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― 少し前 ―
[響く歌に聞き入っていると、僅か、背筋に寒気が走った。
風邪でも引いたのかと、羽織っていた上着の前を閉じた。
そして、私は目を擦った。
こんな季節に桜が。桜の花が咲いている。
そして桜の枝の上には、一人の少女]
危ないじゃない、そんなとこ……!
[ベンチから立ち上がると、少女の傍――桜の傍へ*駆け寄った*]
[ベンチへ辿り着くと、背凭れに体重を預け座り込む。
その状態で一度深呼吸をした]
……始まる、か……。
[小さな呟きは二人に届いただろうか。
母親や童女の話題が聞こえると、背凭れから身体を起こした]
…お袋、仕事のために戻ったかなぁ…。
[碌に周囲を確認していなかったが、そんなことをオレは呟いた]
― →中央広場入口―
さいですか。
[軽く肩を竦めた。
面白いなら笑って頂きたいと常日頃思っているのはさて置き。
やはりその足は広場の前まで来て止まった]
……。
[軽く目は見開かれるが、驚きの言葉はなく。
満開の桜を瞳に映した]
おうか?
[千恵の言葉に疑問の声を返しながら視線を桜の樹の方へ向ける。
童女の姿はもう見えなく代わりに百華の姿が見えた]
あっ、百華さんだ。
[千恵もそれに気づくだろうか]
えー?
だって、せったんはせったんだし。
なんかこー、愛着湧くじゃん?
嫌なら、せっちょんって呼ぶよ?
[言いながら、雪夜が壁を感じられたことには少しため息]
あー。
やっぱ私だけじゃないんだ。
んー。あの、よく私が言ってるような霊能現象の一つみたいなもんじゃないかな?
こんな感じに他の人まで感じられるタイプも珍しいとは思うけど。
[潜めて告げられた単語に、女はやや、驚いたようだったが。
それにはただ、苦笑のみを返す]
……んで?
結局のとこ、どうなんだよ。
[表情を引き締め、問いを重ねたなら。
女は深く、息を吐いて、一つ、頷いた]
「……けれど、始まってしまったからには。
もう、止める事はできない。
貴方も……『見た』というなら、わかるはず。
全ては、力の玉響……『憑魔』と『司』の求める先が定めるもの」
……『憑魔』と『司』……ね。
―中央広場入口―
[はらり。
ひとひら舞い降りてきた花弁に手を伸ばす。
ダメなの、と唇だけが動く]
桜花…って、史兄さん?
[声になったのは叔父へと問いかける部分から]
はじまる?何がはじまるの?
[伽矢の呟きを拾い、そう返すものの。
瑞穂に言われ百華を見つけ、そっちの方に向かってゆく。]
あ、おばちゃ!
[駆け寄り足元に飛びついて。]
ももおばちゃ、おばちゃもさくら、見にきたの?
[すりっと頬をよせ見上げ。
返事にはそうなんだと返しながら。]
ももおばちゃ、あのね。
おみくじ引いてきたの。おばちゃにも、はい。
[握っていた左手の中にあったおみくじを見せ、それを渡した。]
……何が始まるのかは、良くわかんねぇ。
けどああやって言うってことは、何かが始まるんだと、思う。
[そうでなくばこの状態の説明がつかない。
時季外れの桜。
怪異と言える光景。
答えの全てを聞いたかは判らないが、従妹は母親を見つけてそちらへと駆けて行く。
オレは動く気もしなくて、ただその様子を見遣るだけだった]
……結局、非力な一般人にはどうにもできん、って事なんかね。
……っとに……やってらんねぇ。
[吐き捨てるように呟いて、桜から視線を逸らす。
野次馬たちは相変わらず騒ぎ立てているが。
その内、携帯が繋がらない、という声がちらほらと聞こえ始めた]
……え?
[疑問を感じて、出した携帯。
表示されているのは、『圏外』の二文字]
静音さんなら、何か知ってるかな?
[二人の言葉にはそう返して伽矢の呟きに]
いたみたい百華さん。
[見つけた百華のほうに駆け寄る千恵、
ベンチに座った伽矢の隣に気持ち間を空けて座る]
愛着……って。ああもう、いいや勝手にしろ。
っつーか。もう、かれこれ何度目だよ、この遣り取り。
ちなみに、せっちょんなんざ呼びやがったら、頭握りつぶすぞ。
[ぺたぺた不可視の壁を触りながら、そう答える。]
……霊能現象、か。ちっちぇ頃からしょっちゅうお前から聞いてたし、実際俺もそういうこと扱う物書きになったが。
…………まさか、自分が遭遇することになるとはねぇ。
──本当は解ってる。
何が始まるのかも、何を始めるのかも。
[従妹には伝えなかった言葉]
言おうが言うまいが、オレがやることは、変わらない。
だったら、知らずに居て欲しい──。
[蝕まれたココロに残る僅かな良心。
従妹を想うそれも、消えるのは時間の問題か]
……電波障害、か?
[小さく呟いて。
女はといえば、また桜を見つめて動かなくなってしまったから、声をかけることはなく。
どこかで電波が入らないか、と入り口の方へと移動してやく。
しかし、どこまで行っても表示は変わらず]
……なんだよこれ……って。
お。あれは史さんに黒江嬢。
[その内、知り合い二人が連れ立って来ているのに気がついた]
―中央広場入口―
……。
[瑶子からの呼び掛けに反応するのはやや遅れる。
瞬き、我に返ったように隣を見て]
あ、……え、なに?
[尋ね返した]
……怪異に詳しいなら、知ってるんじゃねぇの?
[幼馴染の言葉にはどこか気のない返事。
彼の巫女をあまり信用していないと言うのが伝わるだろうか]
……も、帰っかな。
………は?
んだよ、これ。
[呟きながら、ポケットに入れていた携帯を取り出した。
時間を確認しようとしただけだったのだが、『圏外』の文字を見つける]
おい、瑞穂。
お前の携帯どうなってる?
[周囲でも繋がらないと言う声がちらほらと聞こえる。
おかしいと思い、オレは幼馴染にも訊ねた]
何度目も何もせったんが気にしなければ、いっつも次は無いわよ。
いつまでも、あだ名で呼ばれるのは仲の良い証拠だと思いなさいな。
きゃ。頭捻りつぶすですって。怖ーい。
[大げさに怖がって見せてから、もう一度不可視の壁を見つめる]
こういうのは結構すぐ隣にあるんだけど、普段はたいしたこと無いから気づかない人が多いんだけどね。
そういえば、ちょっと前にうちの庭におじさんの頭が半分だけ出ていたことあったっけ。
なんか野良猫がぺしぺし猫パンチしてたら、泣きそうな顔してたけど。
まあ、そんな話はいいとして、さすがにこれはちょっと大掛かりだよね。
一応、中央にある桜がこれの原因らしいんだけど、ちょっと一緒に近くまで見に行ってみる?
[さすがにここから500m離れていると、桜の樹はよく見えない]
[にこにこ、百華と話ていたら、程近くに怖い人がいてびくっとなる。
すすす、と百華の陰に隠れたが、向こう側に知った人ひとり。]
あ、ひふみおじちゃ。
[『おじちゃん』呼びは、百華に注意されるだろうか。
当の礼斗は、気づかず向こうに行ってしまう。
きょろ、きょろ。
怖い人は桜を向いたまま。
百華はいるが、怖い人はやっぱり怖くて。
もじもじしていたら、百華にそろそろ帰るようにと促された。]
……うん。
[ちょっと寂しいな、とは思ったものの。
一旦、伽矢と瑞穂の所に戻る。]
―中央広場入口―
聞いたのはこっちなのに。
[我に返ったかのような史人に小さな溜息を吐いた。
もう一度尋ねる前に、別方向から声が掛けられそちらを向く]
礼斗さん。
……桜、咲いちゃいましたね。
[手に提げていた布鞄に視線を落とす。
昼前にも持っていた雑誌がその中に入っていた]
静音さん、ああ見えて頼りになるところもあるんだよ?
[伽矢が持つ印象はなんとなく感じ取り返す言葉は神楽がいれば怒られたかもしれないフォローの言葉]
千恵ちゃん置いていけないし、一旦おうちに送ってからかな?
[伽矢の言葉にそう返してから、周囲の言葉と伽矢の言葉に自分の携帯を見てみる]
私のも圏外みたい。いつもならここつながるはずだよね?
[伽矢に尋ねながら満開の桜の方に視線を向ける。
思い出されるのは童女の言葉]
─中央公園・入り口─
[常の状態であれば、千恵の呼びかけにも気づけたのだろうけれど。
意識が他所に囚われた状態ではそれは難しかった。
気づいたら気づいたで、『おじちゃ』呼びにかっくりした可能性は高いのだが]
……ああ、咲いたな、桜。
個人的には、何とも微妙な気分だ。
[黒江の言葉に、ため息一つ。
それから、改めて手の中の携帯を見て]
……ところで、二人とも。
携帯、使えるか?
そう言われましても。
……オレなんか言った?
[溜息を吐かれ頭を掻き、首を傾げる。
それから瑶子の上げた声に、その視線の先を辿り]
あやみん。
[昔馴染みに軽く片手を上げた。
花片が一つ、目の前を過ぎって行く]
頼りに、ねぇ……。
[オレは軽く鼻で笑った。
きっと当人が居ても同じことをしただろう。
従妹についての提案には同意したのだが、携帯についてを返されると、軽く眉根が寄る]
この街ならどこでも繋がるはずなんだけどな。
電波障害でも起きてるんかなぁ…。
まぁ良いや、とりあえず千恵を送ってこう。
[そのうち直るだろうと考え、まずは従妹を送り届けることにする。
丁度、従妹も母親に連れられてオレらの方へと戻って来ていた]
―広場入口付近―
うん。でもいいや。
[何か言ったかと史人に言われ、聞いてもそれほど芳しい答えが返ってこなさそうだと自己帰結してしまった]
ネタになりそうでも当事者になるのはやっぱり微妙ですか。
携帯?
[礼斗の過去体験も知るはずはなく、一般論のように返し。
問われて鞄の外ポケットからシンプルな黒の二つ折りを取り出した]
あれ、こんなところで圏外になってる。
かやにいちゃ、ちえ、もうかえる。
[百華に言われたせいか、大人しく家路につくと言いだす。
家は公園から南、住宅街の真ん中。ここからはすこし遠かった。
ひとりで帰れるが、まだ二人といたくて傍にいる。
促されれば、一人ででも帰るのだが。]
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