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あっはっは、やっぱり坊には、早かったようだねえ。
悪かった悪かった。
[楽しげに笑いながら、音彩の落とした酒杯を拾いあげ、ぽふぽふと頭を撫でる]
ふぇぇ……っ
[心配そうな小兄に、泣き出しそうな目を向ける]
[頭を撫でる大兄を、それから見上げて]
[小兄に頼まれた水を、童子たちが持ってくる。]
[受け取って、ごくごくごくごく、一気に飲み干した。]
笛の音色であったから、其方であろうね。
重なり聞えるは鈴ばかりであったから、
他の者ではないと思うのだけれども。
二度聴かせてくれるのならわかるかな。
時は移ろうているのかも知れぬけれど、
己が感じず周りも変わらぬのならば、
それは移ろわぬのと同じだろうかね。
単なる遊歩のつもりであったけれど、
思わぬ収穫はうれしき限り。
此方は館へ往くけれど、
其方はいずこへ往くのかな。
ありがたや。感謝いたしまする。
…よきお方に助けてもろうたの。
[短く礼を述べ、寄る辺なき身に馴染む舞扇を愛しげに撫でる。
次いで問い返されるよに告げられし言の葉に、琥珀はゆるり瞬く。]
目覚めた時に傍にあったのじゃ。
ゆえに我のものと。
…そなたもわからぬのかえ?
[おなごの弧を描く朱唇を見つめれば、迷い子のように瞳が揺れる。
さあと風が吹き、鶸茶とも青鈍ともわからぬ髪がその面を隠して。]
我は…ゑゐか。えいかじゃ。
それ以外はわからぬ。
戯れが過ぎるよ、烏のにいさま。
[音彩の頭を撫でる様子に、呆れたように言い]
ねえ、甘いもの、あったらわけておくれ?
[やや首を傾げつつ、また、童子らに声をかける]
ねいろ、ねいろと風漣は、甘いものにしよう?
からいものは、風漣もきらい。
[水を飲んで少し落ち着いたか]
[小兄の言葉に、こくこくと頷く]
おらも、からいの、もういいんじゃぁ……
おさけも、いらん……
おら、ふうれんにいさまと、いっしょの、食べとうよ
/なか/
あいだな
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おや、叱られてしまったねえ。
[風蓮の言葉に、首を縮めておどけてみせる]
ああ、甘いものかそれはいい…はて、いや、待てよ?
[ふと思いついた様子で、傍らに置いていた背負い箱の底の引き手を開ける]
[投げかけられた問いに、こくり頷き面を上げる。
主の心根に似たか、素直でない髪を手でよけて、]
そなたが望むなら、拙いながらも奏でようぞ。
他に礼をする当てもないゆえに。
時の移ろいはわからぬが、そなたと逢えたは嬉しく思うぞ。
館というが鈴の音が誘いし所であるなら、我も共に往こうかの。
[リーン…リーン…遠く近く、澄んだ音が響く。]
[音彩の言葉に、こくり、と頷いて。
烏の差し出す水飴を、不思議そうに見る]
……烏のにいさま、どして、そんなの持ってるの?
[身形と飴とが結びつかずか、こんな問いを投げて]
[差し出された棒を受け取って、その言葉を聞くと、嬉しそうに笑う]
わぁ。
からすにいさま、ありがとう!
おら、みずあめ、好きじゃぁ
[しかし、ちょっとまじめな顔で]
……お酒、違かろ?
[警戒しているようだ]
うーむ、どうして持っているのかねえ?
なんとなしに、甘いものと聞いて、ここにあるような気がしたのさね。
[額を掻いて、風蓮に答え、音彩の眼差しには、けらりと笑う]
違うともさ、御酒はこんなに甘くはないよ。
此方だけではなく、
館に居る者は誰も彼ものよう。
[踵を返すと来た道の方角へと視線を遣る]
ただ胸の底に残るは己が名と
「ほしまつり」という言の葉のみ、
なんとも摩訶不思議な事であるかな。
[白を見詰める紫黒は霧の向うを探るよう]
此方は“あやめ”と言うよ、
花の名かそれとも別の名か、
定かではないけれども何方でも今は好い。
往こうとする処はその場所に相違ない、
目指す方角が同じなれば共に歩まぬ手はないね。
ひとりはさみしと言うのだから。
さて、往くとしよう。
〔白を誘うやうに、黒は先へと歩を進む。
二人が並べば色彩はまるで対照で、
辺りを包む白の海の中に在るのなら
風に揺れる髪と天の青とがなければ
水墨画の世界に落ちたやうにも見ゆるか。
りぃん、りぃん。
鈴は誘いを止めずに響き続け、
川のせせらぎも花のささやきも、
歩む音すらもその中に消えてゆく。〕
本当け?
……いただきまぁす
[嬉しそうに笑い、水飴を食べようと。]
[しかし、酒が回ったか]
[こてんと、首を傾げる]
……なんじゃぁ……?
[どこかふわつく世界]
[白に白が眩しい]
[そばにいた着物の端を掴んで、ふらり]
[*意識を手放した*]
…誰も彼も。
ならば御酒を嗜んでいた彼等も、ということじゃろうか。
[昨夜、酒精の匂いを避けるよに休んだことを思い出す。
何ゆえか童達がとは考えることなく。]
「ほしまつり」
ああ、我も。我もその言の葉に覚えがあるやも知れぬ。
不思議や、不思議や。
[おなごが告げる花の名に、琥珀は白を見つめる紫黒を見やる。]
…そうか、似合いじゃの。
[ただそれだけを返し、歩み往くに付いていく。]
……ねいろ?
[急に傾いだその様子に、そちらを振り返り]
あ……。
[一瞬、何が起きたのか、わからなかったものの]
……御酒のせい……?
[思いつくのはそれしかなく、ぽつり、呟いて]
其方が見し者が同じかは知らねども、
そうなのかも知れぬね。
夢か現か幻か、
そのような事も思いはしたけれど、
もしかするとこれは「ほしまつり」の最中かな。
はてもさても、答えは持たぬわけだけれど。
[短く返された言葉にきょとり瞬きくすりと笑う]
それはうれしい言の葉かな。
其方の名の響きはえもいわれぬ。
思いついた字面に己で笑ってしまったよ。
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