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[ふっと、眼差しは緑へと逸らされる]
そうか、林檎も、もうすぐ時期か。
シュトゥルーデルが食べたいな。
[声には少し、ねだるような色が篭められた。
視線を手元に戻すと石を詰めた袋の口を結ぶ。断続的な痛みが一瞬強まって、眉を顰める]
…その前に栗が焼きあがるだろうし、行って来っかな。
はァん、アンタも言うようになったねェ。
どうせならその笑顔で村の娘ッ子でも口説きゃァいいのに。
[噂話が増えるのは婆には何よりの楽しみだと笑い返して、手にした石を前掛けのポケットに突っ込む。エーリッヒの視線を受けて、猫が返せと婆の足元に伸び上がった]
おやまァ気前のいいこった。
はいはい、坊はお前にくれるってよ。首飾りじゃなく首輪にするかねェ。
それじゃァ、あたしゃ栗を焼きに行くさ。
診療所の先生に世話になりたくなきゃ、さっさと隠れて手当てしてもらうんだァよ。
言う事聞くいい子にゃぁ菓子を、悪い子にゃ妖精の悪戯さァ。
[ねだる響きに婆は楽しげに口角を上げた]
そうさね、さっさとお行き。
シュトゥルーデルはさ、林檎が手に入ったらなァ。
話の種は他の奴に求めてくれよ。
町に出たがる娘はいても、森に引っ込みたがる娘は、そうそういないんだ。
[芝居がかった溜息をひとつ落とすと、左の指先に紐を引っ掛ける]
はい、はい。
悪戯も面白そうだけど、今は菓子のほうがいいや。
楽しみにしてる。
[手の代わりに振られた火箸と御機嫌そうな猫の尾を見送った後、濡れた草を踏みしめ、人目を避けつつ向かう先は診療所。自衛団長のお叱りを受けることになるか、内密に済まされるかは、*荷物の行く末次第になりそうだった*]
/*
どうでもよいのですが、このノリの原点はグローリア戦記のアリシア姉さんだと今更のように気がついたのですよ。
……箒も従えるようかしら?(待
村の設定が変更されました。
[自宅に戻り、籠を前にどっしり構えてナイフで次々と切り目を入れていく。薪で温めた年代物のオーブンの鉄板に転がし、じっくり焼き上げれば甘い香りが漂い出す]
やれやれ、年寄りにゃ重労働差ね。
だがコイツばかりはやめられんなァ。
[また使う道具を片隅においてオーブンの具合を見ながら茶を淹れる。横一文字に口を開けて焼き上がった栗を一つ、ぱかりと割って味見]
どーせあたしゃ猫舌の熱いの好きさね。
[言いながら焼き栗をオーブンから取り出し、また次を焼きだす。揺り椅子に腰掛けて今度は少し慎重に口に入れた]
ぁっちち!
ふゥふ、んまいねェ。これだから焼き栗は堪んないよ。
お前にゃこの味がわかんないかのが残念だなァ。
[膝に上がってポケットに鼻先を突っ込む猫を片手で撫でて、また一つ。甘い焼き栗に匂いにも猫は退屈そうに欠伸をするばかり*]
―エーリッヒの家―
[窓の外を眺めて、暫くしたら立ち上がる。]
ん、ぼーっとしてても仕方ないね。
エーリ君は戻って来ないし、騒がしいのも気になるし、行ってみようかな。
[メモ帳持って、ペンを挿す。]
[軽く伸びをして、家の外、騒ぎの方へと向かった。]
そろそろ発とうと思ってたのに。
うん、ほら、もう一週間になるでしょ。エーリ君にも悪いしさ。お金なんて持ってないのに、泊めてもらっちゃってるわけだから、これでもちょっとは申し訳ないって思ってるんだよ。
[野次馬おばさんと話をしながら、うんうんと頷く。]
そうそう、エーリ君だって女の子を連れ込みたいかもしれないし。
えー、いくら研究馬鹿って言ったって、彼女の一人や二人、いるんじゃないのかなー? 女物の備品があるか見てきてみようか?
うん、まあ二人いたら浮気だね。
……ええ? いないよ。
ほら、根無し草だからね。前、誰かに一緒に行きたいって言われたことはあるけど、目的地もないって言ったら逃げられちゃったんだからね。
不義理とか耳に痛いよ、おばさん。
[どうやら恋人の話に移った様子。]
実際さ、悪いと思うんだ。毎日毎日男の手料理とか、嬉しくないんじゃないかな。
ええ? 食べたい?
うーん、構わないけど……食材もらえる?
[本日の食材ゲット。]
[ほとんど毎日こんな感じで、食費は乗り切っている。]
じゃあ、作ったら持ってくよ。
わかった、シチューね。了解。
――…でも早く補修されてほしいな。
え? ううん、ここは居心地が良いからさ。エーリ君もおばちゃんも優しいし。ただ、旅が生き甲斐だから、離れるのが辛くなっちゃうのは嫌なんだ。
それじゃ、今日の夕食は作らないでいいよ。持っていくからね。あとでエーリ君の家に、食材置いといて。
[ひらひら、手を振った彼は、現場を離れる。]
[大きく伸びをして、ため息、*一つ*]
やっぱり前の一度だけにしておけば良かったかな。余所者だって忘れたくなるじゃないか。
ほゥれ、栗が冷めない内に届けに行こうかなァ。
ツィムトや、お前も来るんだよ。
[一人と一匹が満腹になった所で、焼き栗を籠一杯に詰めて年代物の家を出る。薄茶の猫は丸々とした腹を揺すり、億劫気に後を追う]
しっかし、祭りの後でよかったねェ。
最中に来てたら実行委員さんらが大泣きだったよ、こりゃ。
今は自然の実りで困りゃしないけど、二次災害が出ない程度に復旧頑張ってもらわんといかんなァ。
……団長さんのケツひっぱたいとくかねェ。
―診療所―
[広場経由で横道に入り、しばらく進むと診療所。
小さな門を潜ると、踊る箒がお出迎え]
ご苦労様ですよぉ、ブルーメ。
でも、あんまり目立たないように、ね?
[もの凄くナチュラルに声をかけてから、診療所の中へと入り。
薬品棚やらなにやらをチェックしていく]
あんまり忙しくないといいんですけどぉ。
お散歩するのに、いい季節ですし。
[暢気に言いつつ、用意するのは傷薬に包帯、当て布に打ち身の軟膏]
さて、とりあえず、これで足りるかしら?
[零れた独り言の答えは、本日最初の患者次第?]
崖崩れだってねェ、お疲れさんだよ。
コイツは皆への差し入れの焼き栗さね。
[手近に居た団員に籠を渡して肩をごきりと回し、発破をかけた]
雪が降る前にゃァ、片付けてもらわんと困るからねェ。
しっかり食ってしっかり働きなァ。
ところで団長さんはまだ現場にいるのかい?
あァん、拾い物を届けに行ったってェ。
そりゃまた忙しいんだか暇なんだか。
張り切り爺さんが腰いわす前に、若いお前等が頑張るんだよ。
それじゃァ、またさね。
[忘れ物の届け先をおぼろげに察して心の中で十字を切り、猫を連れて現場に寄り道する]
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