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愉快なハナシだな。
[ 何方に向けたものか、言葉とは裏腹に興味の成さそうな様子で囁く。]
人間にとっては自らが、人狼にとっても自らが、……“正義”か?
[ ならば、自身は何方なのだろう。
人狼として生を受けながらも、人間として生きてきた己は。獣の力を持ち人の心を持ち、更に尚も半端な、ハーヴェイ=ローウェルと云う存在は。]
そうやって人間は、お互いに疑い合い、殺し合う。
そうやって滅びた村を幾度も見ましたよ。
[それは、己もその中で生き延び、滅ぼしたということで。]
『人狼審問』は村の外れにある、吊り橋一本を隔てた山の中にある建物で行われていました。
その建物は非常に頑丈に出来ており、窓は嵌め殺し。容易に脱出など出来ません。
そのうえ、不測の事態が起これば吊り橋を燃やすだけで。
すべて、丸く収まるのです。
多くの村人達はこの建物――『集会所』と呼ばれていたそうです――の存在を知りません。
何故なら、そこに送られた者のほとんどは。
……生きて、帰ってこないから。
[くすり。
ルーサーが、笑ったような気がした。]
[途中から入ってきた彼には、広間に満ちる空気はよく判らなかったけれど。なんだか邪魔をしてはいけないような気がして、そのまま扉横の壁にもたれて静かに佇む。]
[赤い髪の少女の眼差しと、金の髪の少女の微かな微笑に、ひとつ瞬いて。
自分と年の代わらない少女達に心配はかけたくなくて。
「だいじょうぶ」と口の動きだけで伝えて、微かに口の端を上げ笑みを形作った。]
[少女はルーサーの昔話に、嘆きの念を込めた溜め息を漏らす――]
無実の…罪で――
[語られた内容は、少女が事実体験してきた物と然して変わらず…。
ただ、違うのは――少女が居た村には…平和など訪れなかったという点のみ――]
[ 曖昧に頷くトビーを見留めれば其れ以上問い掛ける事も無く、口唇を引き結び黙して神父の語る昔話を聞く。何時の間にか男と少女とが運んで来た花籠は卓上に乗せられ、其の内には幾らかの色彩が覗いていた。死した館の主が流していた液体とは異なろうが、酷く鮮やかな赤は其れをも思わせようか。]
……そんな事が…?
[ルーサーの話にそれしか言えなくて。
そしてふと思い出す]
ホットミルクがダメなのは……
[その、異端審問官は……それは訊く事が出来なくて]
奇しくも同じ状況、
[ 神父の言葉を次ぐように、周囲を見渡して呟く。]
……と云う訳ですね。
[ 組んだ手で隠された口許は歪んでいただろうか。]
……ふふ。
書類上は服毒自殺ですよ。
『無実の人間をも殺した事への後悔』がその動機、だそうです。
[ナサニエルに向かってにこりと笑う。]
[ルーサーの語る、その建物。
それはとても自分が知っている場所のように思えて]
まさか、此処が……?
[知らず、口の中が渇く。
……生きては帰らなかった
それが意味することは……]
……俺達も、同じ…?
[嵌め殺しの窓、焼け落ちた橋。符合するいくつかの言葉。]
神父さんは、人狼審問を始めるの……?
[彼がその服を着ていることの意味は問わずとも明らかだったけれど、それでも尋ねたのは、自分で推測できる事実とは逆の答えを期待していたから。]
[語られた『昔話』に、目を伏せて。しばし、言葉を、さがす]
……そうやって……死んだひとが。
何者か知るために。
必要になったのが……ボクらの一族の力。
人の死を視て。
声を聴く。
霊視の巫女。
そして、30年前でいうなら……それは、ボクの、ばーちゃんだった……。
そういう、事、で、いいの、かな?
[今聞いた話と、祖母から聞いた話と。
二つを組み合わせて出た結論を、問いとして、投げる。
薄紫の瞳は、いつになく、無表情で]
霊師の巫女……?
[聞きなれない言葉に首を傾げ振り向けば、感情の見えない薄紫の瞳。
それははじめて会った日の笑顔とは遠く離れた表情。]
[ 問いを投げ掛けるメイの薄紫を見遣る黒の瞳が僅かに揺らぎ戦慄く。無表情に紡がれた言葉を聞けば、昨晩の彼れが何だったのか、結び付けるのは難なく。]
……其れじゃ。
[ 館の主――アーヴァインの死を視、声を聴いた。然ういう事なのかと、声にはせずとも内心で推測する。……したとて、彼には理解の及ばぬ事ではあれども。]
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