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……きっと、余所者の裡の誰かが
この村に人狼を招き入れたに違いない。
[誰かがそう呟いた。
怪しいのは、二人の女商人。
そして――黒いローブの女]
[女将やアーベル、エーリッヒが居なければ
きっと女の食生活は酷いものになっていただろう。
毎食、クッキーやビスケットだとかならまだ良い方で。
其れを思えば彼らには感謝してもしきれない]
……ん。
[ライヒアルトの眼差しにことと首を傾げる仕草。
思いが言葉にならぬままなら、瞬くのみで問いはせず]
じゃあ、食事が済んだら、
お言葉に甘えてしまおうかしら。
泉での方が効果が期待できそうだけど……
道具が必要なら、部屋の方がいいのかな。
[後半は独り言のように思案が漏れる]
……黒いローブの女。あの女は魔女だ。
[誰かがそう呟いた。
外から、ふらり現れた怪しい小娘じみた女。
彼女が団長と密談したその日のうちに
団長は人狼の牙に引き裂かれたではないか。
そして団長夫人が亡くなった、あの夜。
あの女は遺体の傍らで怪しげな薬を用いて
儀式らしきものをしていなかったか]
そうだ、あの女は魔女に違いない。
そして、邪魔な団長を先ずは殺したに違いない。
[他の誰かが、同意するように呟いた]
[それから暫く、周りの言葉に、耳を傾けたりしつつ
紅茶口をつけ、舐めるようにして少し、飲んだ。]
未だ胃はたまに痙攣していたから、
食事は取れそうにもなく。
チラチラと見るのは、ノーラの方だった。
疑われている事を知っている。
そして、自衛団にひとりを選べと言われている事も
覚えている]
[それから少し後のことになるだろうか。
アーベルの準備が出来れば、まずは無人の部屋へと掃除しに入る。
パタリと背で扉を閉めて、じいと真っ直ぐに彼を見る。
もし相手が人狼なら。
そんなことは、きっとアーベルだって思っている筈だ。
――ミリィとロミと、二人分の刺繍画を広げて見せる]
…ここ、コレ、み、見て。
わ、わワタしは、コウヤって…、ひとの、裡に居るもの、
を、え、描くこと、が、でできルの。
そ、そのタメに、そのヒトの、か、髪がイル、の。
だ、ダカラ、掃除の手伝い、し、シタイの。
[言わずに黙って探すことも出来たかもしれないが、
騙すような事はしたくなくて、素直に話す]
[じっと相手を見て、返事を待つ。
アーベルが了承する事なければ引き下がる積りだが、
何度かは食い下がることになるだろう。]
じ、人狼、みつけた ぃノ。
モウ、―――ま、周りデ人 ヲ。
し、な せせたくない、ノ。
[ぽつり ポツリと落とす言の葉。
発音も辿々しくなり始めた声は、ゆっくりと紡がれる。
食い下がっても断られれば諦めるし、アーベルが了承してくれたとて、また、掃除要らないと札が掛けられている部屋は無理だろうが―――誰の部屋がそうなっているだろうか]
――ならば、殺すか?
[誰かが意を決したように、呟くのに]
あの魔女は、人狼を見つける手伝いをすると言っていた。
その言葉が本当ならば、我々は取り返しのつかない過ちを犯すことになるぞ。
[他の誰かが答えた。
団員たちは口々に言葉を重ねる。
彼らとて、村の護り手としての自覚はあるのだ。
疑わしいからと言って、無闇に処刑するわけにはいかない。
結論の出ないまま、沈黙が続く]
どうも、連中は伝承がどうの、御伽噺がどうので
誰を処刑するのか決める心算はないらしい。
……だから、俺が魔女を査問しよう。
[そう口にして、食堂で話し合う人狼の嫌疑者を鼻で笑ったのは、
秘薬を調合するベアトリーチェを問い詰めようとした団員だった]
その結果で、どうするか決めればいいさ。
[ベアトリーチェに遣り込められた団員に
査問をさせるのは危険だという意見もあったが
人狼を招き入れた魔女かもしれない彼女と対する怖気が
結局、彼の言を受け入れることとなった。
――それが、悲劇を生むとはしらずに]
[梳き撫でるエーリッヒの手はいつも優しい。
その優しさが年下の者に惜しみなく注がれるものと思えば
甘えてばかりではいけないような気もして]
本当に何ともないならいいけど。
エリィは自分でも気付いてないことあるでしょう?
[だから心配なのだと呟いた。
見抜かれている事をイヤとは思わない。
何処かで安堵しているのは、隠し事をするのが辛いから]
――…ありがと。
今はまだ、こわくて、言えないけど
いつか――…、言えると思えたら、その時は聞いて。
[付け足された言葉に薄く笑んでささやかな声を向けた]
[半刻程が過ぎて、血に染まったナイフを手に戻った男に
他の団員たちは、顔色を蒼白にする]
……なんて、莫迦なことを。
[呻く副団長]
仕方ないだろう。
あの魔女、あの夜と同じに、俺を小馬鹿にしやがった。
俺たちに協力する気なんかないんだよ。
[男の開き直りの言葉に団員たちはざわめくが。
魔女は何れ、処刑されていただろうと、自分たちを納得させるように頷きあう]
[運び出される、ベアトリーチェの遺体を見る者があれば
白くたおやかな喉に走る、致命傷となった
深い裂傷に息を呑むだろう。
そして、人狼嫌疑者には、ベアトリーチェは人狼に協力している疑いがあり、拘禁を試みたが逃亡を図ったため
速やかに処刑を行なったと、ただ、それだけが伝えられた**]
[広間で、紅茶を貰った後、
話をしたりもしただろうけれど、
それは割愛する。
男はベアトリーチェがどの様に死者を判ずるのか知らない。
ただ、顔を見ない事を心配に思っていたのは確かで]
アーベル、ベアトリーチェの部屋って何処だ。
後で見舞いするわ。なんか持ってく食い物とかあれば持ってく。
付き合いはお前よりは長いんだから、下手に知らない奴が行くよりは良いだろ。
[そして男がその部屋に行った時、
――既に、遅かった]
[団員の一人がウェンデルに気付き、説明をする。
曰く、人狼に協力している疑い。
曰く、拘束を試みたが逃亡を試みた。
どちらも、男にとっては眉唾物だった]
あんなに体調の悪そうな彼女一人、
お前らは拘束出来ないってのか。
舐めてんじゃねえぞ。
ベアトリーチェは苦しんで――
[琥珀の目には怒りが灯る。
憎悪が。
だけれど、団員達にとっては男もまた、嫌疑者で。
乱暴に押しのけられれば、もうそれ以上の言葉はない。
ただ睨みつけるだけ]
殺してやる。
[彼らの姿が見えなくなった後、
男は、口元に笑みを浮かべた。
呪いの様に、誓いの様に、静かな言葉が落ちる]
――これが終わったら、俺が死ぬなら
其れより前にお前らを殺してやる。
[部屋の様子を確かめる。
血の痕跡はあっただろう。
その後、その部屋をしっかりと閉めて、
掃除をしないようにと看板を掛けて]
――団員から聞いたか。
ベアトリーチェが殺された。
あいつらの言う事の何処までが本当なんだか。
[食堂に人が居たなら其処で、男は続けて伝える。
一つの希望が、其処から無くなった事を]
――ベアトリーチェは、死者を判断する力を持っていた。
真実だ。
[何か言われたら、その都度返事はした事だろう。
だが、暫くすると、男は家に一度戻ると言った。
部屋は荷物があるからそのままで頼むと、アーベルには伝えた。
一晩を過ごすのは、自宅で。
視線はあったけれど、男は気にも留めずに。
本の積みあがった机から取り、ベッドの上で読む。
何度も読み重ねたページは、擦り切れている。
タイトルの無い、本]
[翌朝の目覚めは、早かった。
タイトルの無い本は小さな袋に入れ、宿へと持って行く。
そんなに早くから、珍しくも起きている事に何か言われたりしたら、
笑って返す]
寝れてねーの。
[白に走った赤い色が、脳裏に*こびり付いている*]
[声の調子にも軽く怒りは滲んでいた]
ベアトリーチェは甘そうだったな。
残念だ。
……人間は
あいつらは愚かだ。
自分から生き残る術を消しやがった。
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