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[そんな風に返してる間にすぐ後ろにアナは来ていました。
ドロテアの叫びにドミニクは、振り返るんじゃなく耳を両手で押さえます。]
ぐああ……
[とても二日酔いに響いたようです。
そして少し遅れてのガチャンとか賑やかな音に止めを刺されたのでした。]
あら、あらら。
[ばらばらと崩れ落ちた荷物と、かしゃん、という音に上がるのは慌てた声。]
大変たいへん、大丈夫……って、あら?
ド、ドミニクさんも、大丈夫ですの??
[なんだかいっぺんに色んな事が起きて、ちょっとおろおろしてしまいます。]
あ、わわわわ……
ごめんなさ、 !!
〔謝ろうとしたアナは、こっちを見た木こりの顔に、さっきより、もっとびっくり。
まるい眼がおっきく見開かれたかと思えば、じわじわ涙が浮かんできた。〕
[しばらく歩いていると、遠くのほうから声が聞こえました。
旅人が辺りを見渡してみますと、一人のお爺さんがいるのが見えました。
旅人にとっては初めて見る人です。]
村の人か。
[旅人はそちらに向かって歩いて行きました。]
少し前から、村の宿で世話になっている。
ルイという。
特になにをというわけでもないんだが。
村の見物をさせてもらっていた。
[宿屋でのことは知りませんから、旅人はまずお爺さんに向かって自己紹介をします。
それから、さっきのことばに答えました。]
[宿への道をてくてくと、肩には羊のチーズと羊毛の入った袋を提げて、のんびりのんびり羊飼いは歩きます。その横をちょこちょこ子羊も歩きます]
おやおや?あれはアナとドロテアとドミニクじゃないか。なんだかちょっと大変そうだよフリー。
[道にばらまかれた荷物を目に止めて、羊飼いはちょっと早足になりました。子羊もとことこ駆け足です]
あらら、あらあら。
ドミニクさん、そんな怖い顔をしては……。
[言いかけた言葉は、泣き声に遮られてしまいます。]
ああ、アナちゃん泣かないで。
ごめんなさいね、驚かせてしまって……。
大丈夫じゃねえよ…。
[地響きのように唸り返し、木こりはアナの涙に顔を顰めます。
女子供の泣く声ほど頭に響くものはないと思ったのです。]
………泣くんじゃねえ。
[無理やり浮かべようとした笑顔は変な凄みがありました。
誰が見ても逆効果でしょう。]
[どうしましょうか、と思っている所に聞こえた声。
目に入ったのは、目深な帽子とふわふわの子羊でした。]
ああ、アルベリヒさん。
怪我は……ないと思うのですけれど……。
〔木こりのドミニクのことは、よく知ってる。
だからこわくないってわかっていただろうに、一度、零れてしまった涙は止まらないようだった。
その場にぺたんと座りこんで、わんわん泣き続ける。
それがちょっと収まったのは、アルベリヒ、……の子羊が近づいていて来たときだった。〕
ルイか。そういえば、そんな名前もどっかで聞いたような気がするのう。
わしゃベリエスじゃよ。この村に隠居しておる。
[おじいさんは、今度こそきちんと名前を覚えていたようです]
旅の人か。この村の様子はどうじゃ?
何か困ったことはないかのう?
[旅の人には親切にして、いい気持ちで旅立ってもらわなくてはなりません。
だからおじいさんは、そんな風に問い掛けます]
[次の朝。牧師は珍しく朝から教会を出て、墓地へと向かいました。
そこには沢山の石のお墓が並んでいます。
いくつかのお墓には、お花やお供え物が見られます]
おやおや。
随分と汚れてしまっていますね。
[数日前に降った雨のせいでしょうか。
汚れたお墓を、牧師は静かに掃除しています]
[ドミニクは泣き声にがんがん響く頭を押さえて落ちた物を拾います。
泣き止ませる一番の近道はこれしか思い当たらないのです。]
…オイラ、何も悪くねえぞ。
[やって来たアルベリヒにも、木こりはぼそりと呟きます。
顔が怖いのは生まれつきなので不可抗力と言いたいのでした。]
やあ、ドロテア。怪我がないなら良かったけどね。
しかしこいつはちょっとした惨状だ。
[言いながら、羊飼いは散らばったものをひょいひょいと拾い上げます。子羊が少女の傍にとことこと駆け寄って、めええ、と鳴きました]
あっはっは、その顔は二日酔いだなドミニク。
[ぼそりと呟く木こりの様子に、羊飼いはからからと笑いました]
悪気が無いのは知ってるが、そのしかめっつらは、そりゃあ怖いよ。
二日酔いに良く効く薬草を分けてやろうか?
とってもとっても苦いけどね。
[大丈夫じゃない、という返事に、ようやくドミニクの二日酔いの事を思い出し、いけない、と小さく呟きました。]
ええ、多分、びっくりしただけでしょうから……。
でも、こんなに一度に抱えたら、危ないでしょうに……。
[アルベリヒに一つ頷くと、荷物集めを手伝います。]
……ところで、さっきの何か壊れたような音……は。
……フリー?
〔子羊の鳴き声がしたとたん、アナはぴたり泣きやんで、ふわふわのからだに手を伸ばす。
ぎゅうと抱きしめたら、ほら、泣いたカラスがもう笑った。
割れてしまった油の入れ物のことなんて、頭にないだろう。……すごいニオイ、しそうだけれどね。〕
おや。
うわさにでもなっていたかな。
ベリエス殿か。
[お爺さんが旅人の名前を知っている風だったので、旅人はぱちぱちとまばたきをします。
お爺さんがベリエスと名乗ったのには、ひとつ頷きました。]
とてもよくしてもらっているよ。
宿の食事も美味しいし、蛍もきれいだった。
[問い掛けられたことには、不自由などないと首を振るのでした。]
[少女に抱きしめられた子羊は、ふかふかの頭をすりつけて、また、めえと鳴きました。どうやら少女を友達だと思っているみたいです]
アナは、フリーとエリーをちゃんと見分けるんだなあ。たいしたもんだ。
ととと、割れたってのはこれかな?わあ、こりゃ、ことのほか悲惨だねえ。
……笑うな。
[図星過ぎて言い返せないので、代わりにドミニクはアルベリヒから拾った荷物を取ろうとしました。
配達途中だろうと見当をつけたからです。]
薬草もいらん。舌が壊れる。
どうせならチーズを後で分けてくれ。
切るだけで食えるのがいい。
[牧師はふと、寂しい気持ちになりました。
見ず知らずの旅の人も
飲んべえのお医者さんも
気立ての良い、馴染の店主も
牧師はたくさん、たくさんの人を見送ってきたのです]
皆様、どうか安らかにお眠りください。
[ちょうど掃除を終えた頃、お腹がくぅくぅと鳴りました]
そういえば、この間は女将さんいらっしゃいませんでしたね。
どこかへお出かけされてたんでしょうか。
[女将のご飯を求めて、牧師は宿屋へと向かいます]
……よかった、落ち着いたみたい。
[子羊を抱きしめたアナの様子にほっとするものの、]
ことのほか悲惨……って。
あら。あらら。
[アルベリヒの言葉に、眼鏡の奥の瞳がまぁるくなりました。]
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