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[肩で息をしながら振り返った。
一応の警戒もあって、2人の間に立つ]
すいません、ももさん。
けど、瑶は昔っからこうなんです。
今に始まったことじゃない。
……もーちょい笑って欲しいなとは、常々思ってるんで。
[正気を取り戻したらしい相手に、頭を下げた。
笑みは上手く作れただろうか]
あー、大したことないんで。
[本当は結構深い傷だったけれど、気にされれば軽い調子で断った]
[百華が巫女の方へ目を向ける。
緊張の糸が切れたように、どさりと座り込んだ]
……怪我、ないか?
[瑶子に尋ねながらも、朦朧とし始めているのは己の方。
右手には固まりかけた雪夜の血。
――『憑魔』の血。
視界が捩じれ、歪んで、
掌に舌を這わせた]
……ク。
ざまぁ見やがれ。
[微かな声。
わらいを含むそれは、瑶子にだけは届いたかも知れない。
掌に作られたばかりの傷口は、既に*塞がり始めていた*]
─繁華街・瑞穂の家─
[鍵をかけ忘れたままになっていた幼馴染の家。
その中へと入り、二階へと上がる。
寝床を用意してもらうと、そこに従妹を横たえ、上掛けをかけてやった]
……千恵……。
[怯えた悲鳴。
至近距離でのあの悲鳴はかなり耳に来た。
それだけの恐怖を味わったと言うことなのだろう。
オレは口元をマフラーで隠し、ほくそ笑む]
[隠した笑みを消し去ると、オレはしばらくの間、従妹の傍についていた]
─繁華街─
[あの惨劇から数時間、各人が各々の行動を取った後。
オレは幼馴染を散歩と称し外へと連れ出す。
危険だ、などと言われたなら、護ってくれるんだろ?と強引に言い包めた]
[そうして中央広場が近付いた頃、オレは移動の足を止める]
……なぁ、瑞穂。
お前、本当にオレの事、護ってくれるのか?
[幼馴染の方を見ないまま、オレは訊ねる。
彼女はどんな様子で是と答えただろうか。
問いも唐突なもの、警戒されたかも知れない。
けれどそんなことはどうでも良かった]
護ってくれるんならさ……。
オレにそのチカラ、くれよ。
[風切り音を奏で、オレは鉤状にした右手を振るった。
見た目はそのままながら鋭さを持ったそれは、幼馴染の喉元を抉る。
柔らかい肉と細かい骨が右手に残り、幼馴染の喉からは鮮血が舞う。
その鮮血から逃げるように、オレは幼馴染の傍から飛び退いた]
……っは、流石、司は美味い。
溢れてきそうだ。
[抉り取った肉と骨を口へと放り込み、手についた赤を舐めとる。
噛むごとにゴリゴリと骨が砕ける音がした]
その源を喰ったら、どれだけのチカラが得られるかな。
瑞穂、お前の全て、オレにくれよ。
死んだらチカラをくれるって約束、果たしてくれ。
くはははははははは!!
[もはや物も言えないだろう幼馴染は、どんな表情をしていただろうか。
オレが憑魔と知ってどんな思いになっただろうか。
そんなことはオレが知る由もない。
愉しげな嗤い声が響く。
ただ、司を喰らえる悦びだけがオレを支配していた]
[その後の攻防は一方的に近かった。
司だけあってただやられてはくれない。
けれど先の一撃と、相手がオレであることからか、幼馴染の動きは鈍かった。
オレは特化された能力──スピードを活かしHIT&AWAYを繰り返していく。
時折反撃を食らったりもしたが、相手に比べれば大したダメージでもない。
身に刻む傷に構うことなく、オレは両手を──空気を圧縮した爪を振るった。
腕を、足を、腹を、背を。
接近する度にどこかを一か所ずつ削ぎ落としていく。
その度にオレは血肉を喰らい、チカラを増して行った]
苦しいか、瑞穂。
オレに嬲られるのは悲しいか?悔しいか?
そろそろ楽にしてやるよ。
あまり長引いて誰かに見られちゃ敵わねぇ。
あばよ、瑞穂。
[歪んだ笑みを張り付けて、オレは幼馴染に顔を近付けた。
その至近距離から軽く地を蹴り、脇をすり抜ける]
約束通り、チカラは貰ったぜ。
[そう言って、オレは右手に掴んだ生の塊に齧り付いた。
鼓動を失った幼馴染の身体は、ゆっくりと前のめりに倒れて行く。
幼馴染の左胸に空いた穴から大量の滴が零れ、地面を彩って行った]
一人でやらなきゃならなくなったのは面倒だが、愚痴ったって何も始まらねぇ。
次はどいつが良いかな。
[生の塊を喰らい切ると、手についた赤を舐めとる。
受けた傷は得たチカラも相まって既に塞がっていた。
ひゅん、と風が振り切れる音が鳴る。
あれだけ派手にやっておきながら、服や帽子、マフラーに赤の痕跡は無かった]
[こうしてチカラを増したオレは、演技にも更に磨きをかける。
その場に立ち尽くしているのを誰かに見られたら、こう答えることだろう]
さ、さっき、瑞穂が居ないのに気付いて窓の外見たら、何かを追いかけるのが見えて…。
様子がおかしかったから、後を追ったら……!
[駆けつけたら幼馴染が倒れていて他には誰も居なかった、と伝え、僅かに身体を*震わせる*]
「ひびきは、かわる。
おもいは、かわる。
ゆらゆら、ゆらら。
ゆらゆら、ゆらら。
まよい、まどうは、ひとのさが。
まどい、まようは、よのならい。
ゆらぎ、ゆく子ら。
ゆくさき、いずこ?」
―稲田家・二階→繁華街・広場―
[カーテンは少しだけ開いていて、その隙間が頬に当たって暖かかった。
ぱちりと目を開けて、ぐしぐしと目を擦る。
傍に人がいても、その人らは眠っているようで。
百華が居たとしても、その姿をぼんやりとした様子で見ていた。
誰も起こさないように、そばに置いてあったうさぎ背負い絵本を手にし、そっと一階へと降りてゆき、一人で外に出る。
ぽてぽてと、散歩するように外を歩いた。
朝日はゆっくり地表を暖めてくれるけれど、空気はまだ冷たく小さい体を包み込む。
はーっと、両手に息をふきかけ、まっかな指先を暖めた。
少し先にある広場に立つ。
そこで昨晩何が起こったかなんて知らぬまま。
どこかぼーっと、辺りを見ていた。]
―繁華街・広場―
[視界の隅に何かいた。
そちらへ動く。じっと奥のほうを見ると、そこには動かぬ小さな猫がいた。
あの時見つけた子猫なのか。
そんな事は、知らない。]
………ひょーま?つかさ?
[じ、と。子猫を見つめてそう問うも、もう、みぃという答えすらない。
きょろと辺りを見回して、地面に転がっていた少し大きな石を見つけると、大事な絵本を脇に置き、石を両手に持ってきた。]
ひょーま、つかさ。
[ぶん、と
石を
大きく
振りかぶって]
(―――――――――――ぐちゅり。)
『み゛ぎぃ、っ』
[小さな命が最後にくぐもった声をあげた―――ような気がした。
それで最後。
少し大きい石を持ち上げると、頭を潰され目が飛び出た肉塊が転がっていた。
ぺいっと、石をその上に捨てる。
どすっと鈍い音がして潰れて、血が反対側に少し飛んだ。量が少ないのは、きっと時間がたっていたから。]
いっぴき、かなぁ?
[無邪気な問いはうさぎしか拾わない。
そのままじーっと死骸を見ていると、それはふいにゆらりとした桃色の陽炎に包まれ消えていった。]
?
[きょとん。不思議そうに、石を持ち上げる。そこには血の痕跡が残っているだけ。
桜は正しく、子猫を輪廻の輪の中へと導いた。]
あっ!そっか!
これが『かえす』、なんだ!
[ぱぁと、理解できた事にとても嬉しそうに笑って、手についた血を石でぬぐって落とした。
そのままててっと戻り稲田家に入り、真っ先に洗面所で手を洗うと、した事の跡は綺麗になくなる。
そうしてそっと二階に上がると、うさぎを座らせ、もう一度布団に潜りなおした。]
……ちえおなかすいた。
[だれか居たなら、そう言い起こす。
昨日のことを大丈夫かと言われたら、ちょっとびくっとした後眉毛を下げ、小さく小さく大丈夫と言いながらこっくり頷くだろう。]
[こどもは賢くあざとい生き物だから。
そうしようと、本能が動く。
それは演技ですらもない、子供の仕草。
空腹も怯えも帰りたいも大好きも、全部嘘ではないのだから。
何かが変わってしまった、けれど何も変わらない。
うさぎは全部を見ていたけれど、なんにも言わずに*黙ったまんま。*]
―中央公園/夜―
[返される叫びに、微かに眉を寄せ。
始まる『還し』の舞、それをただ、静かに見つめる。
舞に込められているものはわかる。
わかるが故に、言葉はなく]
……は。
因果な、もんだ。
[口をついたのは、吐き捨てるような言葉]
…………。
[視線を巡らせる。
百華は一先ず落ち着いた様子。
ただ、今の一連の出来事の中でも表情の変わらない黒江の様子は、妙に引っ掛かった。
無口無表情は近所付き合いでそれなりに知ってはいるが。
それにしても]
……ま、とりあえず、だ。
[ため息一つ。
歩き出すのは、神楽が立ち去った方。
公園から離れた辺りで追い付き、声をかける]
神楽。
[声は低く、静か。
慰めるような響きは伺えない]
さっきも言ったが、『司』としての役目を貫くなら、貫け。
だが、『司』はお前だけじゃないってのは、意識にいれとけよ。
[同じ『司』を信じろとは言わない。
頼れとも言わない。
ただ、他にもいる、という、それだけははっきりと言える事実を告げる。
裏側には、先にも投げた言葉が潜んでいるのだけれど。それは、表に出す事なく]
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