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[温室の隅の方。
臙脂色のあざみ、ロベリア、黄色い弟切草にカーネーション、黒百合、青いムスカリが咲き乱れている。
蕾のままの『何か』は、まだ花開かぬまま。]
ここの花だけは私が植えた物なのですよ。
だから摘み放題なのです。
[といいながらも、取り出したのは鋏。]
棘のある花もありますので、ウェンディさんは花籠を持っているだけで結構ですよ。
怪我でもしたら大変です。
[葡萄と石榴を入れた花籠を一度地面に置き、
鋏で花々を切り始める。]
[ 腕を組み顎に手を当てて思考を巡らせつつ歩んでいけば、廊下の角に突き当たり眼前には閉ざされた扉。他と比べれば些か異質な空気を放っているようにも思える其の部屋は、普段から書斎以外に大した興味は無かった青年の目をも惹いたのだけれど、一度として立ち入った事は無い。今は亡き――然う、彼は死んだのだ――館の主に訊ねたところ、手許に鍵が無いのだと笑ってはぐらかされた記憶が有る。
試しにドアノブに手を伸ばし回して見るも、矢張り施錠がされた儘だった。]
……何か在れば、と思ったんだが。
[ 其処が凶器と狂気の眠る場所だと、青年は未だ知らない。]
[ルーサーの言葉を聞くと、少女は一瞬目を見開き、それからぱちぱちと瞬きを数回繰り返して――]
三十年前から…。では今ではもう、手馴れたものですよね?
[三十年前に彼を今の姿に変えてしまった出来事があったのだろうかと、ふと思いながらも言及せずに――]
じゃぁ、神父様のお考えのままに…。
楽しみにしていますわ。
[ふわりと微笑むと、隅へと足を運ぶルーサーの姿を見送りながら、少女は再び花を摘む]
天使のパンは 人々の糧になりました
天から与えられたパンは 形あるものとなりました
あぁ 驚くべきことに
主は自らを糧としてくださる
貧しき者たち
卑しきしもべたちへ――
[神に感謝する歌を口ずさみながら――]
…眠れたのは久しぶり?
[その言葉に少し驚いて、少し冗談めかして]
でも、君を椅子に寝かせるわけにもいかないだろう?
嫌だったら最初から部屋に入れないさ。
君が俺に危害を加えるわけでもないしね。
そうだろう?
[本当は時々目を覚ましてはいたけれど、それは彼女が心配だったからで。
彼女の心配とは別の事、だから、言わずにいた]
−回想−
[――しかもご丁寧に、風邪まで引いて。
目が覚めたのは、疲れが取れたからではなく、早朝の冷え込みに耐えられなかった為だったらしい。]
………ぅっしゅ。
ぁーあ。やっちゃったぁ…。
[元々、幽霊に怯えてろくに寝ていなかったのが祟ったと自分に言い訳するも、そもそもベットに転がらなければ風邪など引いたりしなかったはず。
自業自得と半ば諦め、冷え切った身体を温めようと頭から布団に潜り込んで。]
[歌を口ずさみながら、僅かに埋まった花籠を携えて少女はルーサーの元へ。]
[ルーサー自らが育てたと聞けば、感心を示し、怪我をするといわれれば指を引っ込め、取り出される鋏の重なる音に、静かに瞳を閉じては摘まれた花を入れるために花籠を差し出す。]
さて。
花も摘み終った事ですし、アーヴァインさんのお部屋に向かいましょうか。
[ひとしきりウェンディの歌に耳を傾けた後、声をかける。]
さがさ、な、ければ。
[決意。]
[何を探そうと言うのか][それは]
[言の葉に乗ることは無く。]
[死臭に包まれた部屋から滑り出る]
[言葉に詰まって目を伏せれば、やはり、心配そうに名を呼ばれて。
やっぱり、優しい人だなあ、と思いつつも。
そうやって気遣われる事には。
裏返しの恐怖がついて回る。
勿論、それは自分の勝手な都合でしかないのだけれど]
えっと……平気、です、から。
[精一杯の笑顔を作って、顔を上げる。
薄紫の瞳に、不安を浮かべぬようにと念じつつ。
隠せているかはわからないけど]
[温室に来た時と同じようにウェンディの手を引き、アーヴァインの部屋へ。
花籠は、花と果物で満たされていた。]
―温室→アーヴァインの部屋―
[スープをすくう。口に運ぶ。
一口は呼び水となる。]
おいしいわ
[彼女に礼を言う。
それから、ナサニエルの言葉に、やっぱり優しい、と思った。]
良いのよ、わたしはどこでも。気を使う必要なんて無いわ?
あなたに危害を加えるなんて、するはずもないわ。
本当に、ありがとう。
でも…あなたが嫌でなければ、一緒に寝て欲しかったわ
[それは純粋に、そう思った。
ベッドは狭くないし]
ありがとうございます。
[こんな状況ではあれど、自分の作ったものを褒められれば素直に嬉しかった。相手の職など既に如何でも良かったこともある。
音楽室のほうから微かに聞こえていた音が止んだ、と思った。そういえばよく誰かが弾いているけれど、それが誰かは確かめたことはない。
だからというわけでもなかったけれど、広間の人々に退席の旨を告げて廊下へと出た]
―広間→廊下―
―アーヴァインの部屋前―
[アーヴァインの部屋の前までやってきた。
先程どこかへ姿を消したはずの行き倒れていた青年が佇んでいる。]
……おや?
彼はここにアーヴァインさんの遺体があることを知っていたのでしょうか。
[はて、と考え込み。]
[ 暫し其の扉を眺めていたものの、仮令解決策が此処に在ったとしても開かないのでは仕方が無い。
其の場から離れて階段の方へと向かえば、“神父”が金髪の少女を伴って上がっていくのが見えた。彼らの通った後に柔らかな香りが漂うのは、少女の手にしていた籠の中身の所為だろうか。旋律は何時の間にか消えていた。]
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