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5人目、仕立て屋 ユリアン がやってきました。
─ 小島の館・主の私室 ─
[白髪の元自衛団長 ギュンターに仕立てた冬服は、彼の存在と年齢を示すように質感と落ち着きのある色だったけれども、気に入ってもらえただろうか。]
脇の具合はいかがでしょう?
[後ろに立って肩や脇の皺を検分する。
自分ではなかなかの出来栄えだと思うが、自画自賛しているだけではやっていけない。
仕事として請け負った以上、客であるギュンターに評価してもらわなければならないのだ。]
襟を別布にしたのはよかったですね。
眼の色によくお似合いです。
上品でお洒落に見えるのではないでしょうか?
[営業用の口上を述べながら、相手の顔色を窺う。
控え目な、傍目には困っているようにしか見えない微笑を浮かべて。]
─ 小島の館・3階廊下 ─
[挨拶し、仕立て道具を抱えてギュンターの私室を辞去すれば、
扉の前で休んでいた黒い犬が起き上がり、ぱったぱったと尻尾を振った。]
お待たせ、ビルケ。
[シラカバと名付けた愛犬に声をかける。]
─ 回想 ─
[もう10年も昔になる。
森の中の小道でこの犬に助けられたのは。
林業で生計を立てる小さな村は森に囲まれていた。
隣町への行き来には、ただ1本の小道しかない。
母のお使いでその道を通ったユリアンは、追い剥ぎに襲われた。
殴られて昏倒したユリアンは、金目のものを奪われ、上着まで剥がされた。
あのまま藪の中に打ち捨てられ、夜を過ごしていれば、間違いなく凍え死んでいただろう。
どこからかやってきたビルケが寄り添い、寒さから守り、吠えて村人にユリアンの位置を知らせてくれたのだ。]
[母は怒るばかりで現実的な対処のできないひとだった。
ユリアンは寄り道をするような子ではない、探しに行かなければと兄が主張してくれなければ、
ユリアン・トラウゴット
ここに眠る
という墓碑が村の墓地に建てられていただろう。
酷い風邪で半月近く寝込みはしたものの、ユリアンがそういう最期を迎えずにすんだのは、ビルケのおかげだ。]
[村役場の記録には、その後のユリアンが父の馬具職人の仕事を継がず、仕立屋になったことが記され、綴じられている。]
―――――――――――――――
■名前:ユリアン・トラウゴット Julian Traugott
■年齢:22歳
■職業:仕立て屋
■経歴:亡父は腕の良い馬具職人だった。仕事を継いだ兄は町で工房を構え、母もそちらに移ったので、今は村の小さな自宅で一人と一匹暮らし。独身。
愛犬はビルケ、12〜3歳の雌の老犬。
―――――――――――――――
─ 現在 ─
[意識を取り戻したユリアンがいの一番に訴えたのは、命の恩人ならぬ恩犬を飼うことだった。]
あれから10年になるんだな……。
[3階の廊下を歩きながら、すっかり老いて白い毛の増えた雌犬の顔を見やると、ぽつりと言った。]
[話しかけられたとわかって、ビルケが黒い耳を動かす。
大きな立ち耳や尖ったマズルのりりしい顔立ちだけを見れば、狼に似ているかもしれない。
ふさふさした巻き尾や、癖のある毛を見れば、狼との差は一目瞭然なのだが……。
間違われて猟師に撃たれるのではないかと、子どものころは本気で心配していた。
首輪の代わりに派手な色合いの端切れで作ったスカーフを付けているのは、その名残だ。]
[その後に聞いた話を総合すると、山向こうの牧羊犬が輸送される途中で逃げ出したのではないかと思う。
そして、森の中をさまよううちに、怪我で意識も定かならぬ子どもを見つけ、自分が保護してやらなければと思い込んだのだろう。]
寒くないかい?
[愛犬にそう声をかけながら階段を下りた。
小さな村では全員が顔見知り以上だ。
廊下を歩けば、遠目にも見知った顔を見つけたかもしれない。]**
─ ギュンターの屋敷・広間 ─
あ、そうなんだ。
[特に好き、という言葉>>48にほんとにタイミングよかったんだなあ、なんて思いつつ]
んー、お菓子とかは、食べたかったら自分で作んないとなんないからね。
それやってたら、なんか、身に着いた。
[冗談めかした口調でそう言って。
名を褒められた黒猫がにぃ、と鳴くのに一つ息を吐いた。>>49]
お前、そういう言葉には反応いいよな。
[なんて呆れた口調で呟くものの、おいしい、との声が届けば自然、口元も綻ぶ]
お口にあったようで何よりでーす。
[そんなやり取りをしている内に、厨房の様子を見に行ったイヴァンが戻ってくる]
あちゃー、そこまでかぁ……。
うん、それだと俺じゃお手上げだからお願いねー。
[専門職に頼む事が大事なのは、自身も専門職を目指しているからよくわかる。
要求に応じてお茶とお菓子を用意して、こちらからも素直な感想が聞こえればやはり掠めるのは嬉し気な笑み]
はーい、了解了解、ちゃんと待ってるから、慌てなくていいよー。
[お茶とパイを綺麗にたいらげ席を立つイヴァンを軽い言葉で見送る。
黒猫も、続くようにににぃ、と一声鳴いた。*]
……と、そう言えば。
[さて、それじゃ自分も一休み、と。
思った所でふと思い出すのは祖父から聞いていた来客の事]
そろそろ、来る頃だって言ってたけど、どーなんだろ。
[服の仕立てを頼んだから、近く届けに来るだろう、と。
祖父から聞かされていた仕立て屋は来ているのかどうか。
先に確かめに行くかどうか、しばし、逡巡する。
当人が祖父の部屋を辞して降りてきている事>>60には、さすがにここにいては気付けない。*]
―ギュンターの屋敷・広間―
[相槌のように声が返る>>61のに頷いて、続いた言葉に、あー、と小さく零す]
そうだよなぁ……うちの店だとたまに日持ちのする飴とかが入る程度だし。
必要だから身につくのはあるもんな。
[小さな村の雑貨屋なんて扱う物は限られている。無い物は取り寄せか自分で町まで行くしかない。
今実家がどう商いをしているのかは男の知るところでは無いけれど]
モリオンも、この名前が気にいってるんだよな?
[にぃ、と自慢げに鳴く様子にそう言って、パイを口に運ぶ。
素直な感想を伝えれば、喜色が浮かぶのに口元を緩めた。]
[やがて、仕事の下見に行っていたイヴァン>>51が戻ると仕事の段取りを口にする。
その様子に、本当に一人前になったんだなとしみじみと感心してお茶を飲む。
自分以上に素直に感想を口にする様子に自然と笑みが浮かんで]
おいしいよな、これ。
[と相槌を打つ。
仕事が控えているからかさくっと食べ終わって席を立つのに、忙しいんだなと思いつつ。
依頼を早くこなそうと言う責任感は昔と変わっていないな、なんて思ったりもしていた]
あ、もしおじさんがいたら、伝言よろしくね。
[先ほど頼んだ事をもう一度お願いして、慌しく出て行く背中>>52を見送った]
ん?
[漸く落ち着きそうだったエーファが小さく零す>>63のを耳が拾う]
他に誰か来る予定なのかい?
[時期的に来客が増える時期というのは知っている。
もしも客が多くなるようなら、部屋を借りるのは控えた方がいいかもしれないと内心で思った。
懐かしい顔>>57にまた一つ出会うことになるのは、まだ少し後の事。
尤も、お互いに覚えているかどうかはまた別の問題だ。*]
―ギュンターの屋敷・広間―
うん、それに、御師様が色々教えてくれるからさ。
試してみたくて、ってのもあるかな。
……あ、御師様ってのは、薬作りの師匠ね。
俺、一応薬師の見習いやってんの。
[亡くなった母が病がちで、世話になっている内に自分でも薬が作れるようになれば……と。
そんな思いから弟子入りして数年。
薬作り以外にも、学んでいるものは多い。
昔は引っ込み思案だった少年がここまでからっとした態度を取れるようになったのは、大体師匠の影響だ]
あ、うん。
じっちゃんが、新しい服の仕立てを頼んでて、それがそろそろ届くはずだって聞いてたから。
ユリさん、そろそろ来るかなって。
[来客の予定を問われ、答えながら扉の方へと視線を向けた。*]
―ギュンターの屋敷・広間―
御師様?
[聞こえた物>>67にぽつりと零したら、続いて説明と今の仕事について教えてくれた]
へぇ、薬師の見習いか……専門家がいてくれたらみんな安心できるな。
試して、失敗しても得る物はあるから無駄じゃないしな。
いい御師さんみたいで何より。
[エーファの家族の事まではあまり覚えてはいないし、態々触れることでも無いけれど。
籠もっていた、と言う彼が変わるきっかけの一つだったのかもしれないと。
村を離れていた月日はそれぞれを成長させるのに充分な時間だったと改めて実感して。
来客の予定を尋ねたなら、仕立て屋が来る予定と聞いて、その名前に首を傾げた]
ユリさん?
[やっぱりすぐに思い出せなかったのは、馬具職人の息子と仕立て屋が結びつかなかったからかもしれない。*]
─ ギュンターの屋敷・広間 ─
まだまだ半人前以下だ、って良く言われるけどねー。
ま、火傷切り傷の手当てくらいはできるけど。
[向けられる言葉>>68は苦笑い。
人命に関わる技術は、それ故に妥協を許されない。
半人前扱いにすら、いつ到達するやら、という感じだった]
ん、ああ……ユリアン……ユリアン・トラウゴットさんね。
わんこ連れた服屋さん、じっちゃん、結構お気に入りみたいなんだ。
[大雑把な説明をすると、黒猫がぴくり、と身じろぐ。
それまでのお澄ましはどこへやら、何やらそわそわと落ち着かない様子は、少年には見知ったもの]
あ……モリオンがなんか感じてる。
もう来てるのかな?
[黒猫がそわそわするのは、大抵は仕立て屋の愛犬が来ている時。
だから、来てるのかな、と首を傾げた。*]
―ギュンターの屋敷・広間―
半人前以下とは厳しいね。
でもそれくらいじゃないと薬師とか職人は務まらないのかも。
俺もよく怒られるし。
[音楽なら多少のミスも味の一つで誤魔化せるが薬はそうは行かない。
そう考えれば彼の師匠の厳しさも納得が行くところだ]
ユリアン……トラウゴット…
[告げられた名前>>69を反芻して記憶を探って]
って、馬具職人さんのところの、かな?
そうか、あの子は仕立て屋になったのか……
[男が村を出た十年前は、ユリアンはまだ少年だったし歳も少し離れていたから、あの頃と今を比べてしみじみと時の流れを実感する]
ギュンターさんのお気に入りか、お得意様が居るなら安心かな。
んー?
[話している最中に黒猫がそわそわし始め、それが件の来客の印と聞けば頷いて。
もうそこまで来ているのだろうかと、扉の方へと視線を向けた。**]
6人目、画家気取り カルメン がやってきました。
─ 自宅 ─
…悪いけれど、私はここを離れる気は無いの。
帰ってもらえるかしら。
[油絵特有の臭いが鼻につくらしく、眉を顰める相手を見遣る。
キャンバスに向けた絵筆を止めないままに投げかけた言葉も、相手の気持ちを逆撫でた様だった。
無言でこちらを見据えるのを幸い、自分も口を閉じて筆を動かし続け。
痺れを切らした相手が再度口を開いたのと、絵筆を置いたのはほぼ同時]
─ 自宅 ─
…申し訳無いけれど。
お客様の所に届けに行かなければいけないから、そろそろ帰って頂けるかしら。
[相手が話し始める前に、描きあがった肖像画を手で示しながら退室を促す。
納得いかない様子の相手に、それでも女は態度を崩すこと無く]
そろそろお帰りにならないと、雪で道が塞がれるかもしれなくてよ。
[日が暮れれば帰路が危うくなるかもと言外に告げると、男にも意図が伝わったようで。
二度、三度と何か言いたげに口を開き、閉じた後]
─ 自宅 ─
「わかった、今日はこれで帰ろう。
……しかし、君程可愛げの無い女は初めてだ。
なるほど、婚約者に逃げられる訳だな。」
[そう言葉を吐き捨てて相手は出ていった。
その背中が閉まる扉で隠れると、ただ深く、長い息を吐き出して]
……お父様達も、これで懲りてくれると良いのだけれど。
[両親が選んだ見合い相手を送り返すのはこれで何度目か、と遠い目をした後緩く頭を振った]
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