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[アーベルに緩く首を振る。]
私は、教会には行かないですから。
[正確には、教会には行くなと女将に命じられているからで。それは教会に来ないで欲しいという村側の意向があったからだったが(神父や修道女の意志はそこに加わってはいないようだが、与り知る所ではなく)]
何だか、ミリィみたい。
ミリィもずっと座りっぱなしじゃ筆が進まないって。
[エーリッヒに、幼馴染の言っていたことを反芻しながら。]
自分の内側で物を作ろうとする人は皆、大変なんですね。
[彼女にとって、芸術家と称される人はそう見えているらしい。]
……う〜い。
肩こったあ〜……。
[青い顔で、肩をごきごきと鳴らし、がに股の大きな歩調で、ミリィが気分転換に道を歩いている。
乙女のカケラも無い仕草だ]
……やっぱ、あれだね。
何事も根つめすぎるのは良くないね。うむうむ。
あぁ、……成る程。
[誰の者かは知らない筈もなく、僅かな間、逸らした眼差しは過去を思い起こすように遠くを見た。
視線を戻したときには、いつもの薄い笑みに戻り]
まあ、いいんじゃない。
見えもしないものを信じるという方が難しいし。
……信心深いエーリ兄、っていうのも。
[終わりまで言わずとも解るだろう、と言いたげな切り方をして、緑眼をまじまじと見つめた]
[青果店やら精肉屋やら、もはや顔馴染みになった商店を巡り、挨拶を交わしてにこやかにお喋りに興じ(「エーリッヒの旦那は最近どうだい?」「相変わらずですよ、でも少し上手くいってるみたいです」「あんたも大変だねえ」「いえ、私は全然お手伝いできてませんし」)(いつも通りの日常風景)(和やかなひととき)、気付けば夕暮れが迫っていた。]
今日はお夕飯どうするのかな……。
[一通り買ったものを確認しながら道を歩き。
未だ散策中である主人に思いを馳せる。
だが結局、要らないだろうと判断しても、彼の分まで作るのは無意識の決定事項。]
[小さくのどを鳴らすカインに微笑んで、抱き上げようかと手を伸ばしかけたが。]
ユリ
[カインを撫でていた手を止め、疲れが見えているユリアンに慌てて心配そうに近づいた。]
…大丈夫?お仕事、大変だった?
[そう下から見上げた。]
実際、ただ、ピアノや譜面に向かっていても、求めるものは見えてこないからね。
ん……ミリィもか。
作るものは違えど、あちらもやっぱり似たようなものだろうな。
すぐに「目に見える」という点で、俺とはまた違うんだろうけれど。
[目で見るか、耳で聴くかの違いを思いつつこう言って]
んー……内側だけで作ると、結局は自己満足だから。
そこから、踏み出す必要はあるけれど。
確かに、大変、かな?
……。
[ふと、空を見上げる。
夕暮れの赤い光が、ミリィの紅玉色の瞳をさらに赤くする]
……赤い、な。
もう少しすれば、黒。
緑になるには、夕暮れが終わる一瞬。
それから、なんか色々な要因があるって話だったっけか。
青、赤、黒、緑。
他には何色になるだろ?
[エーリッヒを見つめていたのは数秒、わざとらしく息を吐き出して、ユリアンへと視線を滑らす。
行かない、とのイレーネの言に理由は想像出来たか、重ねて何事かを言う事はせず、「そう」と短く言を返したのみで]
行き倒れる前に、宿まで行ったら?
[心配そうなイレーネと交互に見て、提案した]
ええ、そこが一番大切です。
[酒場の新しいメニューの話など、他愛ない会話が弾む]
では置いてきてしまいますね。
[一言断り診療所の中へ。数分もすれば戻るだろうか]
[ユリアンの様子に、大丈夫なのか、と思いつつ]
ああ。
さすがに、それを忘れたら怒られるから。
[アーベルの言葉に、軽く肩を竦めつつ言って]
俺の仕事は、「目に見えないもの」を追いかける事だけどね。
……というか、何が言いたいのかな、君は。
[一応わかってはいるが、ややジト目になって聞くだけ聞いてみた]
[考え事しながら歩いていたら、なんとなく、店が集まっている方向へ歩いていたようで。
そこで、普段あまり見ない姿を見つけた]
うお。
あそこにいるのは、ユーディットさんじゃない。
[手を振り、大声を出しながら近づく]
おーい!
ユーディットさーん!
略して、ユーディーさーん!
[あまり略されてません]
ん………。
ちょっと、寝てないだけ。
[見上げてくるイレーネに状況を端的に伝えて。
それから思い出したようにポケットに手を突っ込んだ]
…そうだ。
これ、イレーネに。
[引っ張り出したのは小瓶にチェーンを括りつけたもの。
小瓶の中には水と、その中で漂う乳白色の小さな宝石。
宝石が動くたびに、キラキラと何色にも輝いた]
[本当に鞄を置くだけならば、数分ですら必要なわけが無い]
…は。
[しっかりと洗う時間までは無い。
桶にある水に布を浸し乱暴に顔を拭いた。
内に篭る熱を隠すように。表に出てきてしまわないように]
俺は生憎、自分の目で見た事のないものは信じないので。
[芸術家とはまるで意を異にする上、教会から出て来た者とも思えない発言。
ジト目を向けられても、平然とした顔。同じ親から生まれた姉弟で、どうしてこうも違うのか――そんな印象を持たれても、仕方がない]
……御自身の想像力を働かせてみたらお分かりになるかと思います。
[わざわざ丁寧な口調で言い退けた]
[さてそろそろ帰ろうか、と踵を返しかけた瞬間、自分の名前を呼ぶ声に気付いた。
辺りを見回しかけて、前方から手を振り近づいてくるその姿に、すぐ声の主を理解する。]
あら。
[夕陽の赤に彼女の髪の赤が流れて、ああ綺麗だな、なんて思いながら。その声の主の言葉にくすくすと笑う。]
こんにちは、ミリエッタさん。えっと、……略してミリィさん?
[冗談めかして真似っこして返し。]
珍しいですね、こんなところで。
お買い物でも頼まれたんですか?
うん、まってまーす。
[診療所の中に入っていくオトフリートを見送り、しばし外で待つ。
ふと空を見上げれば、きれいな夕焼けの色。
ゆっくりと日が落ちていくのを眺めながら、オトフリートが戻ってくるのを待っていた]
[意識に留まったのは、ユリアンのぼけっとした返事より、その挙動]
さて、と。
まだ行くところもあるので、失礼しようかな。
お客様方、当店にてごゆっくり。
エーリ兄も、程ほどに。
[確りと二人の遣り取りを横目に見ながら、おざなりな挨拶と、エーリッヒに対しては意図の読み取り難い言葉――それは彼の癖であったり、それ以外の事であったりするのだが――を投げ、歩みだす]
< 白猫もまた、尻尾を揺らしてから、*その後を追った* >
……相も変わらず、現実的ですこと。
[ぐしゃ、と金の髪を描きつつ、大げさなため息と共にこんな言葉を吐き出す。
昔から見知った相手ではあるが、こういう所は反りが合わない、と妙にしみじみ思ってしまう]
……端的な解説、ありがとう。
[丁寧語の返答には、低く、こう返して]
お買い物は頼まれてないかな。
絵画モードになってるときは、訳の分からんもん買ってくるって、両親が覚えたみたいで。
おかげで楽してます。わはは。
[何故か、胸を張って言い放った]
ユーディットさんは、夕げのお買い物?
毎日毎日、大変よねえ。
献立考えるのもそうだけど、放蕩癖のあるご主人様が、ご飯食べてくれないんじゃないかってことまで考えなくちゃいけないんだから。
今度、無理矢理縄で縛って家に拘束してみるといいかもよ?
[にひ、と笑う]
あ、そっか。作ったものを、他の人にも分かってもらわないといけないんですよね。
難しそう…。
[そういった漠然としたものは理解しずらい。
もっとも理解するものではなく感じるものなので、分かり難いのは当然なのだが。]
[アーベルの言葉に頷いてよいものか、ユリアンの方を見て。寝てない、には微かに表情を曇らせた。]
そんなに大変だったんだ。…今日はちゃんと寝ないとね。
えっと、なあに?
[取り出されたものに一瞬、何だろうと目を瞬かせ。
それが小さなオパールだと気づくと、わぁと、小さな溜息のようなものをついた。]
綺麗…。あ、でも。いいの?
[工房で研磨したものだろうというのは分かったが、それを自分が貰ってもよいのか、一瞬躊躇う。]
ふぅ。
[首を振る。後ろで無造作に束ねた髪が大きく揺れた]
お待たせしました。
それでは行きましょうか。
[扉を開け、茜色に染まった空に目を細める。
ティルに視線を戻すと、促すように声を掛けた]
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