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「おいおい、また惚気話はじめちゃったよ」
「美人の奥さんうらやましーぜ」
「ひゅーひゅー」
[一人の鉱夫が、気がつけばまた新妻の話を始め、それを周りが茶化している。
そんな会話になりはじめたころ、鉱夫の親分が会話に顔を覗かせ]
「お前ら何時まで話しこんでるんだ」
[そんな声とともに、話の輪が崩れていく]
兄ちゃんも怪我には気をつけなよ。ノーラ姉ちゃん泣かしちゃ駄目だよ。
[笑いながらからかいの茶化しを入れ、その場を立ち去った]
―現在―
はい、それではお大事に。
[熱を出してしまった子供を往診し終わり。
ぼんやりと歩いたら診療所の前を行き過ぎてしまっていた]
……おや。
[立ち止まり、軽く首を振る。
この先には工房と鉱山くらいしかない]
[バケツを持って、今日の給金をもらいに行く]
うー。やっぱりいつもより少ねえなあ。しょーがないか。
[いつもより少ない小銭を手に、鉱山を降りていく。腹も減ったことだし、酒場へと行こうかと歩いていたら、先ほど話題になってた人の姿]
あ。オト先生ー。こんにちはー。
[軽く手を振って、近づいていく]
-昨夜-
[ユリアンと分かれてから、娼館の女将にもう一度服を脱ぐよう言われ、晒し素直に背を向けた。深く残る傷痕には布を当て、浅いそれには傷薬を塗られる。改めて治療を受けながら聞くのは女将の呟き。内容は、あまりユリアンと親しくするなといったようなものだった。]
…どうしてですか?
[見上げる目には困惑が。
女将がユリアンを快く思っていないのは薄々気づいていたが、その理由がよくわからず尋ねた。]
「一人の娼婦に入れ込みすぎると、ロクな事にならないからさ。」
[溜息と共に告げられた理由は、自分には理解できぬもので。
だったら今日の人はどうなんだろうとか思っていたら、「狒々爺とあの子は違うよ」と先に言われた。
ユリアンが駄目で老人が良い理由などさっぱり分からず。
困惑の色を湛えたまま、自分の部屋へ戻りますと軽く頭を下げて女将の傍を離れた。決して頷きはせずに。
後ろで女将が小さく息を吐いた。]
女将さん。
[階段を登る前に立ち止まり、振り返る]
私のしてる事は、いけないことなの?
[素朴な、そして常に胸の中にあるそれを口にすると、女将は緩く、だがはっきりと首を振った。
その答えに微笑んで、今度こそ自室へと下がってゆく。
女将の深い溜息は、自分が部屋へと入ってから為されたため聞こえなかった。]
[部屋に戻るとベットには座らず、傍にある小さな椅子に腰掛け、机の上の袋をなぞった。
この位置からは窓の外が良く見えて。今日も星が綺麗だと思いながら、いつものようにぼんやりとしていた。
ふと、ミリィが言った事、女将の言った事を思い出す。
娼婦という仕事。老人ならよくて、ユリアンが駄目な理由。
そして、幸せの事。
女将はこの仕事は悪い事ではないと言った。だが村の人から感じる、好意的でない視線は何なのだろう。
ユリアンが駄目で老人が良い理由は何なのだろう。
「緑色の空を見た人は幸せになれる」という。ならば今の自分は。]
…幸せ。
[今が?]
…幸せ、なのかな。
[それすらもよくわからなかった。
幼い頃から強制されたような人生しか生きてこれなかった自分には、他の生き方が分からない。
例えばミリィの人生と自分のものを比べる事は出来るが、そもそもミリィには家族がいる。自分にはとっくに失われたものが。
無いものを欲しがった所で仕方なく。
仕方ないと諦めているから、現状のままで。
諦める事と受け入れる事に慣れてしまって。
時折、自分の立って居る場所が分からなくなる。]
[漠然とした不安を覚え。テーブルに置いておいた袋をあけ、中にあった親指ほどの丸い何かをそっと舌に乗せた。]
ん…。
[口に含み、目を閉じる。
暫くころころと飴のように転がした後、ぺろりと舌から取り出して汲み置きの水で洗い、再び袋の中にしまった。
そうすればどこか安心したような顔をして、ゆっくりと眠りに落ちていった。]
[オトフリートの柔和な笑顔を見れば、つられて微笑んでしまう]
ん?俺は元気だよ。ぴんぴんしてる。
今んとこ、先生のお世話になるようなことはしてないって。
[腕をぶんぶんと振り回して、おどけるように言う。
危険な仕事をしているからこそ、心配をかけないように]
そういえば、今日誰かが先生のお世話になったみたいだね。
俺も気をつけないと。
─広場─
[宛のない散策は、やがて、広場へとたどり着く。
昨夜とは打って変わって静かなその場に何となくほっとしつつ。
ふと、見やるのは教会の建物]
……ああ。
そろそろ、時期か……。
[自身の帰郷の切欠となった、父の命日。
それが近いな、と今更のように思い出していた]
お元気そうでなによりです。
ええ、鉱夫の方々はどうも無理される事が多いようで。
[怪我人の話には頷き]
昨夜の方ですか。腕の傷は浅くありませんでしたが、あれなら動かなくなるほどではないでしょう。
新しい鉱脈を探るつもりで無理をなさったのだとか。
医者の立場から言わせてもらえば、安全第一でお願いします、なのですけれどね。
[そうもいかないようで、と苦笑を浮かべる]
―娼館→外―
[朝一で用意された果実汁と薬を飲み、娼館の掃除や各部屋への水の汲み置きなどを始める。
傷を負った身とはいえ、館の中で一番下位にあたる自分の仕事は多かった。
あれこれと働いていると日はすぐ夕暮れ時となり。]
女将さん、夕飯食べてきます。
[そう断りを入れて、宿の方へと向かっていった。]
[かたり。
手にしていた工具が机に置かれる音が鳴る。
集中したお蔭でやるべき研磨は全て終わらせることが出来た]
……疲れた……。
[呟きながら椅子の背凭れに力なく寄りかかる。
酷使した目を閉じ、指で目頭を揉んだ]
……親方、後は終わりだよな?
じゃ飯貰ってくる。
[技師に声をかけてから、日課である晩飯の調達のために立ち上がり、代金を手に工房を出る。
疲れを取るようにぷらぷらと振られた手の指には軽くテーピングが成されていた]
─工房→宿屋方面─
よかったー。それほどひどい怪我でもなかったんだ。
[十分酷い気もするが、動けば大丈夫という認識のようだ]
…確かに、今鉱山の石も結構少なくなってるからなぁ。俺もこの身体生かして細い所の石見つけてるからなんとかなってるけど。
安全第一っていうけど、石みつけないとおまんま食えねえし。怪我しない程度に無理しないとやっていけないんだよね。
[苦笑を浮かべるオトフリートに]
あ。俺は無茶しないように気をつけるよ、うん。
[言いつくろうように、あわてて言葉を付け加える]
[ごそりとポケットに手を入れる。
引き出されたのは先程チェーンを括りつけた小瓶。
水で満たされたそれの中で、ホワイト・オパールがゆっくりと転がった]
…………。
[珍しく口端が僅かに吊り上がる。
穏やかな表情にも見えるそれは、小瓶をポケットに戻すと同時に消えてしまうのだが]
― 広場に続く道の一つ ―
[漂うような歩き方で沿道を進む女性。前から来る村人は彼女を遠回りに避けるようすれ違っていく]
「あ、ブリジットのおねーちゃんだ」
[途中小さな女児がそう言って指差したが、手を繋いでいた母親らしき人物に引かれ、すぐにどこかへと去っていった。女性自身は考え事をしている様子で、その声に反応する事もなくただ広場へ向かい]
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