、あり得る。
[眉根を寄せながらオレは答えた。
あの童女が何を言いたかったのかは分からない。
それでも、異変が起きているのは確かだった]
そうだな、そっちに居なかったら、行ってみよう。
[行動方針の問いには頷いて返した]
―礼斗宅―
動き出して…。
はい。
[外が物騒になってきたらしいと、若干の躊躇。
けれど自分が言い出したことでもあるので礼斗に頷いて]
史兄さん?
[礼斗の視線を追い、横を向いて史人をじっと見た]
……動き出してやがるな。
クソ、まだ本調子じゃねぇってのに。
[案ずる声に対する反応でなく、不機嫌そうな呟きを洩らす。
首を動かし、窓の外を睨めつけた]
───。
[それは、まさに神秘的なまでに]
───。
[それは、まさに畏怖すべきまでに]
───。
[それは、まさに神々しいまでに]
───。
[それは、まさにただ美しく]
───。
[神楽が舞う。
別れを惜しむことなく。
悲しみの底に沈められることなく。
また、美しき花を咲かせるように。
次なる旅路へと向かうように]
神楽───舞う。
[憑魔に何事かも分からず食い殺された者も。
憑魔のまま死んでいった者も。
全てを悼み、全ての想いを抱きしめて、神楽がそれを浄化せしめようと、その身に受け止めた]
─路地裏─
[ばしゃり。水溜りを踏み散らし路地裏を駆ける。
後ろから追って来ている『何か』は順調にこちらに付いて来ている様だ。]
はっ。経過は上々。
[そう呟くと、曲がり角をスピードを殆ど落とさず、壁を蹴って強引に曲がる。]
─自宅─
……史さん?
[どこか、いつもと違う様子に瞬き一つ]
……大丈夫、なのか?
[しばしの間を置いて、投げかけたのは、こんな問いかけ]
[途中、ばいばいと手を振る千恵ちゃんが可愛くて、
足を止め手を振りかえした。
公園からしばらく歩いた所で携帯を確認するが、やはり圏外。
胸の中をざわついて、私は吐き気を堪え歩き続けた]
― 回想・繁華街の境界 ―
何があったの?
[店の前には、人々の怒声と車のクラクションが響いている。
道路の何もない空間に張り付いている人に、首を傾げた]
何遊んでるのよ。
……いったぁい!
[店に入ろうと進み出たが、見えない壁に阻まれた。
周囲のパニックに納得がいくと、穴がないか壁を触る。
けれど、穴なんてなかった]
うん、急ごう。
[まだ日が落ちる前に千恵に案内された道、今は日も落ちて路地は薄暗かった]
伽矢くん、千恵ちゃんいるかな…。
[大丈夫と言ってほしかった。
千恵に案内された時は苦労して通った道、今は息切れを起こすことなくすんなりと通れていた。自分でも気づかないままに]
『……』
[傍目には、それはまさに魂を食らったかのように見えるだろうか。
それとも、彼女の体を依り代にしたかのように見えるだろうか]
……っ。
[ただ一つ言えることは、これだけ大規模な浄化は彼女の体に大きな負担を掛けることになったということに違いない]
……黄泉への餞になったかな。
[玉のような汗をびっしりと浮かべて、神楽は舞い終えた。
その場には、先程まで見るも無残だった死体の数々は見当たらなくなっている]
だー。流石にきっつーい。
[そんな愚痴を零しながらも、その顔にはやり遂げた笑みが浮かぶ]
― 回想 ―
[稲田さんちが壁の手前にあるのを確認すると、その場を離れ違う道に向かう。
少し待っていれば、子供達と合流できたのだけど。
とにかく穴を探さなくてはいけないと、私の考えは縛られていた]
こっちもだめ? なら、このお宅の庭の中は?
[大騒ぎの中、同じように道を探す者もいて、情報を交換する。
耳に入る話を総合すると、巨大な見えない壁が発生しているらしい]
なら、空は? 空はどうなの?
[尋ねてみるも、答えられる者はいなかった]
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