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― 繁華街・稲田家周辺 ―
[礼斗君を見送ってから、私は繁華街に戻った]
鍵、開いてるのね。
……誰かいるー?
[玄関に入り、大きめの声をかける。けれど誰の返事も無い]
伽矢も千恵ちゃんも瑞穂ちゃんもいないか。
[私は、礼斗君が調査の結果を持って来てくれると思い込んでいた。
朝の薄い日差しの中、玄関口に座り込み、しばらく待つ。
けれど、いつまで経っても彼は現れなかった]
―中央広場―
……おそ、われた?
[頭の中は空白に近い。
風にさらわれていく花片。
昔馴染みの身体はもう、亡い。
――還せなかったな。
誰かの溜息が聞こえた、気がした]
[それと共に、少しずつ思考が廻り始める。
少年の言葉が蘇る]
……あやみんに、襲われた?
[もう一度繰り返す。
あり得ない、と思う。
けれどいつだったか、『憑かれる気はない』と言っていた彼が、もし本当に襲ったのだとしたら、それは多分――]
……、
[ぐ、と拳を握り締めて、口を開く]
……へぇ。
そっかぁ。
[発されたのは、少し低い声。
思っていたのとは違う言葉]
どうしてだろうな?
そんなことする奴じゃないと思ってたのにさぁ。
[内側で起こる困惑は、外にまでは伝わらない]
─中央広場─
…あいつがなんつーやつかは知らねぇけど。
急に襲いかかって来た。
[名前を聞く機会は無かった。
聞く必要も無かった。
名を呼ぶ必要が無かったから]
アンタがあいつのことをどう思おうが知らねぇよ。
オレはオレの身を護っただけだ。
[相手の男を見遣る翠の瞳は、昏い]
───繁華街───
[ようやっと道を把握したと気づいたのは、裏通りの銭湯を見つけてからだ]
じいちゃん。死んじゃったのかな。
[そう呟くが、すでに感慨は無い。
今の神楽に、誰かの死などはどうでもいいことだった]
……。
[銭湯を通り過ぎ、人の集まりやすい中央公園に向かって歩いていく途中、何処かの家の玄関で人の気配]
───。
[今、誰かがいるということは、4人の中の誰か。もしも、伽矢か千恵ならば非常にまずいと思い、神楽の警戒しながらそれに慎重に近づき、相手を見定める]
……。
[果たしてそこで出会ったのは、幸か不幸か。人間の可能性が高く、3人グループの1人である百華の姿。しばし、どうしようかと思い悩んだ末に、神楽がそれに近づいていった]
どうしたんです?誰かと待ち合わせですか?
[何度も使える程便利じゃないと、礼斗君は言っていた。
きっと時間がかかるモノ。そう考えて、私は玄関で待ち続けた。
そこへ、コンクリートが擦れる音がする]
礼斗君?
[けれど、かけられた声は女性のものだった]
……あなた。
もういいの? 私の顔は見たくないっていってたのに。
[礼斗君の言う通りなら、この人は司。
警戒する必要はないはずだけれど……
罪悪感が身を強張らせた]
……へぇ。
残念だなぁ、信じてたのに。
[肩を落とすその裏で、「下手な嘘だ」と誰かが嘲る]
それ、腕怪我してんじゃん。
大丈夫?
[軽薄に、危機感の感じられない笑みで。
相手の目を覗き込むように見た]
[そのまま]
……あぁ、そうそう。
さっき、消える前にちらっと見えたんだけどさぁ。
[本当は見る暇等無かったけれど、平然と嘯いた]
「あやみん」、心臓無かったよね。
なんで?
[私は彼女を観察する。
公園で会った時と比べ、澄んだ目をしている。
その瞳は純粋な何かを宿しているように思えた。
私はふう、と溜息をつき答える]
待ち合わせ、といえば待ち合わせよ。
―繁華街・端―
[暫く泣いて、目が本当にうさぎのようになった頃、ようやくぐしぐしと顔を擦り泣き止んだ。]
……ここ、どこだっけ。
[鼻まで真っ赤になりながら、きょとと辺りを見回すと、見覚えのある、繁華街端の端だった。]
……にいちゃ、ねえちゃ、おばちゃ。
[未だ瑞穂の死は知らず。
ほてほてと、瑞穂の家へと歩き出した。
誰か帰ってきたかな、と思いながら。]
[百華の言葉に、小さく首を振る]
そんなこと言ってられる場合じゃないですから。
憑魔を全滅させない限り、同じ悲しみが繰り返される。
それなら、憑魔を率先的に殺し、憑魔の可能性の低いあなたを憎み続けるのは、無駄なことです。
そう。
憑魔は全て滅さなければね。
[その時に浮かんだ感情は、仄暗い───喜び。
司として、憑魔を浄化出来るという役割を果たすことへの感情だった]
あなたもそう思うでしょ?
ああ。それから、ひふみん……礼斗を待っているなら無駄だよ。
何故なら───彼は憑魔に殺されたのだから!
[さて。
私は彼女を何処まで引き込めるのか。それがキーポイントだ。
最悪でも3人グループに少しでも亀裂を巻き起こせなければ、その先は難しいだろうから]
.
─中央広場─
……平気。
死ぬほどじゃない。
[訊ねられ、短く返す。
この状況で相手が浮かべる笑みに、オレは警戒するように翠の瞳を細めた]
心臓なら、抉って、潰した。
あいつがもし憑魔なら、と思って。
どこまでやれば死ぬのか判らなかったし。
[本当は喰ったけど、そんなことを言うはずもない。
相手が本当に見たのかどうかを判ずる術は無い。
下手に逆のことを言うよりは、抉った事実を作った方が良いと判断した]
……もう良いか?
オレ、千恵探さなきゃなんねぇんだ。
[会話を断ち切るように言葉を紡ぐ。
一貫して冷静な態度、慎重な雰囲気。
この緊迫した状況で、軽薄な笑みを浮かべる相手と、オレの態度はどちらが異様に見られるのだろうか]
ああ。それで。
[私に声をかける事にした理由を聞き、頷く。
が、憑魔を滅ぼすと口にした彼女の表情が僅か、変わる。
野心旺盛な男のような顔]
ええ、滅ぼさなくては。
……無駄?
[礼斗君がもたらした情報は、私を大分楽観的にさせていた。
それも、続く言葉を聴くまでだった。
――礼斗君が、憑魔を見つける事ができる人が、死んだ。
私は、返事を返す事もできずに表情を凍らせた]
―中央広場―
……あぁ、そう。
冷静なんだねぇ、見掛けによらず。
[あっさりと身を引く。
余計な一言を付け足したのは挑発か素か]
うん。分かった。
引き止めて悪かったな。
[それ以上引き止めようともせず、両手をポケットに突っ込んだ]
[表情を凍りつかせた彼女に畳み掛けるように私は離しかける]
みずちー……瑞穂も、憑魔に殺されました。
名前は知らないけど、無表情な女の子も死にました。
残っているのは、私とあなたを含めて5人だけです。
[さて。ここからは賭けだ]
ねえ。ひふみんは、最後に何処に向かいましたか?誰に殺されたと思いますか?残っている憑魔は誰だと思っていますか?
私でもない。あなたでもない。残るは3人。
ああでも、あのメガネのお兄さんが憑魔ならば、わざわざ数少ない自身の仲間になりそうな人を殺すかな?
それに確か、あの人は何処かで司だと聞いた気がする。だとすると残っているのって誰なんだろう?そこに憑魔はいるのかな?ねえ。誰だと思います?
[史人が司だと言うことは思いつきの嘘だ。真実かも知れないが、今は確証が無い嘘だ。だが、それでも、こう言えば、あの2人に疑いがほんの少し向けられるだろう。
さて、亀裂はどのくらい浮かぶか?]
─中央広場─
アンタも見かけによらず頭のネジ飛んでんだな。
この状況で良くヘラヘラ笑ってられる。
[挑発に乗ったわけではなく、素直な感想。
口は普段から悪い]
[身を引いた相手から視線を外すと、オレは足を動かし始める。
右手にサバイバルナイフを持ち、左腕は力無く身体の横に垂らしたまま。
けれど、その腕から赤が滴る様子は無い]
[オレは男を警戒しつつも、その傍を離れて行く。
捜すにしてもあては無く、どこから捜そうかと考えながら、駅方面の道へと向かい始めた]
―繁華街→―
[誰もいない道をとぼとぼと、うさぎと一緒に歩いてゆく。]
寂しいね。
[うさぎに話すも、返事はこない。
誰もいない。ひとりぼっち。
それはとても寂しくて。
しょんぼりしながら歩いていたから、誰かの声が聞こえた時、ぱぁと明るい顔になった。]
みずねえちゃ?ももおばちゃ?かやにいちゃ?
[てててと、そっちのほうへと駆け出した。]
……何なんだこいつ。
何か知ってるってのか?
いや、喰らってるところは見られてないはずだ。
………警戒しといた方が良いな。
面倒そうなら喰っちまうか。
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