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[女性の声がしてイヴァンは視線をめぐらせた。
タチアナの姿を双眸に映せばふっと目を細める]
随分と艶っぽい格好だね。
[タチアナの肩の曲線を男の視線がなぞるように僅か動いた]
……絵を描けなくなるのは嫌だし、ね。
こんな場所じゃ、いまいち筆も進まないけれど、
月が映る夜の湖畔を描くのは好きだから。
[君を描くことも、とまで言わなかったのは、
夜釣りをする影を見ることはあっても、闇の中で
はっきりと彼の姿かたちまで見えている訳ではなかったから。]
……っと、そうだった。まずは部屋を何とかしないと。
君もこれから行くところ、だし――。
難点は何処が空いているか分からない事か。
ネームプレートでも用意するべきかな。
[一夜過ごすためだけに其れをする心算もない男は
ベルナルトに軽口めいた言葉を向けた。
さらりと流れる明るい色の髪に眩しげな表情が一瞬過る]
それなら快く応じよう。
[一拍分、遅れた返事の後]
絵の腕も確かだけど――…
モデルでもやってけそうだよなぁ。
[綺麗だ、と率直な言葉は小さく零された]
下拵えは俺がやれば問題ない。
怪我の心配も減るだろ。
[絵の話をするベルナルトにゆるく頷く]
あー、あの湖に映る月は見事だよなぁ。
描きたくなるのも分かる気がする。
俺にはそういう才能ないけどみるのは好きだから
今度、ベルナルトの描いた絵を見せてよ。
[気安い言葉は紡いで柔らかな笑みを浮かべる]
引き止めてしまったね。
荷物持ったままで立ち話も疲れるだろ。
じゃ、また後で、かな。
[ゆらり、手を掲げて]
[ アレクセイの両親が亡くなったのは、
もう十年も前になる。
その日は、アレクセイの誕生日だったが残念な事にアレクセイは熱を出して寝込んでいた。
その為、隣町に向かうという彼の両親に、ヴィクトールは看病をかって出たのだ。
当時は今より大した仕事はしておらず、休みは簡単にとれたろうか。とれなくても、仕事の合間に抜け出し、顔を見に行く事くらいは出来ただろう。]
[普段着と称するタチアナにクツクツと喉を鳴らす]
俺はその普段着も好きだけど
無闇に男を喜ばせる必要もない、だろ。
[もったいない、と揶揄を知りつつ返す声は普段と変わらない。
女性と深い仲になることを避ける男も
彼女の生業を知ればこそ誘い掛ける事も幾度かあり]
嗚呼、なるほどね。
邪魔をしたなら済まなかった。
[道を譲る心算で扉を閉めて壁際へと寄る]
隣も埋まっていたようだね。
[付け足す言葉は独り言じみてはいたがベルナルトに向けて]
[ あの日あの時、ヴィクトールがするべき事は、
アレクセイの看病をかって出る事ではなく、
彼の両親を同じく引き止めるべきだったと。
自らを責めるアレクセイの前で、
無力さを噛み締めながら、ヴィクトールもまた後悔した。
アレクセイの両親の葬式が終わると、その時のアレクセイの熱を今更引き受けるように、今度はヴィクトールが熱を出した。
病床に伏しながら、ヴィクトールはアレクセイを守れるようになりたいと、強く願った。
その結果は、芳しくない。
無力さを感じる。
ヴィクトールに今出来ることは、何事も起きないようにと願うことだけだった。]
[ もしも、殺す、殺されるとなった時、
自分はアレクセイを守るために、村人達にナイフを向けることが出来るのか。
ヴィクトールは、いまだ*決断し兼ねている。*]
ふふ、そうねェ……
この中では、そんな必要ないかも知れないわ。
[くすくすと、戯れるようにイヴァンに返す。
基本的に村人相手に誘いをかけることはしなかったから、イヴァンに初めて誘いかけられたときは驚いたけれど。
それでも断ったりすることはなく、幾度か夜を共にした]
あら、邪魔したのはアタシのほうじゃないかしら?
部屋が無いなら、泊まりにきてもいいのよ?
[ベルナルトへと声をかけて、扉へと近づき]
それじゃ、また後でね。
[答えを聞く前に部屋に中へとはいる。
答えを聞かないからこそ、ただのからかいであることはわかるだろうけれど。
本気にされてもきっと気にしない]
先代……? 何か、されているのですか?
[ヴィクトールのことに首を傾げて墓守と聞くと感心したように彼女が出ていった方を見る]
スープにしようかしら。
[左手を庇うようにして教えられた貯蔵庫から野菜を手に取り]
こんなに準備までして、村の方達って本当に怖いんですね。
お金に糸目をつけないって言うか。
あぁ――作ってみるのは手かもしれないね。
[真顔でイヴァン>>40に返す言葉は軽口とも本気ともつかないもの。
それからややあって、彼が率直に告げた言葉に対して、
傍から見ても判る程度に、返答に間が空いた。
応じよう、と彼が答えた時、その目を見ていたから、
一瞬の表情の変化には気づいていたし、その意味も今、ある程度察していた。]
僕を描こうという人が居るのならば。
モデルになるのも良いのかもしれないけれど、ね。
[ふっと目を伏せたのは一瞬のこと。
魚料理の件になれば、顔色はまた涼しげなものになる。
下拵えはしてくれるという彼に、ありがとう、と頷いて]
[人恋しさに一夜を共にする事を望んだ相手。
戯れるようなタチアナの声に、どうだろうね、と首を傾げて笑う。
ベルナルトへの誘いの言葉にも軽く片眉を上げるだけで]
邪魔された覚えはないよ。
[部屋へと戻る彼女の背に一つ声を返しおく]
暇を持て余したら、かな。
[ネームプレートに関してのベルナルトの言葉に
少しばかり驚きを表に出しながらもそう付け足した。
聡い彼の視線に、男の双眸が揺れる。
ささやかな動揺も瞬きを挟めば消え失せて]
それは――…
絵が描けない事を嘆くべきかな。
[残念、と告げる声にも軽さが戻る]
礼には及ばない。
じゃ、俺もいくよ。
[ベルナルトへとひらり手を振り男は階段へと足を向けた]
[絵を見せてくれるらしい絵描きに頷く男の表情は
嬉しそうにも見えるものだった。
タチアナのからかいへのベルナルトの反応。
その表情までは見えなかったが声が聞こえ小さく笑声を漏らす。
こうしていれば容疑者であることを忘れてしまいそうだった]
[階段を下りながら過去を思う。
両親の死に自責を抱くアレクセイ。
イヴァンは彼とは対照的だった。
彼の後悔を垣間見れば、責任を感じる事はない、仕方なかったと
慰めようともするのだが――。
イヴァン自身は両親の死に対して責任を感じる事は皆無。
泣きながらこどもの首を締めた母親の姿がちらと過る。
幸か不幸か息を吹き返したこどもが目にしたのは
互いにナイフを突き刺して血の海に息絶えた二人の姿。
何が理由でそうなったかはこどもだったイヴァンに知るよしなく
祖父もまたそれを知らぬと言い続けたから真実は闇の中。
女性と深い仲になる事を避けるようになったのは
首にかかる細い指先が与える圧を拭いきれぬせい。
情を求め他者と関わりながらも
相手に深く踏み込むことも踏み込ませることも躊躇う]
[野菜を手に皮をむき始めると、一度ヴィクトールを見て、全員分作った方が良いのかと野菜の個数を増やし]
みんなの分も、作っておきますね。スープくらいですけど。
[そう言うとジャガイモの皮をむき始めた**]
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