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わたしが見たのではないからわからないけれど。
あの人に聞けば分かるかもしれない。でも……旅の途中だったし、今はどうやっても無理ね
[先に添えられた言葉には、気付いたのか否か]
…そう思われますか?
[見つめる先――青年に返されるのは、否定も肯定もしない言葉。
左の手が右の袖の辺りに少しだけ触れ、離れる]
……さて。
私は、あの子の元に戻らなければ。
書置きだけはしておいたのだが、心配で心配で。
[花籠と聖書を持ってがたんと立ち上がり。]
貴方も。
大事な人の所へ行った方がいい。
もうすぐ夜だから。
人狼が誰を狙っているのか、わからないから。
こんな状況で面白そうだから見に来ました、なんて理由は無いと思います。
[ 足は再び止まり、鍵の持っていない方の手を肩を竦めるように動かせば同様に影が揺らめく。口許には何時もの如く苦笑めいた表情が在るのだろう。]
……本当に人狼とやらが居るのならば、何んなにか上手く化けているか解らない。
用心の為、或いは――……
兎も角、其れを欲するのは極自然な事だと思いますが。
[ 少女は知るまいが、其処には先程神父に対して口にしたのと同じ心情。]
―ウェンディの部屋―
[ドアをノックして、声をかける。……沈黙。
ノブを回すと、あっけなくドアは開いた。]
……ウェンディ?いないのですか?
[部屋を隅々まで探すが見つからず。
立ち尽くしたまま、*途方にくれる。*]
[わたしは神父様を見送る。
その姿が見えなくなって、表情を作るのをやめた]
大事な人は、いないのよ
宿ったあの子を、殺したわたしには…そんな人をた作ってはいけないのだわ
[それでも立ち上がって、二階へ向かう]
あなたは……前にもこんなことを……?
[流れる血は止まっても、今も痛々しい傷跡。
魅せられたように、そこから目が放せない。
信じる。彼女の言葉を胸のうちで繰り返す。]
私は……ネリーを信じたい。
ネリーは、私を部屋に入れてくれた。
狼なら、その時に私を殺してしまうことも出来たはずよ。
でも、あの人は優しかった。
まあ、…興味もございましたけれど、ね。
[変わらず何処か曖昧な言葉。けれど青年の言葉を初めて肯定するような含みがあった]
牧師様…いえ、異端審問官様に頼り切る訳にも参りませんからね。
[その口調は何処か皮肉めいていたかも知れず。
青年の濁した言葉の先には触れない]
[息苦しさを覚えて、浴槽をでた。
洗面器に満たされた冷たい水を顔に浴び、頭を冷やす。
信じること、疑うこと。二つの言葉が頭のなかでぐるぐるまわる。]
―玄関 外―
[頭を冷やしたかったのかもしれない。わたしは外に出る。
あぁ、何もないと思った]
ぜんぶ……
ぜんぶ、ないことなら良いのに
[もしも人狼だったら、死んでしまう指。
それを見ても彼はかわらず心配してくれるのかしら
わたしは目を伏せる]
[ぎゅ、と手をにぎりしめる。
それからなんだか、綺麗なものを見たくなった。]
―→庭園―
[近づくにつれ、耳にとどく歌声]
……そうですね、彼一人に任せる訳にも。
[ 返す言葉にも僅かな含みが籠められていただろうか。少女に向けられていた視線は逸らされ、再び室内を巡り一点で止まるかと思われたが直ぐに逸らされる。]
俺は、此れで。……鍵は此処に置いておきますね。
[ 鈍い音を立てて傍の机へと置かれる赤錆の鍵。辺りに漂う奇妙な匂いの元は此れと同じものか、其れとも――。]
御邪魔しました。
[ まるで友人の宅へと遣って来た訪問客が帰るかの如き気さくさで然う告げれば、何の武器を手にする事も無く*狂気の眠る部屋を後にした。*]
ああ、そうですか。
…此処でのことはご内密に。
[口に人差し指を宛て冗談めかして言えば、青年を見送って。何も手にした様子がないのを見れば密かに眉を寄せたか。
置かれた鍵を手に取り]
ああ、そろそろ夕食の用意をしないと…
[既に聞く者も無き部屋で、独り呟く。どれだけ食べて貰えるか分からないけれど、とは声には出さずに。
錆びた鉄のような、――あの時嗅いだのと同じ臭いがやたらと鼻についた]
[少女は伸ばした手を引いて――]
えぇ。二年前に――
お陰で…私には還る場所も、愛情を注いでくれる両親も全て…失ったわ…
[くすりと――]
[笑みが零れる]
[そしてヘンリエッタの言葉に、少女の視線は揺らぐ]
[円らな瞳に映る情景は――]
[記憶が見せているものなのか…]
ねぇ、人狼が何故…素知らぬ振りして人の中に紛れ込めるか…知ってる?
――彼らも私達と同じ『情』というものを持っているからなのよ?
[くすりと。また笑みが零れる――]
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