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…うん、でも。
[薬師だった少女はもういない。
医療の知識を持っていた青年ももういない。
それはもう確認するまでもないことで]
お水、欲しいな。
喉渇いちゃった。
[できるだけ普段通りに答えて。
左手に力を入れて上半身を起こしてゆく。
それだけでもかなりの時間が掛かってしまった]
--誰かさんたちの会話--
「よく解っているな。」
『まぁあんだけ言ってればネェ。
ヴィントの兄さん、大層可愛げが出てきたような。
…孤独って、誰でもそうさせてちまうモンなんですかネ?』
「……。」
『返事がない。ただの屍のようだ。』
「死んだからな。」
[一頻り、笑うコエを風に散らした後。
その表情は引き締まる]
……あいつらを納得させられるのは、人狼の死体だけ。
だからって、俺はそのために死ぬ気はない。
[他者のために死ぬのは、彼の最も嫌うところで]
……とはいえ、自衛団連中軒並み薙ぎ払っちまう訳にもなあ……。
[そこまでの力は自分にはなく、何より、その結果が容易に知れるから]
どっかに抜け道、ねぇもんか。
……やっぱ、持ちかけてみるかね……。
[今、ここにいる中で、最も得体の知れぬ人物。
それ故に、何かを知っていそうな人物。
どこにいるかと。
感覚を研ぎ澄まし、気配を追う]
[イレーネの看病を、と言うユリアンに彼女を預けて]
[本当は彼にも休んでいて欲しかったけれど、
「何かをせずにはいられない」と言う様子に押し切られるように]
[クレメンスが用意した食事を少しだけ口にする。
食欲は無かったから、少しだけを]
[彼に対する疑問はあったけれど、彼が何かをするとも思えずに]
……セロリですわね。
[スープの中のそれを見つけ、一瞬黙った後で小さく笑う]
[嫌がらせではなく、彼なりの冗句と受け取って]
どこまでが本気で、どこからが嘘なのでしょうね?
[それを聞いたものはいないだろうけれど]
まぁもういいでしょう。
これだけ片付ければ満足ですよね。ええ満足ですとも
[自分にとってはのことを呟いて]
ああしかし。
どうしてドジなの抜けなくなっちゃってるんでしょうねぇ…。
困ったものです
りょーかい。
[軽く答えて、空の器を手に立ち上がる。
キッチンに入ると、置いたカップの代わりに、硝子の反射する光を辿ってグラスを手に取り、蛇口を捻った。一つ一つの動作に、以前より時間がかかるのが煩わしい。
溢れ出して手を濡らす冷たさが量の多さを伝え、余分を捨てて水を止め、広間に戻る]
どうぞ、……っと。
……花、何か、変わった?
[その後も、そこにいる人々が気になって広間を離れる気にはなれずに]
[彼らを見守りながら時を過ごす]
……システムを、崩す、ですか…。
[その言葉は何の苦痛ももたらさない。
その枷を負わないからこそ、何か出来ることはないだろうか、と]
[そんな事を考えながら]
……そこ、か。
直進すると、厄介、かな?
[人のいる場所、距離。
記憶の中の建屋の間取りと、気配の配置を大体重ねて]
……裏側まわって……かな。
[小さく呟き、移動をし始める。
低い姿勢を取り、広間側を避けるよに。
音もなく、薪小屋の方へと]
―広間―
よぅ。あれから何か変わったことはあったか?
イレーネの容態はどうだ?
[広間に入るってすぐに、そこにいる面々へ声をかける]
[広間の片隅]
[動く気配にそちらを見て、安堵の笑みが自然と浮かんだ]
…イレーネさん、気が付いたのね?
[驚かさないようにそっと、小さく声を掛けて]
[だけど、身の回りの事はユリアンに任せて]
…しかし
どう言って飲ませましょうねぇ
[手のひらのほんとに小粒のそれを見る]
[毒々しい赤色]
[ガーネットの中にあったから変色したんですかねぇと呟いた]
--誰かさんたちの会話--
『規格外で悪ぅございましたヨ。
旦那も災難だったネェ。
まぁ運が悪かったと思って諦めてサーセン。』
「…ところで守護者と霊能者はどこだ。」
『そういやシスターも違うんかぃ。
あの豪快な姐さんはどっちかなヨカン。
…やっぱりあの旦那じゃねーの?』
─薪小屋・前─
[ぐるりと裏を回って近づいた薪小屋。
そういや、ここに割れた皿を片付けたのは何日前だったかな、などと。
そんな事を、ぼんやりと考えつつ]
……なーに、こそこそぼそぼそやってんの?
[それは自分も、な気はしつつ、一応棚上げにして、声をかける]
[窓のすぐ傍で外を眺めていた男には、身を低くして通り過ぎる青年の姿は見えたかもしれない。いや、もっと前からその姿を視界に捉えてはいたか]
イレーネが目を覚ました。それくらいだな。
[けれど、マテウスの問いに答える声は常と変わりなかった]
[外から戻ってきたマテウスに気付き]
先ほど目を覚ましたようですよ。
とりあえず一安心と言うところでしょうか。
[イレーネの容態を問う言葉にそう返して]
でも、早くお医者様に診ていただきませんと。
ここでの治療には限界がありますから。
シスター。
[どうにか身を起こせば、ナターリエの姿。
小さく頷いて、大丈夫だと伝え]
ありがとう。
[戻ってきたユリアンからグラスを受け取る。
冷たい雫は外にも付いていて、指を濡らした]
…どう、かな。
[受け取ったグラスから一口だけ飲んで。
右肩へと視線を落とす。
その1/4近くを欠いても、未だ鮮やかな朱色]
もう、探さな…ッ。
[口にした途端に走る鋭い痛み。
グラスが揺れ、スカートへと水が零れた]
[マテウスの声、それに答えるナターリエとハインリヒの声。
痛みをやり過ごしてから、ゆっくりと視線を巡らせて]
ご心配、おかけしました。
[二人の男性へと小さく頭を下げた。
本当はまだ過去形にできるものでもなかったけれど]
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