[袋を撫でると思い出すことがいくつかあった。]…。[小さく口を開くが声は出ない。それはまだ、形には出来ない曖昧なもの。]…行かなきゃ。[袋は置いたまま、部屋を出て下へおりてゆくと、アベールが壊れて傾きかけていた棚に釘を売っていた。力仕事が大分進んで御満悦な女将を少し困ったような、苦笑するように見て。暫く後、作業の終わったアベールの後をついて宿の方へと向かって行った。]