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君が旅人のフィグネリアか。
初めまして、ヴィクトールだ。
[ ヴィクトールはすっと立ち上がり、握手を求めるように左手を差し出した。
唯一、この村の人間ではない名前。
この旅人の名前は、役場の方でも耳にしていた。]
……貴方方も、そうなのね。
紅茶を飲んでいたの? 他にも、食糧があるみたいだし、何日閉じ込められるのかしら、ここに。
[魚の匂い。
知らない顔のうちアリョールと名乗った方にじろじろと見られて一瞬気後れする]
フィグネリアと、もうします。
[名乗られたのだから、ともう一人の男性へも兼ねて名を名乗る]
では。
[盥と布を持ち、フィグネリアの横をすり抜けるようにしていく。
自分がどんな印象を与えているか等、気にも止めず。
何事もなければ、自室に戻り掃除を始めるの*だろう*]
ええ、旅人、と言われると違和感はありますけど。この村にとっては、そうですね。
[ヴィクトールの差し出した手に一拍おいてから手を差し出し握手を]
この村を越えたら、次の街で落ち着くつもりだったの。
[そこまで行けば大丈夫だろう、と言う漠然としたもの。
髪を切って、名前を変えて、少し大きな街であれば。
借金はもうないのだから、そうまでして追ってくるとも思えなかった]
―二階―
[覗きこむベルナルトの見事な髪が揺れるをみる。
思わず目を奪われてしまうのも仕方のない容貌に思う]
いや、丁度出ようと思ってた所だから。
ああ、もう結構埋まってたりするのかな。
空きは人数分あるとは思うけど――…
[ベルナルトが身を引こうとする気配に
控えめだった扉の開きを大きくして廊下に出ようと一歩踏み出す。
留まる彼に掛けられた言葉には、はたと瞬きをして]
それは構わないけど。
丁度釣ってきた魚もあるし時間の都合があえば
一緒に料理してみるか?
あ、でも、怪我しないようには注意しなきゃなぁ。
手が傷ついたら絵も描きにくいだろうし。
[気軽に応じる声を返すのも、暢気といえば暢気な響き]
―回想―
[月の漂う湖面を眺めながら交わされた会話を思う。
あったらいいとニキータが零したものに
そうだなぁ、と相槌を打った夜。
竿を引く感触に話は途切れてしまったが
釣り上げた魚を手にしたイヴァンはニキータを振り返る]
真夜中に焼きたてのパン、かぁ。
パン屋のでなくていいなら、今度――…
[楽しい何かを見つけた時のような顔で男は笑い]
俺が作って持ってこようか。
月を見ながら一緒に食べるのも楽しそうだ。
[他愛ない話の続きにそんな事を口にした]
一日で、帰れたらいいのだけど。
[一日で、そう言ったヴィクトールの右手が重なる。
温かさに少しほっとしたころ、その手が離れた。
すり抜けていくアリョールを一度振り返り、会釈をして]
なんだか、強そうな方ですね。
その、精神的に。
[ここに連れてこられて、動じていないように見えたから。
気付けばタチアナも厨房から出るところで視線だけを送る。
と、ベルナルトにちゃんと食べて、と言われたことを思いだし]
勝手に使っても良いのなら、何か作ろうかしら。
お腹がすいたわけではないけど。
体力をつけておくのは必要だと思うから。
[フィグネリア自身、それほど料理が得意というわけでもないのだが、簡単なものなら大丈夫かと]
― 2階廊下 ―
[廊下を歩いていると、隅にある用具居れでなにか物音が気がして。
覗き込めば夜中にしか見かけない男が寝ているのが見えた]
こんなところでナニやってんのかしら。
[酒場からの帰りだとか。
客を見送った後だとか。
そんなときに村の通りでたまーにすれ違う。
――生憎、声をかけても客にはならなかった男だけれど]
……人狼にやられるまえに、風邪ひくわよ?
[声をかけても起きる気配はない。
やれ、とため息一つ。
肩にかけていたショールを寝てるニキータの上にかけて、その場を後にした]
[親が死んだのを自分のせいだと思った理由は単純だった。
自分はたまたま誕生日に熱を出し、その日に寝込んでいた。
両親は確か村から出て、隣町に行くと言っていたような気がする。
もうそれがなぜかは覚えていない。
だから翌日、村の近く、崖から落ちた二人の姿が発見されたと聞いた時、自分のせいだと感じた。
前日雨でぬかるんでいたのは知っていたのだから、とめればよかったのだ。
十年も前の話だった]
― 2階廊下 ―
[ニキータにショールをかけてやれば肩がむき出しになるけれど。
それを気にせず、自室としたところへと向かおうとして。
ふと、イヴァンとベルナルトに気づく]
……あら。
[二人のやり取りは聞こえなかった。
小さく呟きながら、ゆるりと首をかしげたのは、荷物を置いたのがイヴァンが居る扉の隣だった気がしたからだ]
[ 基礎体温より少し高い気がした。昨日の雨で多少体調を崩しているのかもしれない。
体調が崩れると、ふっとアレクセイのあの日の出来事をいやでも思い出す。]
ああ、彼女は。
先代の性格を受け継いだのではと思えるほど、
胆力があるかと。
[ フィグネリアから問い返されれば、
アリョールは墓守の仕事を普段していると付け加えた。
何か料理を作り始めようとするなら、厨房下の貯蔵室なども教え、どんな材料があるか簡単に教えただろう。]
[その日からずっと世話になっている。
だから彼に迷惑をかけるようなことをしたくなかったというのに。
先ほど置いたナイフを見下ろす。
いざとなったら。
そうならないようにと願うのは嘘ではないが、もし殺したり、殺されたりとなった時、
彼を生かさなければ、と、考えていた**]
[女性の声がしてイヴァンは視線をめぐらせた。
タチアナの姿を双眸に映せばふっと目を細める]
随分と艶っぽい格好だね。
[タチアナの肩の曲線を男の視線がなぞるように僅か動いた]
……絵を描けなくなるのは嫌だし、ね。
こんな場所じゃ、いまいち筆も進まないけれど、
月が映る夜の湖畔を描くのは好きだから。
[君を描くことも、とまで言わなかったのは、
夜釣りをする影を見ることはあっても、闇の中で
はっきりと彼の姿かたちまで見えている訳ではなかったから。]
……っと、そうだった。まずは部屋を何とかしないと。
君もこれから行くところ、だし――。
難点は何処が空いているか分からない事か。
ネームプレートでも用意するべきかな。
[一夜過ごすためだけに其れをする心算もない男は
ベルナルトに軽口めいた言葉を向けた。
さらりと流れる明るい色の髪に眩しげな表情が一瞬過る]
それなら快く応じよう。
[一拍分、遅れた返事の後]
絵の腕も確かだけど――…
モデルでもやってけそうだよなぁ。
[綺麗だ、と率直な言葉は小さく零された]
下拵えは俺がやれば問題ない。
怪我の心配も減るだろ。
[絵の話をするベルナルトにゆるく頷く]
あー、あの湖に映る月は見事だよなぁ。
描きたくなるのも分かる気がする。
俺にはそういう才能ないけどみるのは好きだから
今度、ベルナルトの描いた絵を見せてよ。
[気安い言葉は紡いで柔らかな笑みを浮かべる]
引き止めてしまったね。
荷物持ったままで立ち話も疲れるだろ。
じゃ、また後で、かな。
[ゆらり、手を掲げて]
[ アレクセイの両親が亡くなったのは、
もう十年も前になる。
その日は、アレクセイの誕生日だったが残念な事にアレクセイは熱を出して寝込んでいた。
その為、隣町に向かうという彼の両親に、ヴィクトールは看病をかって出たのだ。
当時は今より大した仕事はしておらず、休みは簡単にとれたろうか。とれなくても、仕事の合間に抜け出し、顔を見に行く事くらいは出来ただろう。]
[普段着と称するタチアナにクツクツと喉を鳴らす]
俺はその普段着も好きだけど
無闇に男を喜ばせる必要もない、だろ。
[もったいない、と揶揄を知りつつ返す声は普段と変わらない。
女性と深い仲になることを避ける男も
彼女の生業を知ればこそ誘い掛ける事も幾度かあり]
嗚呼、なるほどね。
邪魔をしたなら済まなかった。
[道を譲る心算で扉を閉めて壁際へと寄る]
隣も埋まっていたようだね。
[付け足す言葉は独り言じみてはいたがベルナルトに向けて]
[ あの日あの時、ヴィクトールがするべき事は、
アレクセイの看病をかって出る事ではなく、
彼の両親を同じく引き止めるべきだったと。
自らを責めるアレクセイの前で、
無力さを噛み締めながら、ヴィクトールもまた後悔した。
アレクセイの両親の葬式が終わると、その時のアレクセイの熱を今更引き受けるように、今度はヴィクトールが熱を出した。
病床に伏しながら、ヴィクトールはアレクセイを守れるようになりたいと、強く願った。
その結果は、芳しくない。
無力さを感じる。
ヴィクトールに今出来ることは、何事も起きないようにと願うことだけだった。]
[ もしも、殺す、殺されるとなった時、
自分はアレクセイを守るために、村人達にナイフを向けることが出来るのか。
ヴィクトールは、いまだ*決断し兼ねている。*]
ふふ、そうねェ……
この中では、そんな必要ないかも知れないわ。
[くすくすと、戯れるようにイヴァンに返す。
基本的に村人相手に誘いをかけることはしなかったから、イヴァンに初めて誘いかけられたときは驚いたけれど。
それでも断ったりすることはなく、幾度か夜を共にした]
あら、邪魔したのはアタシのほうじゃないかしら?
部屋が無いなら、泊まりにきてもいいのよ?
[ベルナルトへと声をかけて、扉へと近づき]
それじゃ、また後でね。
[答えを聞く前に部屋に中へとはいる。
答えを聞かないからこそ、ただのからかいであることはわかるだろうけれど。
本気にされてもきっと気にしない]
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